日本代表

2021.08.12

東京2020総括 - 三屋JBA会長に聞いた日本バスケ国際化推進

国際化をいかに進めるのか

 

 プレーヤーたちが熱烈だったことは、連日テレビやパソコンのモニターを通じて伝わってきたが、総括の会長談話も非常に熱烈に感じた。三屋氏は自身がバレーボールで銅メダルを獲得したオリンピアン(1984年のロサンゼルス大会)。それだけに、この舞台で勝つ喜びも負ける悔しさも共有できるのだろう。

 

 今後はその熱を、あまり時間をおかずに形にしていくことが重要だが、その過程で考えたいのが国際化だ。東京オリンピックでの結果を受け、日本のプレーヤーと国内リーグの価値が高まっているだろう現状は、代表チーム強化・事業推進力強化の両面で好機と思われる。

 

 5人制男子の海外組に関しては、すでに高かった価値がさらに高まったのではないだろうか。八村 塁(ワシントン・ウィザーズ)と渡邊雄太(トロント・ラプターズ)はともに、日本代表を攻守で支える1-2パンチであっただけでなく、どの試合でも世界のトップレベルのスーパースターを相手に自信を持ってマッチアップしていた。オーストラリアのNBLメルボルン・ユナイテッドに所属する馬場雄大は、最終戦となった対アルゼンチン戦でその二人をしのぐチームトップの18得点を挙げ意地をみせた。

 

 5人制女子では、町田瑠唯(富士通レッドウェーブ)のオリンピック記録を塗り替える大活躍が、今大会全体の中でも男女通じて最大級の話題として取り上げられた。今、町田をすぐにでも欲しいという海外クラブがあってもまったく驚きではないだろう。

 

町田は今大会で、ワールドクラスの実力を強く印象づけた(写真/©fiba.basketball)

 

 日本代表の中でトップリバウンダーだった赤穂ひまわり(デンソーアイリス)や、準々決勝終盤の決勝逆転弾を含め3Pショットを今大会通じて48.6%成功させた林 咲希(ENEOSサンフラワーズ)をはじめとしたシューターたちにも、WNBAをはじめとした世界のクラブが興味を持って当然だ。林は今大会の3P成功率ランキングで全体の7位だったが、アテンプト数と成功数を考えれば実質的に最強の3Pシューターと言える成績だった。

 

 この6月、WNBAコミッショナーのキャシー・エンゲルバートにズーム会見で日本とアジアの市場に対するアプローチについて聞く機会があった際、彼女は「アジアからもっとプレーヤーに来てもらいたい」との思いを明言していた(現時点では、東アジアからは韓国代表のセンター、パク・ジス一人しかいない)。

 

 逆に、Wリーグでやってみたいと思う海外プレーヤーがいてもまったく不思議ではない。現状では海外プレーヤーを受け入れていないWリーグは、今後どのような考え方で動いていくのか。やみくもに門戸を開くべきと主張しているのではないし、語学や文化の壁を乗り越えて海外に行くということをやたらと誰にでも奨励するわけでもない。ただしこの絶好機を生かす前提に立って、さまざまな検討と準備がなされれば、これまでにない画期的な前進も起こりうる。

 

 3×3では、日本の女子プレーヤーたちの実力はかねてから世界に知れ渡っていた。そこに来て今回、男子の富永啓生(ネブラスカ大学)の驚くべきクラッチシューターぶりはどうだろう。2021-22シーズンはNCAAディビジョンIで腕を磨くことになる富永は、この舞台での活躍を経て、すでに「知る人ぞ知る」ではなく万人が認める驚異のスコアラーだ。

 

 彼がアーリーエントリーでNBAにいくことはないと誰が言えるだろう。来年の今頃、ものすごい状態になっていたとしても、これもまったく想定内なのではないだろうか。そうなれば、「3×3が生んだNBAスター」というような捉え方で語られるケースも出てくるかもしれない。それもまたこの種目の普及をこれまでにない次元で促進していく可能性がある。

