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2024.09.04

令和のリスタンダードを──日体大・藤田将弘監督と根本研監督のチャレンジ「カレッジスポーツの社会的価値向上を目指す」

ホームゲーム化のプランはあるも現時点では「時期尚早」

──アリーナの構造や試合開始の時間帯も含めて、「観るスポーツ」としての視点で作り上げていく必要がありますね。

根本 そういう意味ではアメリカの企業であるスポルディングはいろいろな国のスポーツシーンに参画されています。それが日本でもムーブメントを起こす原動力になってくれるのではと期待しています。例えば学生の試合に企業バナーを置くことすらバレーではなかったんですよね。それを日体大がさせてもらいました。そういうところから徐々に仕掛けているので、バスケット界は学ぶべき存在だと思ってもいます。

藤田 カレッジバスケは「ここ10年で変わりました」と言えます。そもそも興業ではない大学カテゴリーを変えるのは本当に大変です。今は席によってチケットの値段を上げたり、それに見合った装飾やエンタメを提供するというところを徐々に変えている最中ですね。そもそもバスケットもバレーもアメリカ発祥のスポーツなので、アメリカにならうのは自然な流れ。競技を観るのはもちろん、アリーナに入ったときは楽しい時間を過ごしてほしい、競技自体は1時間半だけれど、もっと前からアリーナに来て楽しめる雰囲気を作れるようにしようと取り組んでいるところです。まだまだ発展していくと思いますし、全国大会のハーフタイムショーでアイドルを誘致する取り組みもしています。

根本 バレーでは子供向けのバレー教室を積極的に開催していて、地域の人たちをできるだけ取り込めるような仕掛けを始めています。僕は最終的にバレーの試合会場には家族が多く来るような雰囲気を作りたいです。特に女子バレーでは子どもから年配の方までが集まってくるような雰囲気作りを目指していきたいですね。どちらかというと昔バレーをやっていた方やママさんバレーをしている方が自分の子どもを連れてくるとか。そういう雰囲気を作ってバレー界を盛り上げたいという思いがあります。




──例えばリーグ戦などの公式戦をホームゲームとして開催するといったプランは考えていますか?

藤田 バスケットについてはリーグ戦の興業権を大学側が購入することができます。つまり、大学側でリーグ戦を運営してチケット収入などが運営元の大学に入るということですね。その試合にスポンサーを募って、より大きな興業にして収益を増やしていくこともできます。日体大としてはそうしたアイデアや力はあるのですが、まだ時期尚早かなと考えています。

──時期尚早とのことですが、越えるべきハードルは具体的にどこだと考えていますか?

藤田 まずはリーグ戦を運営するための人員の確保です。広告代理店やイベント会社に振るという手もありますが、そのためには費用の問題があります。なので、今はクラブに関わるスタッフをどんどん増やしているところ。現時点でAチームの学生スタッフは29人。学生コーチやマネジャーを含めた29人で23人の選手を見ているわけです。組織図としては学内に一つの会社があるような形を作っているところで、マーケティング部隊などの各ポジションが固まってくればという段階ですね。これを大学側に任せるとなるとまたハードルが上がるので、ホームゲームなどの興業をやるのであればクラブとしてしっかりとやっていきたいと考えています。チームとしてそういった運営ができる力を養っている段階だということでの時期尚早という状況。ただ、学生スタッフはどんどん増えています。

根本 バレー部ではバスケット部の日筑定期戦のような定期戦が現状ないので、スポーツマネジメント学部とタイアップしてエキシビジョンマッチとして定期戦を開催しようという企画を立てているところです。例えば第1回は日体大主催、第2回は相手の大学主催でやろうとか。一方でリーグ戦をホームゲームのように盛り上げていくハードルは高いです。大学連盟が基本的な運営などを取りまとめているので、その中でホーム&アウェー方式に変えるなどの変更は難しいです。一定の期間の中で必要試合数を消化しなければいけませんし、1日で縦3試合をスケジュールする必要なども出てきます。
それに、会場確保にも右往左往している現状なので定期戦のような自分たちから別開催の試合として作っていくのが現実的です。その定期戦でもスポルディングにスポンサーをしていただこうと考えていて、そういったタイアップしやすい点もありがたいですね。

藤田 バスケットは日体大のライオンズとしてのブランディングもそうですが、例えばライオンズカップと銘打って高校生を招待したカップ戦の開催などは考えているところですね。



スポーツにはブランド価値がある

──最終的に日本のカレッジスポーツをどのレベルまで引き上げたいと考えていますか?

