泣くほど悔しい夏を乗り越えて、井上宗一郎は前へ進む


中国戦で見せた日本を救うビッグプレー

時は流れ、新天地・越谷での今季はここまで33試合に出場し、平均プレータイムは16.3分、平均得点も6.1といずれも昨季の3倍近くに飛躍。3Pシュートも32.5%とまずまずの確率で沈めている。中でも、勝利した1月20日の愛媛オレンジバイキングスとの対戦では3Pシュート4本を含むキャリアハイの24得点。チームも25勝18敗で東地区2位に着けており、「何もできなかった」昨季から大きなステップアップを遂げている。

そんな井上は再びホーバスジャパンのロスターに名を連ね、先週末に行われたアジアカップ予選のウィンドウ1に2試合ともに出場した。

グアムとの初戦では16分16秒のプレータイムで6得点、5リバウンド。3Pこそ2/7とやや低調だったが、プラスマイナスではチームトップの+17を記録した(つまり、井上で出場している時間帯は17点リードしていた)

だが、極め付けは中国との2戦目だろう。最終盤で3本連続フリースローをミスしたことは痛かった。だが、それ以前の彼のプレーは間違いなく日本の勝利に大きな影響を与えた。だからこそ、グアム戦を上回る23分47秒のプレータイムを獲得し、終盤の勝負どころでもホーバスHCは井上を下げなかったのだ。

ハイライトはいくつかあった。まずは1Qで日本がなかなか得点できなかった場面。最初の2本の3Pこそ外していた井上だが、残り3分46秒に馬場雄大のアシストから3Pを射抜いて日本の11得点目をゲットすると、そのわずか36秒後に今度は自らのディフェンスをきっかけにジョシュ・ホーキンソンからのパスを受けて連続で3Pをヒット。スコアを14-14のタイに戻し、中国にこの試合初めてのタイムアウトを取らせたのだ。



結果的に井上の得点はこの6点のみだったが、序盤の苦しい時間帯に決め切った2本の3Pがどれだけ大きな意味を持っていたかは、後の日本の戦いぶりを見れば分かるとおりだ。特に2本目を決めて雄叫びを上げた井上の姿は、半年前の悔しさを晴らすかのような、爽快なシーンだった。

ビッグプレーはもう一つあった。3Q残り1分49秒、216cmの相手ビッグマン、ハンセン・ヤンがピック&ロールからペイントに侵入し、ダンクを狙ってきた場面。ヤンのマークマンだったホーキンソンはハンドラーにダブルチームを仕掛けていたため、ゴール下はガラ空きだった。しかし、そこで左コーナーの選手をマークしていた井上が懸命なカバーでブロックに跳び、結果的にはノーファウルで相手のダンクミスを誘発したのだ。スタッツ上では井上のブロックショットはゼロとなっているが、両チームなかなかスコアできない時間帯だったこと、点差が9点だったことを考えると、このシーンも日本の勝利に大きな影響を与えたはずだ。

もちろん、まだまだ課題は山積みだ。前述したフリースロー3連続ミスもしかり、ガードやウィングの選手へのスイッチを余儀なくされた場面でのディフェンスももう少し踏ん張りたいところ。特に前者については本人も反省の弁を述べている。

だが、Bリーグの外国籍選手相手に鍛えたフィジカルはこの2試合でしっかりと結果となって表れ、3Pも引き続き日本代表では重宝されるだろう。

「歴史を変えたチームは何が違ったのかを、越谷アルファーズに持ち帰って還元できると思います。通用しないとは思っていないですし、自分も自信を持っています。この12人の一員になれたことに誇りを持っています」

ワールドカップで語ったこの言葉を見事に実行し、今度は越谷での経験を日本代表に還元している井上。沖縄では泣くほど悔しい思いをした。だからこそ、もう一度選考レースを勝ち抜き、今度はパリで泣くほどうれしい思いをしたい。



取材・文/堀内涼(月刊バスケットボール)

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