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2025.11.01

石橋侑磨(モンゴル、ザブハン・ブラザーズ)の挑戦——異国の地で描くビッグピクチャー

昨季仙台89ERSに在籍していたシューティングガードの石橋侑磨が、2025-26シーズンからモンゴルに渡り、ザブハン・ブラザーズというチームでスターターの座を獲得して活躍している。開幕から5試合を終えた1024日、石橋はオンライン取材の時間を用意してくれた。


それまで全くなじみもなかったウランバートルという町では、新たな環境と言葉の壁に加えて、入国から約1か月間のホテル暮らしが待っていた。率直に言って相当タフな状況と思われるが、石橋は開幕2試合目で3Pショット8本中6本を成功させての24得点でブラザーズの今季初勝利に貢献するなど、持ち前のシュート力を武器に早くもインパクトを生み出している。







思わぬオファーにモンゴル行きを即決

——昨季はB1の仙台89ERSでプレーしました。厳しいシーズンだったとはいえ、それまでのご苦労を実らせた形と思っていましたが、そこからどのように海外挑戦の決断に至ったのですか?

仙台での昨季はチームとしても個人としてもすごく厳しい状況で、B1のレベルの高さを実感しました。その後、次の契約オファーを待つ中で、大学の恩師のつながりからモンゴル行きのオファーをいただきました。

自分としては、海外挑戦は夢だと思っていたし、人生で一度あるかないかのチャンス。それも留学ではなくオファーをいただいて仕事として挑戦できるのですから、絶対に貴重な経験になるだろうと思いました。昨季チームメイトだった片岡大晴選手が先にモンゴル挑戦を表明していたこともあって、せっかくオファーをいただいたのだし挑戦したいと思って、もう即決しました。

——しかし、モンゴルのバスケットボールについては情報も少なかったと思います。そういう意味で怖いと感じませんでしたか?

確かに、どういうバスケットボールをするかは未知でした。例えばアメリカなら来日選手やコーチも多いのである程度想像はできますけど、日本でプレーしているモンゴルの選手もいないですし、調べようにもどう調べていいかさえわかりませんでした。だから不安はありましたね。でも、人生の中で絶対にマイナスにはならないと思いました。

——モンゴルに行く前にプロとして過ごした3年半(特別指定選手の期間を含まず)で、ご自分として学生時代(東海大九州)と比べてどんなところを成長させることができたと思いますか?

大学時代は元炳善HCの下、韓国のスタイルを取り入れたパス&ラン中心のバスケットボールで、システムよりもスピード感を重視するスタイルでした。そこからプロになって、様々なシステムを取り入れたスタイルに順応する必要性に迫られました。特別指定選手として入れていただいたライジングゼファー福岡で、それまで全くといっていいほどなじみがなかったシステムを勉強させてもらって、熊本ヴォルターズでの2年目には、規則と規律を尊重しながらケースバイケースでどのようにやっていくかを実践の中で経験させてもらったイメージです。昨季の仙台では、さらに高い強度の中でいっそう規則の多いシステムを遂行する必要があったので、システムへの順応についてはすごく成長できたと思います。

モンゴルのチームはまだあまりシステムに慣れていないみたいで、自分が教えられる部分もありそうです。これまでの経験がすごくプラスになりますね。

——モンゴルでシステムがあまり取り入れられていないというのは、例えばシンプルなツーメンプレーとかシンプルな速攻が多くて、局面を打開する方法もかなり選手に委ねられているという感じでしょうか?

現状はそうだと思います。近年、外国籍のヘッドコーチもどんどん入ってきているので、急激に変わっていくかもしれませんけれどね。

リアクションが大事なスポーツであるバスケットボールは、カッティングのタイミングにしても状況に合わせることが重要ですが、そんな状況で相手ディフェンスの位置をあまり見ていなかったり、ハンドラーのミドルアタックに合わせるコーナードリフトで、相手がどこにいるかをリードせず毎回同じようにカットしてしまったりということがよく起こります。モンゴルの選手たちは、コーチから言われたことをそのまま素直にやろうとするためにケースバイケースの動き苦戦しているかなというのが、僕のチームを見る限りでの印象です。

開幕早々に爆発的活躍

——石橋選手は今季最初の5試合で平均10.2得点。2試合目では3Pショットを8本中6本決めて勝利に貢献しました。今季のご自身のパフォーマンスにはどんな感触を持っていますか?

