Bリーグ

2025.04.30

アルティーリ千葉B1昇格のキーマン? 木田貴明が「Ubuntu(ウブントゥ)」を体現するとき

最も恐い「オフボールの木田」は機能するか?

これは1つ前の項目にも関連する内容だが、木田の復調ぶりを図るバロメーターに、カッティングからの得点を挙げてみたい。正確な本数まで並べることができないのは申し訳ないが、木田は今季序盤戦で、バックカットからリバースレイアップを成功させる場面が頻繁にあった。しかしシーズンが進むにつれて、その状況で直接木田自身が得点する場面が減り、エキストラパスを受けたビッグマンやアウトサイドで待つガード陣の3Pショットを狙うパターンが増えてきた。木田の平均得点が徐々に下降線を辿った要因は、調子が落ちたといったネガティブなものよりも、この要素の方が大きかったのではないかと想像する。

カッティング、特にマッチアップしたディフェンダーの意表を突くバックカットからのアタックで得点を量産できるということは、そのプレーヤーがチームオフェンスの中でやりたいことを高いレベルでできている証拠でもある。ボールを持っていないオフェンスのプレーヤーがディフェンダーを操り、裏をかき、一瞬のスキをついてワンタッチで得点を奪うので、常に守る側に緊張を強い、判断ミスを起こさせやすくなるのだ。


木田が復帰後初めてこのパターンで得点したのは3試合目の福岡戦ゲーム1。それがそのまま、木田個人の復調と強い関係性を持っているかどうかを検証するのは非常に難しい。ただ、調子を上げてくる直前の好ましいプレーであったことは確かだ。

木田自身はバックカットからのアタックの意義について、こんなことを話していた。

「バックカットは、狙いとしては常に持っています。相手の見ているところを感じながらやっている中で、相手は間違いなく(自分に得点させまいと)対策してくると思いますけど、カッティングから自分が点数をとるだけが全てではありませんから。オフェンスの流れを1つ作ってスペースを生み出したり、僕が何かをすることによって誰かにオープンのシチュエーションも作れたりするので。自分で点を取るためだけではなく、誰かが点数を取れる、オープンになれることも狙ってカッティングを継続していくこと。これはウチのボールムーブですごく大事なことなので、対策されようがされまいが、続けてやっていくべきオフェンスです」



「あの動きがあることによってスペースが動くので、空いたスペースに誰かが飛び込んでいけます。一番良くないのはボールがずっと同じ人の手に止まってしまって、誰も動かないとき。そこで1つカッティングを入れることによって、回りも動かざるを得ない状況になります。それで僕がフィニッシュまで持っていければ一番良いですけど、相手も対策してくるので簡単にはいきません。これはきっかけ作りですから、ダメだったら次、またその次と別の機会を狙っていけたらと思っています」

この言葉どおり、木田自身が得点するかどうかは、アルティーリ千葉のチームオフェンスで全く問題になっていなかった。それは驚異的な勝率と、リーグトップの平均91.5得点という数字が如実に物語っている。ただ、誤解してはいけないのは、それが木田の存在感不足とは全く違う現象ということだ。逆に、木田がチームコンセプトの「Ubuntu(ウブントゥ=自らの成功は他者の成功があってのものと捉えるアフリカの哲学に由来する考え方)」を信じ、体現しようとしていることが数字と言動に表れているのだ。

木田は「ヘッドコーチも評価してくれていて、『あのカッティングでは得点できなかったけど、ナイスプレーだったよ』みたいな話をよくしてくれるんですよ」とも話していた。

プレーオフで木田のカッティングが機能する状況は、対戦相手が苦境に立たされることを意味する。そこで木田自身のイージーバスケットがたびたび生まれるようなら、相手はかなり厳しい勝負を強いられているに違いない。同時に3Pショットの精度が伴っているとすれば、それは木田のオフェンスの完全復調を示す現象と言えるのではないだろうか。

カッティングはできるかどうかではなく、やるかやらないか。つまり木田自身がコントロールできる部分も多い。とすれば、そこから優位を生んでいくオフェンスのカギは、やはり木田が握っていると言ってよいのではないだろうか。





「闘志満々のディフェンダー」の姿をどこまで見せられるか?

最後にディフェンス面にも触れてみたい。木田がフルコートプレスで出足よくトラップに参加し、相手のファンブルを誘ってルーズボールに飛び込むといった場面が今季何度もあった。また、マッチアップの相手として、アンソニー・ゲインズ・ジュニア(鹿児島レブナイズ)やペリン・ビュフォード(信州ブレイブウォリアーズ)ら外国籍のスーパーアスリートたちと対峙する機会も多かった。

それは、アンドレ・レマニスHCが木田のディフェンス面での能力を買っている証しでもあるだろう。相手の得点源のアタックに1線で体を張ってスローダウンさせる木田の貢献に触れて、レマニスHCはたびたび「木田がディフェンスで戦えている日は、オフェンスでも力を発揮することが多い」と話している。木田が30得点した開幕節第2戦の後もそんなコメントをしていた。

「実は移籍してきてしばらくの間は、『ディフェンスができますオーラ』をあまり出さないようにしていたんですけど(笑)。出場するためにはディフェンスをしないと使ってもらえないので…」というのは木田自身のコメント。面白い表現だが、一方では「エース級であれ誰であれ、自分がマッチアップした選手にはやられたくないというメンタリティーがあります」と負けん気の強さも言葉にしているのが今の木田だ。

いわゆる「50-50ボール」に飛び込む姿勢を含め、木田のディフェンシブな側面での奮闘はチームオフェンスと表裏一体。それがあってこそ、自身のオフェンスはもちろんのこと、3P成功率No.1の座を2年連続で獲得した大塚裕土や、リーグMVPに輝いた昨季から3P成功率を10ポイント近く向上させたブランドン・アシュリーらの得点機を生み出すことができる。これをどこまで徹底できるか? これもやはり、木田自身の闘志に掛かっている。



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果たしてプレーオフの木田はどんな木田だろうか? 5月3日(土)から千葉ポートアリーナで開催されるクォーターファイナルが古巣の熊本相手だけに、木田のパフォーマンスは非常に興味深い見どころ。シリーズの行方に大きく影響する要素となるに違いない。

アルティーリ千葉プレーオフ特設サイト



文/柴田健

タグ: アルティーリ千葉

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