Bリーグ

2024.05.17

5.12千葉ポートアリーナの記憶——アルティーリ千葉対越谷アルファーズ激闘観戦記

最後の瞬間まで試合は生きていた


A千葉はファウルゲーム。越谷のベースラインからのインバウンドプレーで、杉本がピークに対するハックで時間を止めた。これはアンスポーツマンライクファウルを宣告されるが、ここではA-xxの願いが通じたか、ピークのフリースロー成功は1本のみだった。ただし、72-70とリードを広げた越谷はまだボールを保持している。インバウンドで小寺がボールを持った途端にパードンがファウルして時計を止める。この時点でパードンがファウルアウトするとともに、A千葉のチームファウルも5つ目となり、小寺がフリースローを得て2本しっかり決めた。残り3.1秒、74-70。アルファメイトの歓声が一段と大きくなった。

しかし、A千葉はまだまだ、まったくあきらめていない。レマニスHCが逆転を狙ってタイムアウトを取った。

両チームファンが割れんばかりの大声援を浴びせ続けている。涙で目を潤ませながら見守る人、両手を合わせて目をつぶる人、ハリセンやメガホンでクラップを送る人、泣き出しそうな隣の人の手を握って選手たちを見つめる人…。会場総立ちのスタンディングオベーションに包まれた千葉ポートアリーナのコートは、祈りを捧げる場所となっていた。


©B.LEAGUE

A千葉は再び、フロントコートのコフィンコーナー外からのリスタート。今回はとにかく時間をかけずに1ポゼッション差に戻す意図のオフェンスだったようだ。得点を奪ったら即刻にプレスしてインバウンドでターンオーバーを誘う、あるいはファウルしてフリースローが落ちることを期待する狙いだったのだろう。

木田と前田がコート縦方向のカットでおとりとなり、ペイントに陣取ったアシュリーが小寺をゴール真下まで深々と押し込んだところに杉本がインバウンドパスを直接通す。アシュリーがすぐさまレイアップで得点。アレックス・デイビスがゴール下逆サイドのピークをスクリーンアウトしてスペースを作ったチームオフェンスが成功した。

越谷がエンドから松山駿にインバウンドパスを渡した直後、杉本が松山にファウルしてフリースロー。時間は1.4秒残っていた。

松山とA-xxの勝負。連日のヒーローが、嵐のようなクラップとブーイングにひるまず1本目を成功させ75-72。アルファメイトと越谷ベンチが喜びの雄叫びに沸く。2本目のミスは意図的なものだろう。バックボードとリムをはねたボールにアシュリーが食らいつく。越谷はファウルをしないよう、リバウンドに積極的に加わってはいなかった。ということは、アシュリーがボールをつかめば最後にフルコートのロングショットを良い形で打てるかも。そこに何かのはずみで越谷の誰かがファウルを犯したら...。それがないとは言えない。わずか1.4秒の間にそんな考えが駆け巡る。アシュリーが全力のフルコート・ショットを放った。さあ。どうか。ボールが放物線を描いて反対側のゴールをめがけて飛んでいく。

しかしこの放物線はリムを捉えることなくフロアに落下。ついに試合終了、75-72。越谷がA千葉に今季初の連敗を食らわせ、B1昇格とB2ファイナル進出を決めた。越谷はB2昇格5年目、プレーオフでの挑戦4度目での悲願達成。A千葉は昨年に続き、悔やみきれないほど悔しいセミファイナル敗退となった。

前田のリバースレイアップからアシュリーのラストショットがフロアに落ちるまでは、ゲームクロックの残り時間はわずか138秒だが、実際には16分以上の時間を要した。それだけこの試合は丁寧に運営され、精魂込めて進められたということだ。

悲喜こもごもの叫び声。声にならない歓喜、すべてを語る沈黙。笑顔と無念の涙、包容。やがてA-xxからの喝采がB1昇格を決めた越谷を包み、それに対しアルファメイトは、レマニスHCのあいさつに耳を傾け、「チーバ! X, X, X、チーバ! X, X, X」のコールを返して敬意を表した。悔しさが「おめでとう」に、喜びが「ありがとう」に、時とともに感情が少しずつ変容していた。


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取材を終え、アリーナを出て京成千葉中央駅に向かってさざなみ橋を渡り、新宿公園を抜ける10分か15分か、この日の対戦は少なくともA千葉が昇格を果たすまでは再び見ることがないという事実に気付き、一人感情の波に襲われた。次週の3位決定戦で千葉ポートアリーナを訪れるのは、最大でも3回だけ。新アリーナの話もあるので、この道を通る取材はこの先そんなには多くないかもしれない。この場所は、この日繰り広げられた激闘の記憶とともにはるかな未来にも語り継がれるべきだと強く感じた。


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祝福のときと試練のときという違いがあるものの、両チームのどちらにも恥じることなど一つもなかった。念願をかなえた越谷の長谷川智也の笑顔も、肩を震わせ涙に暮れたA千葉の大塚裕土の背中も、素晴らしいリーダーシップでチームをけん引した証しだ。アルファメイトとA-xxが語り部として、その雄姿をきっと10年後、20年後、その先までも栄光の思い出として伝えてくれるに違いない。





取材・文/柴田 健(月刊バスケットボールWEB)

タグ: 越谷アルファーズ B2プレーオフアルティーリ千葉

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