NBA

2021.03.05

セルジオ・スカリオロAコーチ(ラプターズ)に「渡邊雄太PG案」をたずねてわかったこと

欠場中のニック・ナースHCに代わり「ベンチボス」の役割を請け負っているセルジオ・スカリオロAコーチ

 

緊急事態に直面するラプターズ

 

 2月末から新型コロナウイルスのパンデミックによる影響で、複数のコーチングスタッフとプレーヤーが戦列を離れているトロント・ラプターズ。日本時間3月4日(アメリカ時間3日)に行われたデトロイト・ピストンズ相手のホームゲームでも、ニック・ナースHCを含む複数のコーチングスタッフと、スターターのフレッド・ヴァンヴリート、パスカル・シアカム、OGアヌノビーを含むプレーヤー5人が欠場し、前の試合(2月28日の対ヒューストン・ロケッツ戦)に続いてアシスタントのセルジオ・スカリオロがヘッドコーチ役を務めるという非常事態が続いていた。試合自体の開催も本来は前日の予定だったが、ラプターズのプレーヤーが試合に必要な最低人数である8人に満たないためにリスケジュールされていた。
こうなるとバックコートもフロントラインも通常のローテーションで試合を行うことは不可能だが、逆にあらゆるチョイスを検討できる状態でもありそうだ。ティップオフ約2時間前に行われた会見でスカリオロAコーチは「スターターはまだ決まっていない」と話し、判断の難しさをにじませていた。
そのような中で頭に浮かんだのが、ヴァンヴリートが不在の間、渡邊雄太をポイントガードに起用するのはどうかというアイディア。渡邊はメンフィス・ハッスルでプレーした2019年のGリーグプレーオフで、まさにポイントガードを務めたことがあった。左利きで身長206cmの渡邊が仮にスターターのポイントガードということになれば、右利きで身長185cmのヴァンヴリートとはまったく異なるタイプのプレッシャーをピストンズにかけられるのではないだろうか。
もちろんオールスターのコンボガードであるカイル・ラウリーがコート上のコーチとして試合を作ることはできるだろう。しかし渡邊PG案もラプターズに新たな可能性をもたらすチョイスのように思える。そこでスカリオロAコーチにこの点について質問してみた。渡邊PG案を彼はどう思うか? 回答は以下のようなものだった。

 

渡邊を高く買うスカリオロAコーチ


「まず、我々が彼を高く買っていることをわかっていただきたいです。柔軟なプレーぶり、真面目に取り組む姿勢、これで生きているという自覚、そして技能が備わっていますから。我々のシステムの、特にトランジションでは、ほとんどのプレーヤーがボール運びをでき、押し上げてドリブルからオフェンスを組み立てられます。ユウタはドリブルがうまいし、かなりの速さでやってきますから、間違いなくそういった機会があるでしょう。純粋なポイントガードというのはわかりません。もしあなたの問いかけがそれだったとしたらね。でも確実にポイントガード陣のボール運びにおいて重要な助けになるでしょうね」
スカリオロAコーチ自身が語った一連の英語回答は以下のようなものだった。
“First of all, I wanna tell you we like him (Yuta) a lot for his versatility, for his work ethic, for his professionalism and for his skills. In our system, especially in transition, most of our player can bring the ball up and push it and start our offense off the dribble. So we know that Yuta can dribble and he's pretty fast going downhill. So that's for sure a chance. I don't know if…, as a pure point guard, if this was your question. But for sure it would be helpful in giving our point guards an important relief bringing up the ball.”
この回答からわかることは、渡邊に対する評価が高いことと、少なくともスポット的にはボール運びを任せられると捉えていることだ。
ヴァンヴリートのような有能なプレーヤーがフルタイムでプレーメイカーを務める中、通常ならディフェンスとリバウンド面での貢献が求められている渡邊をその位置にポンと入れられるほど簡単なことではないのは当然だ。ただし非常事態となれば話は別で、ボール運びで困った場合には、渡邊に折々バックコートからボールを預けるケースがありうるだろう。今や200cm越えのプレーヤーでもガードを務められるのが“標準装備”のような時代。特に今シーズンは、ロスターの安定性を維持するのが簡単ではない状況だけに、この“versatility(複数ポジションをこなせる柔軟性)”は大きな意味を持ってきそうだ。

 

フルタイムPG起用という案は別としても、ボール運びでも貢献を期待されていることが、スカリオロAコーチの言葉から伝わってきた

 

文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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