NBA

2021.05.21

「八村 塁所属のウィザーズ、チャンピオンシップまであと16勝」と書いてみる

コート上でもコート外でも貫録を感じさせる八村(写真をクリックするとウィザーズ日本語ツイッターのインタビュー投稿が見られます)

 

 オフコートの雰囲気も大いに力強さを感じさせるが、試合中には世界最高峰のNBAでも驚異的と言える部類の、とんでもなく驚くべきプレーをたびたび披露した。開幕以前のプレシーズンゲームでブルックリン・ネッツと対戦した際には、ケビン・デュラントと初めてマッチアップし、オフェンスリバウンドを競い合って勝った上にプットバックダンクを豪快にぶち込んだ。3月27日(アメリカ時間)の対デトロイト・ピストンズ戦では、アイザイア・スチュアートの頭上から雄たけびを上げながら叩き込んだダンクが話題になった。4月28日の対ロサンゼルス・レイカーズ戦では、相手の主軸の一人であるアンソニー・デイビスを空中で跳ね飛ばしてダンクに持ち込んだ。
プレーインのペイサーズ戦では、ドリブルから片手でボールをわしづかみにしてドライブし、レイアップで得点したシーンがあったが、このようなプレーは今日までの日本で教えることができるものではなかっただろう。あのスピードでドリブルから、右手だけでどうしてあんなプレーができるんだ…!? という驚きは、ファンとしてNBAを見ていた学生時代に感じた素直な驚きそのものだ。
こうしたド派手なプレーだけでなく、ペイントエリアの、特にハイポスト近辺から放つフェイドアウェイ・ジャンバーの安定感はすでに定評を得ているようだ。また、ディフェンスでは相手のオールスタークラスにマッチアップすることも多いが、相手のドライブに対し立ち塞がり、しばしば得点機を潰している。例として挙げたこれらのプレーはどれも、八村がNBAでもトップレベルということを示している。
流れの中で八村が繰り出すこうしたとんでもなく驚くべきプレーに、本人が至ってクールな様子であることが、正直なところうまく飲み込めない。ディフェンスで大物とのマッチアップを任されることについても、「僕としてプレッシャーとは考えていません。それが仕事」と落ち着き払っている。NBAの世界は普通――そう捉えることができる、これまでに見たことがないキャラクターの登場は、「NBAに日本人は入れない」という見方に慣れきって生きてきた自分のような者にはあまりにも斬新だ。
NBAで、八村は自分にふさわしい場所を見つけたように思う。逆にNBAも、その発展に必要かつふさわしいタレントを八村の中に見いだした。「Game recognizes game.(本物は本物を見分けるものだ)」というフレーズが両者のありようを言い当てているのではないだろうか。

 そう思えば、八村とウィザーズがどこまでいってもおかしくない。ウィザーズはあと16回勝てばチャンピオンシップを手にすることができるのであり、第8シードだからと言って「それはない」と思う必要はまったくない。
ロックアウトで短縮・凝縮日程により進行した1998-99シーズン、ニューヨーク・ニックスが27勝23敗の成績で第8シードとしてプレーオフに滑り込み、そのままイースタンカンファレンスを制してファイナルに進出した例がある。マイアミ・ヒートとのファーストラウンド最終第5戦(当時は3戦先勝)では、今でもファンの間で語り草のアラン・ヒューストンによる残り0.8秒の逆転フローターが決まり、ニックスが勝ち上がった。ウィザーズはファーストラウンドの相手となるフィラデルフィア・セブンティシクサーズに今シーズン3連敗で勝ち星がないが、このシリーズでそんな役者になりそうなビールという点取り屋がいる。
1999年のカンファレンスセミファイナルで、ニックスはアトランタ・ホークスをスウィープしてカンファレンスファイナルに進んだ。今年、もし仮にウィザーズがシクサーズを倒して勝ち上がった場合にカンファレンスセミファイナルで対戦する可能性があるのはニックスとホークスだが、ウィザーズはこの2チームにも3連敗で一度も勝っていない。しかし、レギュラーシーズン最後の20試合の成績を見ると、現時点ではウィザーズがこの2チームに引けを取る存在ではないと思える。ウィザーズはイーストのプレーオフ進出8チーム中、この期間においてニックスに次ぐ2位の勝率なのだ。

 

イーストのプレーオフチームのレギュラーシーズン終盤20試合の成績

※行頭の数字はシード順
1. フィラデルフィア・セブンティシクサーズ 14勝6敗
2. ブルックリン・ネッツ 12勝8敗
3. ミルウォーキー・バックス 14勝6敗
4. ニューヨーク・ニックス 16勝4敗
5. アトランタ・ホークス 14勝6敗
6. マイアミ・ヒート 13勝7敗
7. ボストン・セルティックス 10勝10敗(プレーインを含めると11勝10敗)
8. ワシントン・ウィザーズ 15勝5敗(プレーインを含めると16勝6敗)

 

 同じ相手との連戦となるプレーオフでは、レギュラーシーズンの成績がそのままあてにできるわけではないという点でも、ウィザーズの可能性は面白みを増す。最初の2ラウンドを勝ち上がったら、後は何が起こってもおかしくない状況になるだろう。
八村 塁所属のウィザーズ、チャンピオンシップまであと16勝。ハラハラドキドキの、楽しいプレーオフになりそうだ。


取材・文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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