Bリーグ

2025.09.29

#8の刻印――長谷川智也(アルティーリ千葉)の不思議な物語

©Altiri Chiba

B22022-23シーズン終盤戦、越谷アルファーズは東地区の首位を走るアルティーリ千葉を猛追していた。415、16日にホームで戦う山形ワイヴァンズ戦を前に7連勝で4313敗の東地区2位。一方のA千葉は、こちらも5連勝で4412敗とし、越谷を1ゲーム分リードして東地区首位を走っていた。


越谷が山形戦のゲーム1に勝って8連勝できた場合、同日A千葉が福島ファイヤーボンズ戦のゲーム1に敗れると44勝13敗で同率となる。翌週4月22、23日はレギュラーシーズン最終節で、両チームが千葉ポートアリーナで東地区王座をかけて直接対決することになっていた。その時点までの直接対決は2勝2敗と互角だったが、得失点差によるタイブレーカーは越谷にあったので、越谷が山形戦で連勝を伸ばせるかどうかは戦況を占う上で興味深い焦点だった。

2022-23シーズン——消えた? 「#8の刻印」

当時、背番号#8のユニフォームで越谷をキャプテンとして率いていた長谷川智也と、この戦況についてやり取りをしたことがあった。ここでキャプテンの背番号と同じ8連勝ができたら相当面白い展開だ。長谷川にそう伝えると、「本当ですね。絶対にそれを実現して見せますよ!」と元気な答えが返ってきた。

しかしその思いはかなわず。注目の415日は、越谷は山形に80-85で敗れ、A千葉が福島を80-74で倒すという結果。A千葉が東地区王座に大きく前進することとなった。

翌日のゲーム2、越谷は61-55とロースコアの激戦を制して逆転地区優勝の可能性をつなぐ。しかしA千葉も福島との接戦を79-771ポゼッション差で制しており、最終節は4414敗の越谷が4612敗のA千葉との2ゲーム差を追って千葉ポートアリーナに乗り込む形となった。

迎えた最終節、越谷が逆転で東地区を制するには連勝しかなかったが、ゲーム1A千葉が91-73の勝利で連勝を8に伸ばし東地区初優勝を達成。それでも越谷は最終戦で意地を見せ、75-70の勝利でA千葉の連勝を8で止め、プレーオフに臨むこととなった。

東地区2位でレギュラーシーズンを終えたその日、不思議な感覚を覚えた。背番号#8の長谷川がキャプテンを務めていた越谷は8連勝できずに崖っぷちに追い詰められ、今度はその越谷がA千葉の連勝を8で止めた。なんだか「ハチづいて」いたからだ。そこで長谷川に、「キャプテンの背番号の物語はまだ終わっていないみたいですよ」と伝えさせてもらった。A千葉の連勝を8で止めてプレーオフ入りしたことに加えて、その1勝を含めて7勝目がB2制覇、8勝目はB1での初勝利。実現すればこれも「ハチづいて」いる。

そんなことを長谷川に伝えると、「なるほど、それでいきましょう! 必ず成し遂げます!」と、このときも元気な答え。「そうなったらいいですね…」ではなく「それでいきましょう!」という歯切れの良い一言から、「自分の運命は自分で決めるのだ」という長谷川の気持ちの強さと天性の明るさが伝わってきた。

しかし結果的に、越谷はホーム開催だったクォーターファイナルで西宮ストークス(現・神戸ストークス)との3試合シリーズを12敗で落とし、B1昇格ならず。長谷川はもう一度B2で、越谷をB1に引き上げる挑戦に立ち向かうこととなった。

長谷川にまつわる「#8の刻印」は考えすぎだったか…。4月15日の山形戦ゲーム1で連勝を8に伸ばせなかったし…? いやいや、考えすぎだろう。しかし、それでも気になって長谷川のキャリアを確認してみると、「おや?」と思う事実に突き当たった。来るべき2023-24シーズンは、長谷川が2016-17シーズンに初めてプロ契約を手にしてから8年目だったのだ。ひょっとしたら、「もう1年待て」という啓示だったのか? この物語にはやっぱりまだ続きがあるかもしれない。ひょっとしたら…。

2023-24シーズン——プロ転向8年目、越谷のB1昇格にキャプテンとして貢献

2023-24シーズンの越谷は、コーチ陣にもロスターにも大幅なテコ入れを図り、念願のB1昇格に向けた並々ならぬ意欲を示した。長谷川は新たな環境でもキャプテンとしてチームをけん引する。背番号は#8のままだ。



©B.LEAGUE





越谷はレギュラーシーズンで思うように勝利を重ねられず、どこか重々しい雰囲気の中で60試合を戦った。しかし最終的には、35勝25敗で東地区2位を確保してプレーオフに進んでいる。ただ、越谷と同じく前シーズンにB1昇格を逃したA千葉が、B2の歴代最高勝率記録を更新する56勝4敗、勝率.933という快進撃で東地区連覇を果たしていた。

越谷のB1昇格は、A千葉がクォーターファイナルで敗退しないかぎり、セミファイナルに勝ち上がった後でA千葉にアウェイで2度勝利することが条件だった。これは、両チームの間に21ゲームもの差があったことだけをとっても相当な「離れ業」と言わざるを得ない。しかもA千葉はホームで28勝2敗と驚くべき強さを誇っていた。30試合戦って2回しか負けないチームを3戦シリーズで2回倒すとなれば、単純に考えても10倍難しい。しかもレギュラーシーズンの直接対決はA千葉の5勝1敗と分が悪かった。

クォーターファイナルでは越谷が熊本ヴォルターズを、A千葉はベルテックス静岡をスウィープ。そして511日、両チームによるセミファイナルが千葉ポートアリーナで幕を開けた。

ゲーム1。オーバータイムの末に97-93で勝利したのは越谷だった。とてつもないアップセットでB1昇格にあと1勝と迫った越谷は、自らの戦い方に自信を持っていたように見えた。そして翌12日のゲーム2にも75-72で勝利。越谷の念願がかなった。

長谷川はゲーム1では出場なし。ゲーム2もコートに立ったのは612秒と短い時間だったが、2本放った3Pショットをどちらも成功させて6得点を挙げ、スティールも1つ記録した。1本目の3Pショットは第1Q残り40秒、16-15と越谷に初めてリードをもたらす一撃。2本目は第4Q残り758秒で、粘るA千葉を60-52と突き放す、セカンドチャンスでのビッグショットだった。短い時間に決定的な仕事をしてみせた長谷川は試合後、「いつもこんなには入りません。自分でもびっくりしています」と歓喜に包まれながら謙虚に話していた。

最終的に越谷は、ファイナルで滋賀レイクスに敗れB2制覇を逃したが、クラブ初のB1昇格という歴史を作って2023-24シーズンの幕を下ろした。長谷川としてはプロ転向8年目の大仕事。確かに「#8の刻印」があったということになる。

さて、長谷川の「#8の刻印」にまつわる物語もこれで完結…。そうとばかり思っていたオフ期間中の6月21日、そうでもなさそうなニュースが巷をにぎわす。なんと長谷川がA千葉に移籍することが明らかになったのだ。

完結するどころか、長谷川の物語は波乱万丈の様相を呈してきた。となると、A千葉での2024-25シーズンにも「#8の刻印」が何らかの意味を持ち続けるのだろうか? ちなみにA千葉との通算成績はプレーオフを含め6勝8敗。新たな移籍先に対する黒星を8で打ち止めにしたということは、何かの啓示なのだろうか?







文/柴田健

タグ: アルティーリ千葉 長谷川智也

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