藤田 まずはずっと言っているブランディング化をしていきたいです。スポーツを観る・支える文化もブランディングによって大きく変わってくるだろうし、例えばスポルディングのウェアを着て、いろいろなグッズを作ることなどもそうです。ライオンズロゴのシールを作ってイスに貼っておくと、次の日にはそのシールがなくなっているんです。みんなが欲しがって剥がしてしまうわけですね。それが良いことかどうかは一旦置いておいて、こういうのがブランディングなのではないかと。
今後は物販なども考えていきたいですが、ロゴにNSSUと大学名が入ってしまうと難しさも出てきてしまいます。なので、今はロゴから大学名を外したものも考えていて、例えばライオンズロゴのTシャツがショッピングモールで売っているといったところまでのブランディングをしていきたいです。もう資料も(大学側に)提出していますから。アメリカではデューク大やノースカロライナ大などのTシャツを普通に売っているじゃないですか。そういうところを目指したいですね。

──収益などよりもまず先にチームとしての価値向上を図るわけですね。

藤田 スポーツにはブランド価値があります。けれど、「する」という考えだけではなかなか変わりません。チームは一つのブランドなんだと広めたいです。全国1位だからすごいということ以上にチームというブランドがすごいと思われるような方向に持ってきたいんです。勝っても負けても応援される。これがブランドではないかと思うので。大きな物事を動かすとなると時間も労力もかかるので、まずは足元を見るという意味で自チームのブランディングを最優先に活動しています。

──現時点で山の何合目付近という感覚ですか?

藤田 3合目くらいですね。形になっている部分もありますが、まだ半分にも満たないのかなと思います。

根本 僕は藤田さんとはある意味で逆の発想で、何となく気付いたら周りが僕らが仕掛けた状況に近付いてきているという状況が好きです。理由は分からないけれど、自然とそうなっていった、という感覚を狙っていきたいですね。もちろん、SNS時代ということもあっていろいろな戦略を仕掛けていく中で強化はしています。一方で、何となく『やっぱりこれが格好良いよね』という流れが浸透していく流れにしていきたい。そういう意味では僕はバレー界では異端な存在だと思いますね(笑)。

──異端を本流にしかねない存在でもありそうですね。

根本 いいですね、それ。「何かやっているな?」くらいのところから始まって、いつしかそれが本流になっているような仕掛けはしていきたいと思っています。うちがやったことを他の大学がやったりしても面白いだろうし、 とにかく今は先取りでいろいろなことを仕掛けていく時期かなと思います。とりあえずやってみる。そして、それを周囲も取り入れるような環境にしていきたいですし、『スポルディングとだからこそ、何かできるのではないか』と感じるんです。

藤田 先ほどの「するスポーツ」から「観る・支えるスポーツ」に変えていくという話もそうですが、この大学でできること、しかも日体大はスポーツの大学なので、そこは色濃く発信していきたいです。その思いは我々に共通している部分ですし、我々にはそれを変えていく勇気があって、支えてくれるスポルディングというパートナーがいます。

根本 簡単に言えば、日体大を卒業した多くの先生方が日本中にバスケットとバレーを広めていったわけです。だからこそ、我々が変われば教え子たちも変わっていって、ひいてはその業界が変わっていく。コーチングや現場のあり方も含めて、スタイルから何から全てを変えていくためには僕らが頑張るしかないと思っています。



──始まりのスタンダード作ったのは日体大だったからこそ、それを変えていくのも日体大の責任だと考えているわけですね。

根本 そうですね。令和版のリスタンダートを作っていきたいです。それに、バスケットもバレーも同じアメリカのスポーツですから。

藤田 しかも同じ学校で生まれたスポーツですからね。現在のスプリングフィールド大でジェームズ・ネイスミス氏が考案したのがバスケットボールで、その4年後にウィリアム・G・モーガン氏によって考案されたのがバレーボールです。

根本 同じ学校で学んだ2人が作った競技で、バスケットだと激し過ぎるからということで生まれたのがバレーだったんです。バレーはもともとレクリエーションスポーツとして生まれたので、僕はもっとレクリエーショナル(自由)な雰囲気を作りたいと考えています。実際、今の男子日本代表のバレーは最高に楽しいですから。ああいう雰囲気がバレーという競技の醍醐味だと思いますし、そういう発想ができる選手の育成や頭の柔軟性を養うことを常に考えるようにしています。

藤田 今、バスケット部は練習で必ずスポルディングのアイテムを身に着けるようにしているのですが、そうしたことで学生たちが変わってきました。同じウェアを身に着けるようになったことで集団意識や団結力がグンと高まったように感じています。見ている我々もより『チームだ』と感じるようになったんです。これがユニフォームの持つ意味であり、これこそが一体感だと思います。

根本 ひとえにデザインの良さもありますね。

──スポルディングのアイテムに対する選手たちの反応はいかがですか?

