Bリーグ

2024.04.30

アルティーリ千葉の快進撃を支える「縁の下の力持ち」、デレク・パードン長編インタビュー

ウブントゥの考えに沿って問題点を話し合い、仲間を激励し、解決を目指す


試合中のパードンを見たことがある人ならば、レフェリーのコールで試合が止まるたびに、ウイングスパン221cmという翼のような両腕を広げて「みんな来てくれ!」というようにチームメイトを集めて何やら語らう場面を記憶している人も多いだろう。その姿には、入りたてだからと遠慮するような姿勢はなく、コート上でのリーダーシップを積極的に取ろうとする姿勢が感じられる。その結果として日本人のチームメイトたちとのコミュケーションも円滑にできているようだ。


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――初来日で日本語も大変でしょうね。勉強はされていますか?

学校に通うようなことはしていませんが、面白そうな言葉を耳にしたときに日本人のチームメイトたちに聞いて発音してみたりという感じです。確かに簡単ではないです(笑) でも、時間がかかってもいくつかの表現や言葉がわかるようになれたらいいなと。皆とのコミュニケーションもより円滑になりますからね。

――ノースウエスタン大時代についても聞かせてください。強豪が集まるビッグテン・カンファレンスの名門ですよね。そのレベルで高校での成功を継続するのは難しいことだったと思いますが、うまくできたのはどんな要因があったからでしょうか?

僕としては、自分自身の基礎に立ち返るような時間でした。子どもの頃の僕を両親や家族がどんなふうに育てようとしたかということを思い出しながら、自己満足から怠惰になるようなことがないよう心がける年月だったと思います。

アンダードッグ(格下)とみられることが多かったので、人としてもプレーヤーとしても常に自分を磨いて、日々努力を積み重ねたいと思ったし、今も思っています。頑張り屋な方でもあるので、自分の中で何かが足りないと感じたら、その部分で成長して向上していけるように最善を尽くします。

――大学時代にはどんな点が伸ばせましたか?

大学ではバスケットボールの知識面を充実させられたと感じています。アメリカのバスケットボールは、高校から大学に進む時にいきなりレベルが上がって、グンと俊敏に、強く、速くなるとよく言われます。僕はそれに、まず内面的に慣れる術を学ばなければならなかったし、相手のプレーや動きをとらえて分析できなければいけませんでした。何ごとも本当に、いきなり速くなりましたから。

認知力が高まったのも間違いありません。それとポストでの駆け引きの感覚ですね。フックショットもうまくなったし、エルボーからのドライブとか、ディフェンス全般もそうです。それ以前からディフェンスはいい方だと思っていましたけど、大学時代に一段階上に行くことができたと思います。

――スキル面は本当に興味のある部分なんです。7フッター(身長213cm)というわけではないのに、ご自分よりも大きな相手がいてもゴール近辺のフィニッシュをうまく決めきる力がありますよね。どんなところに持ち味があると思っていますか?

簡単に言うと、僕はボールに対して「鼻が利く」という感じですね。オフェンスリバウンドですごく頑張れる方なので、有利なポジションを得られることが多いです。ここ数年でより動けるようにもなったので、身長的に足りない部分を補って能力を飛躍的に伸ばせています。確かに203cmではあるんですけど、実はウイングスパンは221cmくらいで腕がとても長いので、身長差を補えているわけです。

ポストではそこを生かしてフックショットを狙ったり、自分よりも高さのある相手の頭越しの勝負もします。それに7フッターは大概の場合、速さの点で僕の方が有利なんですよね。クイックネスを生かしてスピンムーブなどいろんな動きで仕掛けて、相手を崩した上で強く押しこんでフィニッシュ。これが僕のプレーです。

――誰か、こんなふうになりたいと思って見ていたプレーヤーはいますか?

僕の中では何人かが混ざっていると思うんですけど、特に大好きだったプレーヤーは2人いますよ。かつてメンフィス・グリズリーズで活躍したザック・ランドルフがその一人です。子どもの頃は彼のプレーを本当によく見たものです。僕と同じ左利きで、サイズ的にもポストマンとしては小柄なのに、強さとうまさで7フッターやもっと大きな相手と勝負するんですから。

もう一人はケビン・ガーネットです。彼がコート上で発散するあの張り詰めたような緊迫感や、絶対に勝つんだという気合いとか厳しさ、謙虚さ。あれが僕の目指す姿だったんです。

——卒業後ヨーロッパとオセアニアに渡られて、2022-23シーズンは豪NBLでオールNBLセカンドチーム入りを果たし、最優秀ディフェンシブ・プレーヤー賞の争いでも記者投票の2位と高評価でした。何がうまく働いたのですか?

オーストラリアでは、コーチ陣とプレーヤーの核が素晴らしくて、皆が同じ目標を目指し一つになっていました。信じるべきシステムを持っていて、信じていた。皆がばらばらの個の集まりではなく、一つの家族でした。何か問題があれば最善の策が見つかるまで話し合うというようなチームだったんです。モーディ・マオールHCがうまく導いてくれていました。

僕は有能なポイントガードと協力してピック&ロールを仕掛けたり、リーグトップのチームディフェンスで「扇の要」的な役割を担っていました。僕としても誇らしく思える仕事だったし、そうなれるように毎日頑張っていました。


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——海外でプロとして生きてきたことで学んだことにはどんなことがありますか?

