昨年からの思いを胸に、ENEOSが皇后杯最長9連覇達成

 12月19日、国立競技場代々木第二体育館で開催された皇后杯決勝。大会記録となる9連覇がかかるENEOSサンフラワーズと初優勝を目指すデンソー アイリスの顔合わせとなった。ENEOSはエース渡嘉敷が並々ならぬ決意で臨む。昨年の同大会準々決勝序盤に右膝前十字靭帯断裂の大ケガを負い、そのまま大会に出場することができなかったばかりか、今夏のオリンピックへの出場も断念することになったからだ。準決勝でトヨタ紡織に勝利した後も「明日、勝たなければ意味がない」と強い気持ちを表していた。

 

デンソー高田とENEOS渡嘉敷のマッチアップ

 

 対するデンソーは過去5回、皇后杯準優勝を遂げているが、優勝はまだない。いずれもENEOSに頂上への道のりを阻まれてきた。今大会は準決勝で富士通に対し、チームディフェンスをしっかりと機能させて勝ち切った。富士通は今シーズンENEOSから宮澤夕貴らが移籍するなど、戦力も増強、Wリーグでのシーズンも好調ぶりを見せていたチーム。その富士通の持ち味を封じたディフェンスは見事だった。チームの大黒柱・高田真希は今夏のオリンピックで日本代表のキャプテンを務め、銀メダル獲得に貢献。デンソーがまだ強豪と言えるチームではないころから、チームの屋台骨を支えてきたプレーヤー。チームのメンバーそれぞれがしっかりと自分の役割を果たすことで、自身の負担が減り「自分の役割に集中できるようになってきている」と高田はチームの成長を語る。頼もしく成長したチームメイトと共に、6度目の正直で初タイトルを目指しての戦いだった。

 その渡嘉敷と高田のジャンプボールから試合はスタートする。早速、渡嘉敷がゴール下で得点。さらに宮崎早織のスティールから岡本彩也花がファストブレイク、林咲希の3PシュートとENEOSが7-0と一気に流れに乗る。

 デンソーは赤穂ひまわりがジャンプシュートを沈めると落ち着きを取り戻す。即座にENEOSは林が3Pシュートを決めるも、デンソーの本川紗奈生が3Pシュートでファウルをもらい4点プレーを決める。その後もデンソーの赤穂さくらがペリメーター決めるとENEOSは梅沢カディシャ樹奈がゴール下をねじ込むなど、お互いが点を奪い合い、1Qは20-19とENEOSが僅かにリードで終わる。

 デンソー・高田、ENEOS・渡嘉敷のスコアで始まった2Q。デンソーはフルコートでプレッシャーをかけ続けるが、ENEOSがしっかりとボールを運び、そこからのスキをついて得点を重ね、デンソーのディフェンスを崩していく。波に乗れないデンソーは、赤穂ひまわりがオフェンスで奮闘するも、ENEOSの攻撃を抑えられずにジリジリと点差が開いていく。前半終了間際には岡本、高田静の3Pシュートが決まり、49-35とENEOSがリードを広げて後半を迎えた。

 

流れを引き込む3Pシュートを決めた林(ENEOS)

 

 後半に入っても、プレッシャーをかけ続けるデンソーディフェンスに対し、ENEOSは林が裏をとってファストブレイクを決めたり、またアウトサイドに気を取られると、この日好調の高田静が効果的にドライブを見せるなど的を絞らせない。

 デンソーも交代で出てきた近藤楓がドライブを決めるなどするが、ENEOSが決め返してその差を詰めることができない。また、インサイドでは渡嘉敷だけでなく梅沢が力を発揮。攻防にリバウンドを支配する。岡本の3Pシュートが決まると63-43と20点差。その後も点を奪い合い67-49とENEOSがリードを保ったまま最終Qへ。

 着々と得点を積み上げるENEOSは、ルーズボールにも執着心を見せるなど集中力を切らさず、デンソーにスキを見せない。デンソーはハーフコートのゾーンディフェンスから活路を見出そうとし、攻めては稲井が3Pシュート、ドライブと反撃する。しかし、劣勢を巻き返すには至らない。一度つかんだ主導権を渡すことなく、ENEOSが86-62で勝利。大会史上最長となる9連覇を達成した。

「9年前に自分がヘッドコーチのときに負けさせてしまい、連覇が途切れてしまいました(当時5連覇がかかっていた)。9連覇できてほっとしています」とENEOSの佐藤清美HC。昨年の大会では3Pシューターの林、インサイドの梅沢、そしてガードの高田静が故障で欠場。加えて大会序盤にエース渡嘉敷も離脱することになった。それでも残った選手たちの踏ん張りで優勝を遂げ、連覇をつないだENEOSだったが、渡嘉敷は「優勝はうれしかったのですが、私自身は(コートに立てず)悔しい思いもありました」と振り返る。そして、出場できなかった選手たちと「来年は決勝の舞台にみんなで立とう」と誓い合ったと明かす。

 

インサイドで奮闘した梅沢(ENEOS)

 

 その言葉が正に今大会に生きていた。「インサイドでのパワープレーが自分の役割」という梅沢は13得点に加え、チーム最多の19リバウンド。「戦力として出場するのは初めて」という高田もベンチから24分の出場で11得点と重要な役割を果たし、林は前半で4本の3Pシュートを決めるなどENEOSに主導権を引き寄せ、トータル17得点。そして渡嘉敷自身も19得点、18リバウンドと圧倒的なパフォーマンスを見せた。さらに、昨年大会で渡嘉敷不在の中でもチームを優勝に導いたキャプテンの岡本が、この日もチーム最多の20得点、7アシストを記録するなどENEOSの強さを改めて示した。そのチーム力は「ENEOSは一つ上のレベルにあるチームだと証明して見せた」とデンソーのマリーナ・マルコヴィッチHCも認めざるを得なかった。

 皇后杯を獲得したENEOSの岡本は「課題も見つかった」とチームはまだまだ成長過程にあることを意識する。ENEOSは昨シーズン失ったWリーグ女王の座を奪還しなければならない。そして、皇后杯でENEOSの強さを再認識した他のチームも、ギアを入れ替えてくるに違いない。中断したWリーグシーズンは12月25日から再開する。

 

〈2021年皇后杯結果〉
優勝:ENEOSサンフラワーズ(9年連続26回目)
準優勝:デンソー アイリス
第3位:トヨタ紡織 サンシャインラビッツ/富士通 レッドウェーブ

●MVP
林 咲希(ENEOSサンフラワーズ)

●大会ベスト5
林 咲希(ENEOSサンフラワーズ)
渡嘉敷 来夢(ENEOSサンフラワーズ)
岡本 彩也花(ENEOSサンフラワーズ)
髙田 真希(デンソー アイリス)
赤穂 ひまわり(デンソー アイリス)

 

(飯田康二/月刊バスケットボール)

 



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