岡田優介(香川ファイブアローズ)インタビュー――「ファンの皆さんに感謝しかない」
「気持ちのDNP」にならないように…
――どれだけの数かわかりませんが、岡田さんの10番のユニフォームを着た方がたくさん来場されています(チーム広報によるとユニフォーム売り上げはチームで断トツとのこと)。最高のセールスピッチマンだと思いますし、移籍してこういった現象が起きることも珍しいのではないかとも思いますが、こうしたファンの方々の応援についてどう思われていますか?
いや、本当に…もうありがたいです。感謝しかないですね。僕の置かれている状況を理解してくれて、昔からずっと見てきてくれている方々ですから。アルティーリ千葉時代にも良かったときもあれば悪いときもあって、最後の方なんかはやっぱりあんまり試合に出られなかったですけど、同じように見にきてくれているんですから。香川に来て、もう一度ユニフォームを着てコートに立つ姿が見られるんだと言って涙を流してくる人もいます。その人々のためにプレーしようというのは、お互いの「ありがとう」という気持ちを交わし合うことで、それが今の僕自身のスタイルでもあります。SNSがあるから、いわゆる双方向コミュニケーションみたいなこともできるので、こちらから「ぜひ10番を着てくださいね!」と発信してみたり、それを受け取った皆さんがこうして反応してくれたり。なんだかそれも、すごくいいコミュニケーションに思えて、やりがいというか、選手としてありがたいと思います。
――引退を発表されるまでと、その後の気持ちの動きがあると思うんですけど、どんなものでしょうか?
自分の中ではないと思っているんです。でも、どうでしょうね。やっぱり皆さんがわかっている状態ですから、皆さんの目でわかることがあります。最後だと思って見てくれているようなことを、やっぱり感じるものもありますから。何というか、より良い形で終えたいなという気持ちが自分の中ではありますね。
試合で負けたとしても、試合に出られなかったとしてもできる限り笑顔で「ありがとう」をお伝えしたいなと思っています。そういう意味では、気持ちがちょっと違うかなと思います。プレー自体、やることは変わらないと思ってるので、自分の強みを出してチャンスがあれば3Pショットを狙ってチームの流れを変えるようなところで決めるというところは変わらないです。
――今、ご自分の目標というか、やり残さないように「これだけやっておこう」というようなことはありますか?
今は、気持ちのコントロールをしっかりとしていきたいですね。やっぱり難しさもありますから。要は「気持ちのDNP(Did Not Play)」をなくそうというか…。
――「気持ちのDNP」とは、素晴らしい言葉ですね!
やっぱり、「なんかもういいかな…」って思っちゃったら、自分が仮に出たとしても実質DNPみたいなものだと思うんですよ。最後までしっかり「ゲーム・レディ(Game Ready=試合に向け準備万端」にしているように。どんな状況でも、「よし自分の中では今、自分の最大だ」と言えるように、気持ちの面でちゃんと準備してプロ選手としてやれたらいいなと思います。少しずつミニッツ(出場時間)が減ってくる中で、難しさはすごくやっぱ感じているんですけれどね。どこにモチベーションを持っていくべきかを常に考えているんですけど、それをしっかり最後まで切らさずにいい形でやっていけたら、自分らしかったんじゃないかなと。そうできれば、難しいシーズンを最後にうまく締めくくれるんじゃないかなと思うので、結果はどうあれ、「うん、よくやったな」と思えるように。それは自分の捉え方次第なのかもしれませんけど、やれることと言ったらそういうことだと思います。
結果はついてくると思っています。それは変わらないというか、自分の中でそういうスタイルを崩さないで、「いつでもできるぞ!」というところは持ってなきゃいけません。でも、体の状態をしっかりキープしていても、結局心が先です。心を先にキープして体もキープしていきながら臨めたらなと思っています。
――今、将来像としてはどんなことを目指していますか?
