大塚裕土(アルティーリ千葉)が千葉に残す現在進行形のレガシー
最高峰での苦悩、引退の決断
念願のB1昇格をかなえたアルティーリ千葉は、「5年間で日本一」というクラブ創設当初の目標達成に向け、現実的にその可能性を追うことができる状態で2025-26シーズン開幕を迎えることとなった。プレーシーズンには琉球ゴールデンキングスから最高峰の強度を学び、LEVANGA CUP2025優勝で自信をつけることができた。“宿命のライバル”長崎ヴェルカを千葉ポートアリーナに迎えた開幕初戦は97-94の勝利。序盤の7試合は4勝3敗と勝ち越し、最高峰でも戦えるポテンシャルを感じさせた。
ただ、大塚個人に関しては、その7試合のうち出場できたのが4試合、出場時間は合計しても12分36秒のみ。貢献したくてもその機会が得られないもどかしい日々が続いた。そして10月29日のアルバルク東京戦を前に今シーズン限りでの引退は発表された。
ホームの千葉ポートアリーナで行われたこの試合に大塚は出場機会がなく、チームはオーバータイムの末に94-98で敗れた。4Q終盤に同点レイアップを沈めたブランドン・アシュリー、日本代表のテーブス海らの厳しいボールプレッシャーを何とか打開しようと戦い続けた杉本慶らガード陣の奮闘、オーバータイムの残り25秒に、94-93と最後のリードを奪うプットバックを決め切ったデレク・パードン、会場をブラックネイビーに染めたA-xxの大声援。アルバルク東京の壁は高かったが、何とかして、何としても、大塚のこの日を勝利で飾ろうという思いがアリーナを満たした夜だった。
その後の会見で、大塚は心境を以下のように語っている。
「アルティーリ千葉に創設からかかわらせていただいて、きっとここで引退するんだろうなと常々考えていました。(中略)もしかしたら、別のクラブならもっと自分を使ってくれるだろうとか、少なからず考えたこともありました。でも、自分はこのクラブで終えたい、このクラブで今まで学んできたことを還元したいと思ってきたので、このクラブで引退を決めて皆さんに発表できることは本当に幸せ。感謝しています」
「正直言えば、Bプレミアでもう1年チャレンジしたい気持ちもありました。でも、B2とはいえ2年連続で個人タイトルを取って、特に昨シーズンは平均出場時間が14分程度でタイトルを取るという普通に考えたらあり得ないことをやって迎えた今季、チームから求められることと自分のパフォーマンスをかみ合わせるのが難しいのかなと感じますし、その部分は自分ではどうすることもできない。その中で、シーズンが終わって編成を変えるときに、『あぁ…、これが最後のシーズンだったのか』ということになりたくありませんでした。それよりも、メディアの方々にもファンの皆様にも、『このシーズンで引退するんだな』と思って見てもらえたら全く違うだろうと…。家族にも、新居(佳英)社長や代理人の鴨志田(聡)さんにも相談して、いくつか選択肢があった中で自分の意志としてこのクラブで引退することにしました」

昨年11月12日の仙台89ERS戦より(©B.LEAGUE)
シューター大塚裕土、まぶしいラストバースト
この引退発表以降、シーズン半ばの戦いは大塚個人としてもチームとしても、非常に厳しいものだったに違いない。それでも、1月の天皇杯ファイナルラウンドでは初めてベスト8進出を果たし、3月末には初の“千葉ダービー”で千葉ジェッツから劇的な逆転勝利を挙げるなど、クラブとチームの新たな歴史を刻む成功を手に入れ、もがき苦しみながらも前進を続けた。
4月12日、千葉ポートアリーナでの横浜BC戦後の帰り際に偶然出くわした大塚は、その日を含め6連敗という厳しさを受け止めるように精悍な顔立ちだった。その日までの8試合で大塚の3Pショットは0/10。今季の残り試合は8試合だけだ。もう取材機会もどれだけあるか分からない。微笑んで挨拶してくれた大塚に復調への期待を伝えた。「ありがとうございます」という、内面的な波立ちが少ない大塚らしい落ち着いた反応から、静かな闘志が伝わってきた。
3日後、アウェイで戦ったレバンガ北海道戦は、名寄市出身で東海大四高(東海大付札幌高)卒の大塚にとって現役最後の故郷凱旋。会場のきたえーるには母校の現役高校生たちも大勢訪れ、ティップオフ前には5600人の大観衆が見守る中で大塚のキャリアを祝すセレモニーも行われた。
アルティーリ千葉は、ポストシーズン進出をかけて死にもの狂いの北海道と最終局面まで熱戦を演じたが、89-90で敗れた。大塚はシーズンハイとなる22分14秒の出場で11得点。この北海道戦では3Pショットを8本中3本成功させたが、1本目は1Q終了間際に32-32の同点に追いつくブザービーター、2本目は3Q残り7秒にはビハインドを1ポゼッション差に縮めるクラッチショット、最後は4Q残り1分6秒に86-85とリードを奪う逆転弾といずれもがビッグショットだった。
以降シーズン最終節まで、大塚は驚異的なシューティング・パフォーマンスを披露し続けて現役生活に別れを告げた。前述の北海道戦を含む最後の8試合の3Pショットは、65本中30本をヒット(成功率46.2%)。5月2日の千葉ジェッツ戦ゲーム1では7本成功させて、1試合での成功数キャリアハイを更新した。

