2023-24アルティーリ千葉の進化
3. 平均失点、平均ブロック数がトップ5入り
夏場の公開練習時にレマニスHCが明かした戦力補強のポイントはディフェンス面で、特にリムプロテクションの強化だった。現在の好調さを支えているのはまさしくこの部分での改善だ。以下の2つのデータがそれを如実に物語っている。
☆ディフェンス面の改善を示すデータ
平均失点(リーグ順位) ※少ない方からの順位
2022-23: 79.2(8) → 2023-24: 74.6(1)
ブロックショット(リーグ順位)
2022-23: 2.3(11) → 2023-24: 3.4(1)
ブロックショットに関しては特に外国籍プレーヤー3人の威力が絶大で、デイビスとアシュリーがリーグ全体の上位5人に名を連ね、パードンも1月20、21日のライジングゼファー福岡戦前まではトップ10入りしていた。しかも3人とも、ファウルを我慢しながらこの数値を叩き出している。
左からブランドン・アシュリー、デレク・パードン、アレックス・デイビスの外国籍トリオ(写真/©B.LEAGUE)
昨シーズンの外国籍トリオ(アシュリー、レオ・ライオンズ、イバン・ラベネル)は、毎試合平均9.0回ファウルをコールされていた(短期契約でケビン・コッツァーも出場したが、ここでは主要の3人に絞る)。対して今シーズンはアシュリー、デイビス、パードンの平均ファウル数合計が7.1。唯一契約を継続して実際にプレーしているアシュリーは、平均ファウル数が3.6から2.9に減少し、ファウルアウトの頻度もレギュラーシーズン出場試合数の30.5%(59試合中18試合)から15.6%(34試合中5試合)と激減している。その上、今シーズンはBリーグ歴代最長身の226cmというリュウ チュアンシンをアジア枠で起用できる強みがあり、熊谷にもショットブロッカーの役割を期待できる。これはチームとして頼りがいがあるに違いない。本人たちもプレーしやすいだろう。
4. 日本国籍プレーヤーの得点比率向上
アルティーリ千葉の日本国籍プレーヤーの中でトップとなる平均11.4得点を記録している木田貴明(写真/©B.LEAGUE)
オフェンス面にも進化の跡はいくつも見られるが、中でも興味深いのは日本国籍プレーヤーの得点比率の上昇だ。わかりやすい例は木田で、平均得点が昨シーズンの8.8から2桁に乗せる11.4に上昇している。これは木田のキャリアで2番目に高い。日本国籍の“トップガン”は、昨シーズンだと木田(8.8)、大塚(8.6)、杉本(7.0)で合計24.4だった。今シーズンは木田(11.4)と前田(9.1)、大塚(8.5)の顔ぶれとなり合計は29.0に上昇。しかも杉本(6.9)も下降したわけではない(現時点では、デビュー3試合目の特別指定選手、黒川虎徹が7.0で4番手に入ってきているが、まだ議論に含めるには早いだろう)。
逆に外国籍プレーヤーの平均得点は、昨シーズンの主要の3人がいずれも平均で15.0を超えていた(アシュリー18.4、ライオンズ16.3、ラベネル15.5、合計50.2)が、今シーズンはアシュリー(16.5)以外のパードン(14.2)とデイビス(11.0)は“控え目”。3人の合計41.7は昨シーズンの3人よりも8.5低い。アジア枠(昨シーズンのコービー・パラスは平均5.3得点、今シーズンのリュウは平均3.7得点)まで含めるとさらに落差は10.1まで広がる。にもかかわらず、チームとしての平均得点は昨シーズンの86.4から88.0に上昇している。これは日本国籍プレーヤーたちの奮起が表れている部分だ。
5. クラブとしての進化を示す入場者数の激増
最後に入場者数の激増についても触れておきたい。第18節までの15試合で、アルティーリ千葉のホームゲーム平均入場者数は4,934人に上る。昨シーズンの1,926人から何と2.6倍という激増ぶりで、B1上位クラブにも張り合えるレベルだ。これは進化というよりも突然変異に近い現象と言ったほうが正しいかもしれない。
試合当日の千葉ポートアリーナでは、「偉大なる歴史を作る」、「世界を魅了するクラブになる」というクラブコンセプトと決意を感じさせる装飾や展示がファンを出迎える(今シーズンからファンはA-xx[アックス]の愛称で呼ばれている)。初めての来場者が楽しめる工夫もいっぱいだ。オリジナリティーあふれる演出、パートナー企業と一体となったファンサービス、地域色や個々の対戦に紐づいたキッチンカーの出店などが醸し出す空気を楽しみながら、どんな選手がどんなプレーを見せるのかと会話を膨らませている間に、ティップオフの瞬間はすぐにやってくる。
昨年10月25日の水曜ナイター(福島ファイヤーボンズ戦)では、前半終了時点でビールが売り切れたという。仕入れが少なかったから? そうではなかった。4,632人の大観衆が見守る中でアルティーリ千葉が98-80の勝利を挙げたこの夜、ビールは通常の土日2日間分運び込んでいたそうだ。
通のファンにとっては、言うまでもなくすべてがそろっている。ここにはコロナ禍のクラブ誕生とその成長を見守ってきた喜びがあり、B2昇格、昨シーズンのリーグ最高勝率と東地区制覇という歴史がある。B1昇格を逃した悔しさももちろん忘れるわけはない。しかしそれさえも、全力を尽くした記憶としてチームとファンが共有している力だ。多くの人々が今、その力になりたいと思っていることの表れが、入場者数の激増に他ならない。その力を受けて戦うホームゲームでアルティーリ千葉が14勝1敗と圧倒的に強く、2番目の項目で触れたとおり5点差以内の試合さえない理由は、タレント集団という一言では説明しきれない。クラブとしての進化が土台となっているのだ。
チアダンスチームAillsが声掛けを行うホームゲームでの令和6年能登半島地震被災地支援募金活動の様子(写真/©B.LEAGUE)
以上、アルティーリ千葉の進化の痕跡を追ってみたが、忘れてはならないことが2つある。
一つは、進化が終わったわけではないということだ。フロントラインでリュウをどのように生かし、伸ばしていけるか。出場機会が少ない鶴田美勇士にも伸びしろが大いにある。バックコートでは、Bリーグデビューしたてのルーキー黒川にも同じことが言える。「まずはオフェンスのプレーを覚えること」を課題に据える黒川が、レマニスHCのフローオフェンスを自在に展開できるようになるのはこれからであり、威力が増していく可能性が大きいだろう。
逆の意味では、現時点での成績が何ら将来を保証しないということも真実だ。昨シーズンの結果を受け、アルティーリ千葉には優勝とB1昇格という結果以外に、自分たちとして満足のいく形で進化を証明する方法はない。戦いは実際に目的を果たすまで続いていく。
今の努力は昇格・優勝争いの舞台であるプレーオフへの進出と、ホームコートアドバンテージ獲得に対してであって、「最後に勝ち切ることができるか」という究極の問いは、その舞台に立ったところからが始まりだ。今のところ、そこに行きつく権利はすべてのチームが持っているのである。