技術&戦術

2023.10.09

「コート上でもそれ以外でも万能性がカギ」 - 著名NBAスキルコーチ、ドリュー・ハンレン氏インタビュー

ショットメイク、プレーメイク、ディフェンスで差がつく


——昨今のNBAでも世界のバスケットボールでも、パッと浮かぶのは3&D3Pショットとディフェンス力を持ち味とする運動能力の高いプレーヤー)、ロングレンジ・シューティング、スモールボールなどの言葉です。次に来る流れは何だと思いますか?

NBAの潮流については映像研究などで常に注視しています。大柄なプレーヤーが支配した時期を経てルール変更が行われた後、プレースタイルも変わり、分析がかなりものを言う時代にもなりました。どのチームも3Pショットをたくさん狙い、レイアップの機会を作り、フリースローをもらおうとしてきたのが近年の傾向です。

となればディフェンス側も当然それに対策してくるので、ミドルレンジとミドルポストを生かす戦い方が息を吹き返すかもしれませんよ。だから、次にやってくる流れは、1番から5番までオフェンスでもディフェンスでもプレーできるプレーヤーのいっそうの躍進だと私は思います。ニコラ・ヨキッチ、ドマンタス・サボニス、ドレイモンド・グリーンのようなポイントフォワードがボールを持ち万能性の高いプレーをするようになるので、アウトサイドで彼らをガードしなければならないディフェンス側のビッグマンたちは苦しめられるでしょう。長身で大柄、かつボールさばきがうまい万能プレーヤーが今以上に増えます。万能性がカギになり、コート上の5人全員がシューターで、ピック&ロールにスウィッチで対応できる。それが潮流になると思います。

——日本には河村勇輝や富樫勇樹のような小柄なプレーヤーがいますが、そんな中で彼らのようなプレーヤーが次なるレベルに到達する可能性をどう見ていますか?

ステフィン・カリーは現在世界最高のプレーヤーの一人で、歴代プレーヤーの中でも最高の一人です。差を生んでいる「セパレーター」はシューティング。つまり、まずはシュートが上手ければ高いレベルでプレーできます。

プレーメイクも差を生む要素です。往年のスティーブ・ナッシュを思い出すといいでしょう。MVP2回受賞した彼は特に大きくもなく、運動能力が高いわけでもありませんでしたが、チームメイトの力を引き出すIQが高く、正しいプレーを安定して生み出していました。そこで本当に優れていたから彼は成功したんです。もう少し昔の例でジョン・ストックトンというプレーヤーがいましたね。彼はものすごくタフで、ディフェンスの厳しさをチームに浸透させ、オフェンスをうまく走らせました。

総じて、シュートがうまい、駆け引きがうまい、厳しく守れるという特徴があるプレーヤーであることが重要ですね。そんなプレーヤーなら高さやサイズ、運動能力で劣っていても、常に活躍の場があります。

——日本人としては、英語でのコミュニケーションがとても難しい部分でもあります。多くの日本人プレーヤーがその部分で苦戦していますが、英語でのコミュニケーションはどのくらい大事だと思いますか?

バスケットボールという競技のいいところは、違う言葉を話すプレーヤーやコーチ、トレーナーが、バスケットボールを好きだというところで一つになることだと思います。チームメイトやコーチとのコミュニケーションは常に大事ですね。

今回私は優秀な通訳に恵まれて、日本語しか使わない若者たちにスキルや練習方法を伝えることができました。お互いにやり取りする中では、言葉以外にも表情や手振りなどでいろんなことを伝えることはできますから、言葉が違ってもいろんなメッセージを伝えあうことはできます。

——日本のプレーヤーに英語を勉強するように助言しますか?

できれば、チームメイト全員が同じ言葉を通じてつながれたらいいでしょう。私は英語を話すので、誰もが英語を話してくれたら助かります。でも、それ以上にバスケットボールという競技を高いレベルで理解することが大切ですね。NBAを見ながらアナウンサーが英語で何を話しているのかを聞いてみたりすれば、英語に触れているうちに彼らが話している内容がわかるようになっていくのではないかと思います。(英語で構成されている)映像をソーシャルメディアで見つけて、そこでコーチが話していることを聞くのも学びになるでしょう。

私は常々、コート上ではできるだけ万能であることがいいことだと思っていますが、コート外でも万能であれたらもっといいですよね。いろんな言葉を使えたら、より多くの人から学ぶことができますから。これは常にプラスになることですよ。



ゲームを理解するのが大事、そのためにも英語に慣れることが助けになる

ハンレン氏は世界各地でクリニックを行っており、日本は37ヵ国目とのこと。「いつかぜひとも来たい場所でした(This is a place that has been on my bucket list for a long time)」と語るほど、日本の文化やバスケットボールの発展に興味を持っており、日本のプレーヤーの技術習得の助けになれることを喜んでいた。

第二言語の習得などにより、コート上でもそれ以外でも万能になれたらチャンスが広がるという言葉は、日本から世界を目指す若者とその家族には、非常に示唆に富んだ助言だろう。ハンレン氏は、プレーヤーとしての成長のカギは第一にバスケットボールの知識を蓄えることであり、いかにゲームを理解できるかが重要であると語っている。ただしそのために本場の情報を取り込む上で、語学習得が大きな助けになることにも触れており、両輪のバランスをとって取り組むことを推奨している。

見学させてもらったクリニックでは、主に11におけるいわゆるダウンヒルのプレーとシューティング、そしてディフェンスに主眼を置いたワークアウトを行っていた。1歩の踏み出し方やボールを保持する位置など、細かなところまで指示を出し、子どもたちの動きで気になるところを見つければ即座にプレーを止めて助言をするきめ細やかな指導ぶりだった。


©Acredite

ハンレン氏は自身のYouTubeチャンネルなどでNBAプレーヤーとのワークアウトの映像を公開しており、またさまざまなポッドキャストや番組にゲストとして登場してはバスケットボールのコーチングについて話している。どんな内容のドリルをどんな考えでやっているのか、興味がある方はぜひ一度見ていただきたい。それは、コーチの立場であれプレーヤーであれ、現場でのコミュニケーションがどんなスピード感で、どんなことをやり取りしているのかを感じて、耳慣れすることにも間違いなく役立つはずだ。

ドリュー・ハンレン公式YouTubeチャンネル「Pure Sweat Basketball」
ドリュー・ハンレン公式サイト「Pure Sweat Basketball」
Tokyo Samurai公式サイト




取材・文/柴田 健(月刊バスケットボールWEB) (月刊バスケットボール)

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