月刊バスケットボール6月号

技術&戦術

2023.10.09

「コート上でもそれ以外でも万能性がカギ」 - 著名NBAスキルコーチ、ドリュー・ハンレン氏インタビュー

ジェイソン・テイタム、ブラッドリー・ビール、ジョエル・エンビードら、NBAを代表するスーパースターのスキルコーチを務めるドリュー・ハンレン氏が来日し、日本の子どもたちを対象としたバスケットボール・クリニックを開催。「彼は一人や二人のNBAプレーヤーの練習に何度かつきあったことがあるというレベルではない、本物のNBAスキルコーチですよ。よかったら見に来ませんか?」。Tokyo Samuraiのヘッドコーチ、クリス・シーセンからのそんな誘いを受けてその現場に足を運び、インタビューさせてもらった。
取材協力=Tokyo Samurai




ブラッドリー・ビールの飛躍を後押ししたことがきっかけでコーチングの道が開ける

——バスケットボールのコーチを志したきっかけはどんなことだったのですか?

バスケットボールは小さな頃から楽しんでいたんです。ミズーリ州セントルイス育ちで、シカゴに近かったのでマイケル・ジョーダンの大ファンでした。毎日学校に行く前も帰ってからもプレーして、夜には試合を見てという具合で、いつもバスケットボールのそばにいたかったんですね。それが高じて、高校のジュニア(高3)だった頃には、セントルイスのプレーヤーたちとワークアウトをし始めていました。

その頃一緒にワークアウトした子たちの一人にブラッドリー・ビールがいました。ブラッドはフレッシュマン(高1)からソフォモア(高2)にかけて平均得点が8得点から25得点に上昇したんですが、彼の向上していく様子を見て、多くの人が私とワークアウトしたいと言い出すようになったんですよ。

実際にプレーヤーたちと一緒に取り組み始めると、そこに私はやりがいを二つ見つけることができました。人助けとバスケットボールですね。トレーニングを通じてどちらもできるわけです。それでこの仕事が大好きになり、もっと研究して良いコーチになろうと思ったしだいです。後はご存じのとおりで、一つの歴史になりました。

——恩師のような人はいますか?

ええ、私のバスケットボール人生には、高校時代のコーチだったジェイ・ブロッサムという恩師がいます。彼は私に、良いコーチはプレーヤーが必要とすることに取り組むようにするのであって、やりたいことばかりに時間を費やすものではないということを教えてくれた人です。

ワークアウトは得てして、何でも楽しい方に行ってしまいがちです。でも、得意なことばかりではなく、あまり楽しくないことに取り組むべきときもあります。苦手の克服に取り組まないと、対戦相手にねじ伏せられてしまいますからね。彼からは価値ある教えをもらいました。私が最も多くを学んだコーチで、トレーナーとしてどんな姿勢であるべきかを作ってくれた人です。


©Acredite

苦手にも取り組み、プレーヤーが必要とすることを見抜いて必要な情報を提供するのがコーチの姿勢

——例えば若き日のテイタムと今の彼をコーチするのでは、どんな違いがありますか?

バスケットボールのコーチングは、プレーヤーが何に取り組むべきかを見出して、そこについてものすごく上手にするということに尽きると思うんです。ジェイソンやブラッドが高校に入りたてだった頃の練習は、やりたいことがたくさんありましたが、我々は一番大切なものに集中しました。今彼らは世界でも最高レベルのプレーヤーと呼ばれる立場になっても、過程としては当時同じです。常々一番大切なことを選りすぐって細部に集中して取り組み、得意になるまで訓練を重ねます。

正直、若いプレーヤーとNBAプレーヤーのワークアウトはまったく同じです。NBAプレーヤーはずっと上手で技術も運動能力も強さも上ですから、取り組む技術のレベルは上ですけれどね。若いプレーヤーはまず基礎に目を向けて、そのレベルの技術習得が可能になってからやる。違うのはそこだけです。

——若者相手とプロ相手ではコミュニケーションのやり方がありませんか?

若い人たちとの場合は、彼らが理解しやすいようにゲームを本当に簡単にかみ砕きますね。彼らは若い分まだまだ知らないことがたくさんあります。コーチとしての仕事は知っていることをすべて渡すことではなく、彼らが何を必要としているのかを教えて、伝えた情報を持って帰って実戦で使えるようにすることになります。ハイレベルなプレーヤーの場合には、簡略化してしまう部分を細部まで突っ込んで伝えますが、それはゲームのちょっとした差まで彼らが理解できるからです。

——ビッグマンにはオーソドックスなポストプレーを教えるのですか? それとももっと万能スタイルの方向ですか?

NBA2000年代に入ってかなり変化がありました。ルールが変わってビッグマンをダブルチームしてよくなりましたから。振り返ってみると、シャキール・オニールがコービ・ブライアントと一緒にリーグ制覇に成功して以来、ゴールを背負ってプレーするタイプのビッグマンで勝てた例はほとんどないのではないかと思います。ニコラ・ヨキッチやヤニス・アデトクンボンドのような長身プレーヤーお、オフェンスの起点になって縦に攻め込んでいくスタイルですよね。

私たちもこのルール変更に対応しています。エンビードを見ると、レギュラーシーズンにものすごく支配的な活躍をできていても、プレーオフでは相手ディフェンスがいっそう強烈にダブルチーム、トリプルチームをしかけてくるので、ポストアップとアイソレーションに頼るだけでは難しくなってしまいます。なので、もちろんローポストの支配力を高める練習はやりますし、ゴール近辺でオールを受けてフィニッシュできれば一番いいとは思いますが、ポストシーズンのディフェンスはそれが簡単にできるものではないというのが現実です。



取材・文/柴田 健(月刊バスケットボールWEB) (月刊バスケットボール)

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