藤田 選手はみんな大好きで、いろいろなバリエーションを欲しがっています。ただ、まずはベーシックなものを根付かせなければいけません。そこに加えて年に1、2回ほどは新しいアイテムを出してリーグ戦などで「じゃあ、今日はこのアイテムを着てみよう」と。それを見た観客が「あれは何だ?」と反応してくれますね。

根本 プレーしている選手たち自身が『こうしてみたい』『ああしてみたい』という考えが絶対にあるはずです。そういう発想を形にしてくれるブランドがスポルディングだと思っているので、僕としてはすごく面白いです。(つづく


【CHECK POINT】

日体大のユニフォームはかつて大学名を漢字表記にしていたが、現在はバスケット部、バレー部ともに「NSSU(Nippon Sport Science University)」のアルファベット表記に統一されている。歴史がある大学だけにユニフォームの表記を変更することは大きなチャレンジではあったが、日体大の思い切った改革により全国の学生スポーツ界にも徐々にその流れが広まりつつある。チーム名のアルファベット表記はスポルディングのこだわりの一つで、それに賛同した日体大とのタッグが日本の学生スポーツに新風を吹かせつつある!


日本体育大学男子バスケットボール部”LIONS”


日本体育大学女子バレーボール部




──ユニフォームの制作には選手の声も取り入れたのですか?

藤田 デザインについてはラフを上げてもらって、僕がキャッチボールしながら詰めていきました。着用感は実際に選手たちの声を反映しています。僕自身、デザインが好きなのでロゴは一緒に作らせていただいたり。スポルディングはそうしたキャッチボールがとてもしやすいですし、フットワークも軽いです。なかなかそういうメーカーはなくて、こちらが口出ししたらダメというような雰囲気が流れていたりするのですが、スポルディングは違いました。根本さんにしても、先ほどから何となく業界を変えていきたいという表現をしているように、自分からドンと前に出るタイプではないんです。でも、スポルディングの話をしたときには食い付きましたから。

根本 チャンスだと思ったんですよね。

藤田 それで動き出すといろいろな意見が出てきて、成功したんだなと感じましたね。

根本 藤田さんは上に登り詰めていきたいタイプで、僕は裏側から仕掛けるタイプ。『アイツ、また何か始めたぞ』という感覚というか。何かを批判することでは全くなくて、単純にこの方が良いと思う部分を変えていきたいです。だからこそ、選手に意見を聞いたり僕の意見を言ったり。スポルディングともそういうやり取りができているのはありがたいことです。
今の時代、いろいろな物事がどんどん変わっていくじゃないですか。であれば、我々も情報をキャッチして次にどうすべきかを考える方がいいです。今年と同じものを来年もやる必要はないし、あるいはもう少しブラッシュアップしようといった話もできます。我々でカレッジスポーツに社会的価値を持たせていきたい。僕らの世代でどれだけ変えていけるのかというところです。

藤田 そうですね。僕としてはもっと急ぎたいところです。どんどんいろいろなことに挑戦をしていく中でスポルディングの協力も得ながら頑張っていきたいです。我々と考えが共通している。それが一番大事ですから。






【2024年の日体大】

アップテンポなスタイルを磨き上げ日本一点を取るチームに

昨年から主力だった選手の大半が残り、より組織力を高めている今年の日体大。3年生ガードの月岡熙と4年生となった大黒柱ムトンボ・ジャンピエールの中外二枚看板に加え、ウィングには起動力と得点力を兼ね備える西部秀馬、石川響太郎(共に3年)、小澤飛悠(2年)ら実力あるスコアラーが待ち構える。今年も下級生に力のある選手が多いが、キャプテンの土家拓人や大森尊之といった4年生も健在で、特にオフェンス力は大学界随一だ。

「今年は日本一点を取るチームを目指していて、加えて3Pシュートの試投数も一番を目指しています」と藤田監督。伝統のアップテンポなスタイルにより磨きをかけ、1試合平均80得点以上を狙っていく。新シーズンは春のトーナメントで優勝すると、新人戦では準優勝、北海道で開催された新人インカレでも3位に着けた。藤田監督は「新人インカレでは結果的に3位でしたが、大会の総得点(434)では1位でした。そういう点で成果が出たのは良かったと思いますし、数字的な部分を良い成果としてリーグ戦にもつなげていけると思います」と手応えを得た様子だ。

中でも藤田監督が期待するのは月岡。アップテンポな展開を生み出す動力となる司令塔について「彼は彼のポテンシャルを見たときに輝く選手になるだろうと思っていて、予想どおりどんどん磨かれていきました。ほとんどゼロのところからスタートのPGとしてチームを引っ張っているので、3年目の彼に求めるのは自分の頭で考えてライオンズが求めるバスケットをどう表現してくれるかです」と、大きな期待を寄せる。最終目標であるインカレ制覇に向かう日体大ライオンズに注目だ。


月岡 煕(3年/昌平高)


ムトンボ・ジャンピエール(4年/東山高)






文/堀内 涼(月刊バスケットボール)、写真/山岡邦彦

タグ: 日本体育大学 スポルディング

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