Bリーグ

2023.11.04

“ミスター・ナイスガイ”アレックス・デイビス(アルティーリ千葉)への期待

新たな環境と役割に戸惑いつつも、堅実さを維持する序盤戦


ここまでのデイビスは、数字的には堅実で前向きに捉えるべき要素をいくつも提供している。新たな環境でこれまでと異なるベンチスタートの役割ということもあり、まだ慣れ切れていない部分もあるようだが、控えの立場としてフィールドゴール成功率57.1%で平均9.6得点はまずまずだろう。キャリアハイの3P成功率50.0%に加えて5.6リバウンド、1.2ブロック。また2.3アシストはBリーグにおける4年間のキャリアで2番目に良い数字だ。

青森ワッツで平均14.9得点、8.2リバウンド、1.4ブロックを記録していた昨シーズンには劣るという見方をする人もいるかもしれない。しかしその最大の原因はバックアップの立場で出場時間が短くなっているからだ。

ここで、デイビスがスターターに入っていないことが、イコール彼が実力的に外国籍の3番手ということを意味していないということは付け加えておきたい。レマニスHCは、40分間コート上でプレーする5人の総合力が落ちないようなタレントの割り振りをしている。デイビスとともに今シーズンから加わった前田怜緒にしても、ベンチから出てきてそれまでと異なるリズムを生み出したり、少しエナジーレベルが落ちたところで逆にスターター以上の威力を発揮するプレーヤーとしてベンチに置いていることを、かねがね語っていた。デイビスの場合も、ほかの二人の外国籍プレーヤーと明らかに異なる特性を考慮して、ベンチから勢いをもたらす存在として期待しているのだ。

ちなみにデイビスのパフォーマンスを1分間当たりの数字に換算すると、今シーズンは0.45得点、0.26リバウンド、0.06ブロックだ。これらはいずれも昨シーズンの0.48得点、0.27リバウンド、0.04ブロックに比べてほぼ等価と言える。

ただ、デイビス自身も、新進気鋭のアルティーリ千葉で自らの最高の姿を出し切れていないと感じているようだった。クラブとして、2021年の誕生から5年間で日本一を目指し、偉大なる歴史を作ろうという目標を熱烈に追いかけていることを強く認識しているのもその理由かもしれない。「昨シーズン皆さんが見てくれていたプレーヤーに、これまで僕はなれていないと感じていました」。デイビスは会見でこう明かしている。

その前の週末、アルティーリ千葉は越谷アルファーズに対して71-89で今シーズン初黒星を喫した。デイビスは5得点のみ。8本中2本のフィールドゴールしか成功させられなかったことに加えて、フリースローを4本連続でミスする悔しい内容に終わっている。新たな役割に対する意欲が空回りしているのか、相手が強かったからなのか。いずれにしても、確かにあの日曜日午後のデイビスは、デイビスらしからぬデイビスだったことは間違いない。

そんなデイビスの様子を見たレマニスHCが、福島戦前日にデイビスに声をかけてきたという。レマニスHCはオーストラリア代表の指揮官として、チームをリオオリンピックとFIBAワールドカップ2019で立て続けにベスト4に導いたコーチだ。こんなときへの経験にも事欠かない。

「コーチは僕に、もっと自分らしくしてくれればいいんだと言ってくれました。最初の6試合でも、本来はもっとアグレッシブなのにそれが出せていないと感じていたんです。今日の試合ではそこを意識してオフェンスでアグレッシブに攻め、ディフェンスでもトランジションに襲い掛かってブロックショットしよう、ディフェンス面で存在感を示そうと思ってプレーしました。そこに気持ちを集中させた結果として、それをしっかりお見せできたかなと思います」





デイビスの前に会見に登壇したレマニスHCは、デイビスの活躍を受け次のように語っていた。

「アレックスは本当にいい男で、このチームでほかのみんなに溶け込もう、どうやったらグループの中でうまくプレーできるかと一生懸命でした。その様子を見ていて、そこであまりにも頑張りすぎて自分の持ち味を犠牲にしてしまっているかなと思ったもので、ちょっとそれについて話をして少し気楽にやってみたらどうかと激励したんですよ。君の得意なことをやってみてほしいとね。その一つがブロックショットなわけですが」


福島戦勝利の後、会見でアンドレ・レマニスHCもデイビスの活躍を称えていた(写真/©B.LEAGUE)

その会話でデイビスに即座に変化が見られたことを、レマニスHCは喜んでいた。「今夜の彼の活躍はうれしいですね。これまでよりも自由に、ストレスなくプレーできていたみたいだし、運動能力を十分に生かして皆さんが期待している通りの素晴らしい活躍をしてくれたと思います」

武道一家で鍛えられた内面の強さが真価を発揮し始めた

コーチやチームメイトからの励ましは、デイビスが内面の葛藤に勝つ、あるいはそれを忘れるのに役立った。「彼(レマニスHC)は、気楽に出ていってあれこれ考えずに自分のやり方を貫けばいいと言ってくれました。スギ(杉本 慶)やユウト(大塚裕土)みたいな素晴らしいチームメイトもいますしね。彼らはいつも、気にしないで打ち続けろ、心配するな、悩んで行き詰まったりするな、次のショット、次のフリースローに集中していけば決まるよと言ってくれます」。リラックスした雰囲気の千葉の街に、外国籍のビッグマントリオで一緒に出かけるのも気晴らしになっているようだ。「オフの日は、ブランドン(アシュリー)と僕、DP(デレク・パードン)で外に出て、ゆっくり食事して家族の話をしたりして、ちょっとバスケから心を解放していますよ」とデイビスは話す。

福島戦の勝利から、アルティーリ千葉は3連勝中。統計的に小さなサンプルサイズとはいえ、デイビスはその間にフィールドゴール成功率61.9%で11.3得点、7.3リバウンド、1.3ブロックとアベレージを上昇させ、3Pショットも3本中2本を決めている。これらはどうやら“ミスター・ナイスガイ”の性格と、“アルファドッグ(alpha dog=群を抜いて強力な存在)”としてのメンタリティーのバランスが整いつつある兆しのように思える。「彼(レマニスHC)の要望や期待は理解しています。今シーズン中これからは、今夜お見せした僕の姿をずっとお見せできるようにするつもりですよ」。B2のほかのクラブにとっては警戒すべきコメントだ。

テキサス州ヒューストン出身のデイビスは、実は武道家の一家で育てられたという背景を持っている。父も兄弟もボクシングや空手をたしなみ、デイビス自身も全米に知られる強豪のイェーツ高校でバスケットボールを始めるまでは、家族と一緒にやっていたという。バスケットボールに関しては、それまでは地元のプレーグラウンドやレクリエーション・センター(公民館の体育館)で腕を磨き、イェーツ高校からフレスノ州大に進んで力をつけていった。

武芸に秀でた人は内面の管理もしっかりできるものだ。デイビスはまさしく、今その力を発揮し始めている。


左からブランドン・アシュリー、デレク・パードン、そしてデイビスのアルティーリ千葉外国籍トリオ。ケミストリーも非常に良さそうだ(写真/©B.LEAGUE)



取材・文/柴田 健(月刊バスケットボールWEB) (月刊バスケットボール)

タグ: アルティーリ千葉 B2リーグ

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