自分が3Pショットを6/8決めた試合が開幕2戦目。その次の試合も12本入って、その次も50%ぐらい入っていたんですけど、やっぱりそうなってくると相手は自分と得点源の外国籍選手にダブルチームやボックスワンで対応してきています。昨日の試合がまさにそうだったんですけど、自分のところからはもうヘルプに行かずに自分だけを見てフェイスガードです。ほかにノーマークの選手がいようと、その人にパスが入ってもヘルプにいかないんですよ。

そんな状況で4Q終盤にちょっとオープンになった瞬間に決め切れたのは、すごく自分にとってはプラスだったかなと思っています。でも、その中でも自分に必要になってくるのは、ボールをもらった時にどれだけペイントアタックしてチームメイトにキックアウトできるかっていうのが、これからの課題です。3Pショットだけではなくアタックでも点数を取れるようになれるかどうかが、これから必ずカギになってくると思っています。

——日本のスタイルをお手本としてしっかり見せようという気持ちもありますか?

まだまだ僕自身に勉強しなければならない未熟な部分がたくさんありますが、モンゴルの選手から見れば海外の選手で、それはBリーグで日本人選手が外国籍選手に対して考えるのと同じです。だからやっぱり、しっかりプレーしようと思います。でも、日本のスタイルを見せるというより、ヘッドコーチの意図に沿って何をするのがベストなのか、ここはこうなんじゃないかというところを考えてチームメイトに伝えています。

——そこで難しそうなのがコミュニケーションだと思います。言葉の壁にはどう対処していますか?

今、まさしくそこにぶち当たっていますが、僕は以前から英語を喋れないと楽しくないという考えで、中学校の担任だった英語の先生と一緒に勉強していました。それと、趣味がゴルフということもあって、仙台では外国籍選手を連れてラウンドする機会も多かったんですよ。なので、完ぺきとは言わないまでも日常的な英語でのやり取りができています。ただ、チームに日本語の通訳がいないので、英語だけでさらに完璧に喋れたり理解したりできるように、中学時代の先生にも「一つ上の段階の勉強をさせてください」とお願いして、一生懸命やっています。

チームメイトとはちょっとした英語で、できる限り多く会話できるように積極的に自分から話しかけています。日本のお土産を手渡したり、モンゴルでは日本の何が有名なのかと聞いてみたり、少しずつ日々積み重ねています。

——モンゴルの言葉にも対応しなければならないのではないですか?

はい、モンゴル語が基本で、誰もが英語を喋れるわけではないですね。でも、モンゴル語と英語を喋る選手が一人いるので、その選手を介していろんな人と話しています。

──コーチからは、特にどんなことをやってほしいと言われていますか?

当初は「シュート力を求めているのでトランジションで先頭を走ってどんどん狙うように」と言われていました。ところが、開幕3試合でそのヘッドコーチが交代してしまったんですよ。

今はまだ新任のヘッドコーチとまだ深い会話ができていなくて。でも、システムをしっかり取り入れる方なので、楽しみにしているところです。

一緒に出ることが多いアメリカ籍の選手と話すときには、もっとアグレッシブにアタックしようとか、皆がバラバラにプレーしないように私たちが先頭を切ってチームをまとめてコントロールしないとねと話しています。システムが入ってきてわからないことも多いと思うから、僕たちがアシストとなるアドバイスをしながら、こうやれるといいよねと話しています。

──ご自分の持ち味としてはやっぱりショットメイクですよね。

はい、それは変わらないです。同時に、何を求められても対応できるし、システムで何が大事かもある程度のポイントは見てればわかるので、その中で自分自身もステップアップさせながら、プレーでチームメイトたちに見せていきたいです。

──Bリーグでのキャリアで学んだシステムの経験が生きますね。

そうですね。今のところセットプレーもシンプルなものばかりで、Bリーグではシステムと呼ばないようなシンプルな組み立てが中心なので、それをやろうというときにパッとひらめくプレーもいろいろとありますよ。







文/柴田健

タグ: 仙台89ERS

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