4月22日に千葉ポートアリーナでホームフィナーレ(茨城ロボッツ戦)を終えた後、大塚は「いまだに引退の実感はありません」と話していたが、5月3日のキャリア最終戦後もその感覚は変わらなかったと明かしている。19勝で終わった今季の様々な記憶から、もはや幻となった「次の試合」で勝利を求める本能が、まだ心を満たしていたのかもしれない。ただ、穏やかな表情からはシューターとしてキャリアの最後に全てを出し切り、やり切った満足感と自信も同時に伝わってきた。
ユースチームのコーチとして新たなチャレンジ
キャプテンとして、シューターとして、自らの存在意義を存分に示して現役生活を終えた大塚のバスケットボールに対する姿勢は、間違いなく来季以降のチームにも受け継がれることだろう。ホームフィナーレで大塚の背番号と同じ24得点を記録した黒川の活躍について、大塚は試合後に「もう少しパスをくれるかなと思っていたんですけれど、最後まで自分で攻めていましたね」と話して会見場を和ませたが、そこには「周囲に遠慮しないで、それぐらい図太くいっていいんだよ」という後輩へのエールや、成長ぶりを頼もしく受け止める思いも含まれていたのではないだろうか。現キャプテンからの期待もチームには伝わっているはずだ。
黒川を含めチームのメンバーからは、シーズンが終盤に差し掛かった頃から「裕土さんとプレーする機会を楽しみたい」「裕土さんと一緒に勝ちたい」という声が何度も聞かれた。後輩たちに慕われてキャリアを終える姿も、若手が将来どんなキャリアを歩んでどうなりたいのかというイマジネーションを膨らませるに違いない。

©B.LEAGUE
アルティーリ千葉は、大塚がユースチームでコーチを務めることも発表している。トップチームで後輩たちと力を合わせて築き上げたクラブカルチャーの、次世代の子どもたちへの広がりが加速されることだろう。
人生には望みどおりにならないことがいくらでもあるが、次の日の出は必ずやってくる。その明日も、うまくいかないことが待っているかもしれないが、それでも新しい日の出が迎えてくれる。
自分を表現できる何かを持っていれば、私的な成功を手に入れることはできる。それ自体にももちろん大きな価値があるが、至福の瞬間を味わえるのは、傍らにいる誰かと喜びを分かち合えるときだ。
大塚がアルティーリ千葉で過ごした5年間はそんな時間だったのではないだろうか。ユースチームの子どもたちは、その全体像からのインスピレーションに力を得て、バスケットボールに情熱を注ぐことができる。大塚が38歳で、まだまだ第一線で脅威となるシューターのすごみを備えていること、心機一転コーチとして新たな挑戦に臨む新鮮な気持ちでいることは、そのまま子どもたちの力になるにちがいない。
大塚はアルティーリ千葉のトップチームを退くが、Bプレミアの新時代を後輩に託すと同時に10年後、20年後の土台作りにかかわることになる。偉大なる歴史の始まりを主役として綴ってきたキャプテンが請け負う次なる挑戦は、実はこれまで以上の大仕事なのかもしれない。

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