 

富永のスコアラーとしての実力には、NBAからお呼びがかかる可能性も十分ある(写真/©fiba.basketball)

 

 4カテゴリーはそれぞれ、直近の世界大会が以下のとおり予定されている。

 

3×3男女: FIBA3×3ワールドカップ(2022年6月/アントワープ[ベルギー])
5人制女子: FIBA女子ワールドカップ(2022年9-10月/シドニー[オーストラリア])
5人制男子: FIBAワールドカップ(2023年8-9月沖縄、ジャカルタ[インドネシア]、マニラ[フィリピン]共催)

 

 さまざまな想像とこれらビッグイベントのタイムフレームから、日本のバスケットボール界が国際化を積極的に推し進める絶好機に直面しているように思えてならない。そのような思いを持って、三屋会長に現時点で国際化推進に関しどんな意向かを聞いたところ、当面はパンデミック下で理想の動きが取れないとしながらも、「今回、特に女子がある程度の成績を収めてくれましたので、アメリカやヨーロッパとどう交渉していくのか、かなり実現性があるだろうと思っています」と大いに前向きな言葉を返してくれた。

 

 また三屋会長は、今夏からパートナーシップ契約を結んだナイキのネットワークを活用する意向も明かした。「ナイキとパートナーシップ契約をしている国がたくさんあります。そことマッチメイクをさせてもらいたいというのは、ナイキにもお伝えしてあります。今後そのようなネットワークを使って海外のチーム、サイズアップした選手とどれだけやって、どう対応していくか。たぶん国内リーグだけやっていてもあまり(今回得られた経験値が)残らないので」

 

 交流の相手だけではなく、Bリーグとの兼ね合いも調整していく意向だという。「だいたい5月・6月くらいまでシーズンがあるので、そこから代表を作ってもあっという間に次のシーズンが来ます。そのあたりを島田(Bリーグの島田慎二チェアマン)とどう詰めていくか、早々に話さないといけないなと。基本的にはいろいろと、海外にネットワークを使ってマッチメイクしていきたいと思っています」

 

 東京オリンピックの前の日本代表は、3×3こそ国内で交流試合を公開することはなかったが、5人制女子は最終選考と直前の調整の過程でポルトガル代表、ベルギー代表、プエルトリコ代表とのエキジビションゲームを行い、全勝で本番に突入した。男子も格上チームのハンガリー代表、フィンランド代表、ベルギー代表、そして今大会で最終的に銀メダルを獲得したフランス代表に胸を借りた。そのフランス代表との試合で歴史的な勝利を手にしたことが、チームにとって欠くことのできない自信をもたらしたのは言うまでもない。

 

 年月をかけて目標としてきた東京オリンピックは終わったばかりだが、ここはもう一度しっかりと前を向いてさまざまな議論を前進させる好機だ。三屋会長のメッセージはそのような意欲を十分感じさせていた。

 

 ちなみに、銀メダルを獲得したホーバス トムHCを含め、スタッフ人事は今大会の総括を終え今後のチーム作りの方向性を確定した後に再検討とのこと。8月中に技術委員会で方針を固めたいとの考えが示されており、今後続投するかどうかは明言されていない。5人制女子については9月から10月にかけてアンマン(ヨルダン)で開催されるFIBA女子アジアカップが控えているが、5連覇がかかるこの舞台では、今大会でアシスタントを務めた恩塚 亨氏(東京医療保険大学)が指揮を執る予定とのことだ。

 

 メダル報奨金については、上乗せの可能性を示唆する報道も出ているが、まだ大会後の理事会も開かれていない現時点では、一人当たり300万円の規定に沿う考えであることを示すにとどまった。最終的な金額は理事会での協議となる。ただし、三屋会長はトレーナーやマネジャーらを含めたスタッフも授与の範囲に含める考えを明示している。

 

「選手から熱いバトンをもらった」と話した三屋会長。今後の力強い事業推進に期待がかかる(写真/©JBA)

 

取材・文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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