窮地の川崎ブレイブサンダースで益子拓己が真のヒーローになるとき
ホームプロデビューで3Pショット4本すべて成功、12得点
その3日後、2月7日に川崎市とどろきアリーナで行われた琉球戦は、B1ディフェンディング・チャンピオンを相手にプロとして初めて挑むだけでなく、ホームコートでのプロデビューという益子にとっては特別な意味を持つビッグゲームだ。「ケガ人がいてチームは苦しい状況ですが、こうやってベンチから出てチームのエナジーになれればと思っているので、水曜日(7日)も頑張ります」と益子自身も闘志を燃やすコメントを残していた。
全員のステップアップが必要な状況で迎えたこの一戦で、益子は3Pショット4本すべてを決めてキャリアハイを更新する12得点を記録した。リバウンド、アシスト、スティールも1本ずつ。しかも、最も活躍したのは川崎が54-69の15点ビハインドから粘り腰の追い上げを見せた第4Qだ。このクォーターで益子は3本の3Pショットをミスなしで沈めているのだ。

琉球ゴールデンキングス戦での益子は、打てば決まるというシューターとしての高い能力を見せつけた(©KAWASAKI BRAVE THUNDERS)
クォーター開始からわずか14秒過ぎに、反撃の幕を開けたのも益子の3Pショットだった。右ウイングから2人のビッグマンがしかけたスタッガード・スクリーンを使ってベースライン際を逆サイドのコーナーに駆け抜けた益子に、篠山からボールがスウィングされてきた。キャッチした益子は、懸命にクローズアウトに来る牧隼利の手がボールの軌道にかかるよりも一瞬速くボールをリリース。みごとなレインボー・スリーがゴールを射抜いた。
第3Qまで川崎を苦しめていた琉球のゾーンディフェンスを無力化するのに最も有効な一撃で、スコアは57-69。琉球も松脇圭志の3Pショットとヴィック・ローのベビーフックで突き放すが、川崎はウィンブッシュ、アレンのフィールドゴールで対抗。残り6分18秒で61-74。益子のこの日3本目の3Pショットが飛び出したのは、この時だった。
この時間帯にはウィンブッシュがベンチに下がっており、川崎は外国籍プレーヤーがアレンだけ。琉球が高さを生かすゾーンディフェンスを継続し、勝負を決めにかかっていた中で、川崎としては喉から手が出るほど欲しかったゾーンバスターが飛び出した。
野﨑零也のミスショットをうまく自チームのボールにした増田啓介のティップから、篠山がつないだセカンドチャンスを益子が生かしたこのプレーで、琉球の桶谷大HCはたまらずタイムアウト。57-67の10点差は十分射程距離だ。笑顔を輝かせながら篠山とチェストバンプする益子の姿が、川崎に流れが来ていることも感じさせていた。
益子のストリークはまだ止まらない。この試合最後の長距離弾は残り4分25秒。川崎の追い上げをさらに加速するビッグプレーだった。始まりは一つ前のディフェンスだ。アグレッシブなトラップを仕掛けたことでバランスを崩した川崎のディフェンスを見て、アレックス・カークがペイントに駆け込む。このカットムーブに益子が懸命にローテーションして対応した。ウイングでボールを手にしていた今村佳太が、211cmのカークと186cmの益子のミスマッチを見逃さずパスを送ってきた。
しかし益子はうまくカークの前に回り込み、このボールをインターセプト。はじかれたボールは篠山の手に収まり、川崎がカウンターの速攻に転じた。瞬時にボールはフロントランナーとなった野﨑へ。猛然とペイントに突進する野﨑が十分相手をゴール下まで引っ張っていったところで、ボールが益子に巡ってきた。オープンルックだ。ズドン! 71-78。この時点でいよいよ点差は7まで縮まった。
益子が真のヒーローと呼ばれるためには、勝利を積み重ねることが必要だろう。しかしデビュー3試合目までの活躍で、ポテンシャルの高さは十分感じさせた(©KAWASAKI BRAVE THUNDERS)
その後一度は5点差まで詰めた川崎だが、最後には琉球の特徴であるフロントラインの層の厚みと3Pショットで押し切られ敗れた。しかし佐藤賢次HCは試合後、「試合を通してインサイドが不利な中で色々仕掛けて相手のターンオーバーを17個誘うことができましたし、一人ひとりがしっかりファイトする姿勢は見せられました」と前を向くコメントを残している。篠山も「これだけケガ人が出ている中でも琉球に対してもう一息のところまで行けたというところで自信は得られたので、あとは、オフェンス・ディフェンスでうまくいったところといかなかったところをしっかりブラッシュアップさせて、迷いなくチャレンジャーとしてぶつかっていけるように、まずはこの土日(茨城ロボッツ戦)で良い試合をしたいと思います」と次節への抱負を語っている。
京都とのGAME2後に「全然まだまだで、チームでやろうとしていることの質をもっと高めて自分自身まだまだやれることがあるなと感じました」と話していた益子は、この日はプロとして自身のパフォーマンス以上に黒星の重みを受け止め、勝利への意欲を強くしたのではないだろうか。以下のコメントからもそれが感じられる。
「選手が欠けて行く中でリバウンドのところはしっかりフィジカルバトルしようと試合に入りました。前半セカンドチャンスを与えてしまって相手にリズムを作られてしまったところはあったんですが、ハーフタイムに全員で話し合ってもう一度リバウンド、フィジカルでバトルしてセカンドチャンスを全員で消そうとプレーしました。結果は負けてしまいましたが、それでも追いつけそうなところまでは行けて、チームとしては勝てるという自信も見えたのでそこは良かったと思います」
プロとしての最初の3試合で平均7.7得点、3P成功率66.7%(9本中6本成功)、フィールドゴール成功率も同じく66.7%(12本中8本成功)という数字は「まずまず」を超えるレベルだ。しかし1勝2敗の流れでは、ヒーローと呼ぶにはまだ早いかもしれない。それでも琉球戦での益子の活躍と試合後のコメントは、そう呼ばれるべきプレーヤーの気概を感じさせるものだった。はたして真のヒーローになれるかどうか。挑戦の本番はこれからだ。
文/柴田 健(月刊バスケットボールWEB) (月刊バスケットボール)
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