結局ずっと今までいくつかのことを並行してやってきたので、何かを常にやってきたのですから、そういう意味では正直変わらないですね。会計士の勉強もバスケに軸足を置きながら勉強しましたし、自分で会社を興した時期もあります。やってきたことのうちの一つである「プレーすること」がなくなるだけで、単にその分キャパが少し増えるので、やれることが多分広がると思います。
なので、そういう意味では今までのことを継続するのに加えて少し新規でやっていきたいなとていうのがあります。これだけバスケをやってきて40歳になっているので、もうバスケ界から離れるということはないと思っているんです。バスケ好きだからやってきているわけですし、好きでなければできないですからね。
なのでやっぱり自分が好きなバスケっていうものを軸足において、今度は選手じゃない立場で何かそこに貢献できたらいいなと思っています。あくまで軸足はバスケで生涯やっていきたいなと思うので、ぜひ楽しみにしていてほしいなと思います。

プレゲーム・ルーティンから必見のシューター
現在40歳になる岡田は新宿区立牛込二中時代にバスケットボールをはじめ、土浦日本大高、青山学院大を経て、2007年にトヨタ自動車アルバルク(現アルバルク東京)でトップリーグにおけるキャリアをスタートさせた。以来、つくばロボッツ、広島ドラゴンフライズ、千葉ジェッツ、京都ハンナリーズ、アースフレンズ東京Z、アルティーリ千葉、そして現在の香川ファイブアローズと18年間で8チームに籍を置き、キャリア通算5000得点など輝かしい記録を打ち立てたほか、日本代表歴もある。
岡田と同級生で、チームメイトとして一緒にプレーした時期もある籔内幸樹HCは、「優介が引退を決めて、この世界から彼が選手としていなくなるのは悲しいです。でも逆に言うと、これだけのキャリアを続けてきて次のステップに行くのですから、本当におめでとうという思いがあります」と話す。その花道を飾るためにも、最後に力を合わせてB3優勝とB2昇格を実現したいと闘志を燃やしている。
取材を行ったB3第26節を終えた時点で、香川は33勝11敗の3位。既にプレーオフ進出を決めており、残るレギュラーシーズンは8試合のみとなった。プレーオフでは、最初のラウンドとなるクォーターファイナルをホームで戦えることまでは決まっている。そこから香川が首尾よく勝ち進むとすれば、最大で9試合、岡田のプレーを楽しむ機会が得られる。
「岡田のプレー」という言葉には、実際の試合中だけではなく、ウォームアップのルーティンが含まれていることを特記しておきたい。
プロバスケットボール選手として特段に大きくなく、身体的に強いわけでもない岡田が18年間もこの世界で生きてくることができたのは、ショットメーカーとしての才能だけが理由ではない。その実力を最大限にコートで発揮するための創意工夫と研究、自己管理、常にオフェンシブなメンタルを保つことなど、主に内面をとがらせ続けてきたことによる成果だ。プレゲーム・ルーティンはその象徴であり、かつ「金を払っても見たいアトラクション」でもあるだろう。
毎度岡田の試合を見に行って気付くのは、チームがいったんロッカールームに引っ込んだ後、多くの場合誰よりも早くコートに帰ってくるのが岡田であることだ。最初のショットをゴール近辺から放ち、徐々に距離を伸ばしていく。最後にはセンターサークルからでも次々とレインボー・スリーを炸裂させる。敵も味方もなく、観客席から感銘の拍手が沸き起こる中、岡田はそれに応えるように異なるスポット、異なる距離、異なる体勢、異なるムーブから打ち続け、決め続ける。岡田は所属チームが変わってもこのルーティンを変えなかった。岡田と同じように一貫性を徹底させたプレゲーム・ルーティンを守り続け、それを結果につなげてきた上に、それ自体で客席を沸かすことができた選手はどれだけいるだろうか。
岡田は実戦で出場機会を得たときの奮闘を約束しているが、この先にやってくるビッグゲームでどんな機会に恵まれ、どんな結果を出してくれるか注目だ。B3での岡田と言えば、2021-22シーズンの春に行われたアルティーリ千葉対ベルテックス静岡戦も思い出される。2022年4月24日に館山運動公園体育館(千葉県館山市)で行われたこの試合は、A千葉のB2昇格決定戦進出がかかった大一番。オーバータイムの末にA千葉を109-106の勝利に導いたのは、後半とオーバータイムだけで27得点を挙げた岡田の、鬼神が乗り移ったようなパフォーマンスだった。
岡田にとって最後の春。ファンの皆さんが期待を最大限に膨らませても罰は当たらないだろう。
文/柴田健
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