一般論ですが、僕が短いキャリアの間に数々の国でプレーして言えることの一つは、多くのチームが一貫性を重んじているということです。この人なら間違いなくこんなことをしてくれるというのがわかっていれば、やっぱり頼りにしやすいし、信頼を置けますよね。日々の取り組みが一貫しているとすれば、それこそがチームが欲するものです。

それと、頑張り屋であるということも大事ですね。そういう人なら、毎夜コートに送り出したときに文字通り全力を尽くしてくれる。僕はそんなプレーヤーであろうとしています。毎試合そうでありたいと思っていますよ。

——アルティーリ千葉にはほかにも外国籍のプレーヤーがいますよね。やっぱり彼らの存在でチームに馴染みやすかったりしますか?

もちろんです。アレックス(デイビス)もブランドン(アシュリー)も、一番若い僕をかわいがってくれて、僕は彼らから日本のバスケットボールにどうやったらうまく馴染めるか教えてもらっています。僕としても、いいキャリアにしたいものですね!

——来日とアルティーリ千葉入りを決めたのはどんな経緯だったんですか?

まず一番大事だったのは、日本でプレーしたりコーチングに携わったりした知人が誰も悪い話をしなかったというのがありました。結構僕の周りにはそんな知人がたくさんいたんですよ。そこに来て、僕に連絡をくれたコーチ ドレイ(アンドレ・レマニスHC)は、僕が昨シーズン在籍していたニュージーランド・ブレイカーズのかつてのヘッドコーチで、優勝経験もあると来ていました。そんな縁もあったし、話してみると素晴らしい人格者ですごくホッとできたんですよね。だから決断も簡単でした。





——アルティーリ千葉がクラブのコンセプトとしているウブントゥという言葉(Ubuntu: アフリカの哲学に由来し、『あなたがいるから私が成功できる』という意味合い)についても聞くことになったと思います。その考え方に沿ってどんな活躍をしたいと思いますか。

実は僕がこの言葉を知ったのは初めてではありませんでした。ボストン・セルティックスがチャンピオンシップを獲得したシーズン(2008年、パードンが尊敬するガーネットが在籍した当時)に、彼らがこの言葉をよく使っていたのを聞きました。これは、バスケットボールでなくても何らかの共同作業やチームで取り組むあらゆるものに適用できる大切な言葉です。

どんなことかというと、やるべきことをきちんとやってチームメイトや兄弟たちに寄り添うことです。もしそこで何か足りないものを見つけたら、彼らを助けて激励して。これは僕がチームに対してそうありたいと望む形ですよ。僕は連結役で、何かがうまくいかなかったりしたら僕もみんなを集めて話しますし、激励して皆がばらばらにならないようにします。それがウブントゥの大事なところだと思っています。

——今シーズンを戦う上での決意はどんなものでしょうか?

特に個人的な目標を掲げてはいませんが、とにかく毎日、最高の自分でいられるようにと思っています。シーズンを通じて向上していきたいですね。60試合の長丁場ですから、良い時も悪い時もあるでしょう。当然勝ちたいし、最終的にはチャンピオンシップ獲得を目指しています。それは8月の初めにみんなと一緒に初めてコートに入った時からまったく変わっていません。

——実際に来日してみて、千葉の住み心地はいかがですか?

すごくいいですね。落ち着いた街で騒々しくないし、親しみやすさもあります。いろんなものが徒歩圏内や電車でちょっとのところにそろっていて、悪くないです。楽しんでいますよ!

——これまでにユニフォームの背番号は#5#0を選んでいたと思いますが、今回の#32には何か思いがあるのですか?

本来的には#5で、これはケビン・ガーネットがお気に入りだったからです。#0は海外に出て2シーズン目に選んだ番号で、これは#5を別のプレーヤーが着ていた中で、なぜかいい感じがして。以前から何度かこれにしようかと考えたことがあった番号だったので、それを2シーズン続けました。

ところがここでは、そのどちらも別のプレーヤーがつけているじゃないですか。それで#32にしたのですが、これは僕のお気に入りのスターの一人であるシャキール・オニールにちなんで選びました。


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このインタビューを行った開幕前の時点で、パードンにお気に入りの場所などを見つけられているかを尋ねると、「今はプレシーズンでトレーニングに躍起になっていて、まだ千葉市のいろんなところを見ることができていないんです」と言っていた。シーズンも後半に差し掛かれば少しはどこか見つけたかなと、211日の山形ワイヴァンズ戦後にも同じ質問をしたのだが、パードンの答えは変わっていなかった。「今はシーズン中で、トレーニングに集中して…」

結局、年がら年中トレーニングと試合に明け暮れた2023-24シーズン。パードンにとって、アルティーリ千葉のバスケットボールはよほど楽しいものなのだろう。





取材・文/柴田 健(月刊バスケットボールWEB) (月刊バスケットボール)

タグ: アルティーリ千葉

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