比江島慎「完璧だった男が苦難の末につかんだ栄光と自信」[リバイバル記事]

悔しさ、自信、責任を原動力に頂点へ


場面変わって帰国後の18-19シーズン、比江島はシーズン途中での合流もあり、ベンチからの出場となっていた。「ブレックスのディフェンスはリーグ屈指なので、それに慣れるのには時間がかかりました。もしスタメンで出ていたらチームに迷惑もかけていただろうし、ベンチスタートの経験は少なかったのでアジャストが大変でした」と比江島。慣れない控えからの出場についても「宇都宮に来てベンチスタートの重要性を肌で感じることができました。試合の状況をより見なければいけなくて、スタートの流れが悪ければよりアグレッシブに、流れが良ければそれを引き継がなければいけません。試合の中でアジャストすることは勉強できましたし、それは日本代表で八村塁選手や渡邊雄太選手が入ってきて、自分が控えに回ったときに生きたと思います」と言う。
振り返ると、あの時点で比江島をベンチ起用するという思い切った選択が取れるチームは宇都宮だけだったのではないだろうか。キャリアのピークにスタメン出場が確約されない立場に身を置いた経験も、比江島に選手としての深みをもたらした。

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そして19-20シーズンにスタメンに戻ると、20−21シーズンは昨季CSでの大爆発につながる伏線となる。このシーズンは当時の安齋竜三HC(現越谷HC)が「絶対に優勝というところまでチームを作り上げてきた」という勝負の年で、レギュラーシーズン(49勝11敗)とCSを圧倒的な強さで駆け抜け、ファイナルでは千葉ジェッツと対戦。ただ、肝心のファイナルでは最終第3戦までもつれる激闘の末に敗れたのだった。比江島にとっては優勝が目の前でこぼれ落ちたことはもちろん、千葉Jの徹底マークに苦しみ僅か平均6.7得点に抑え込まれた悔しさもあり、敗戦後の会見では何度も「申し訳ない」という言葉を繰り返した。
しかし、シーズン直後の東京2020オリンピックでは八村、渡邊、馬場雄大の海外組に次ぐ平均7.7得点を記録。3試合中2試合で2桁得点を挙げ、47.6%のFG成功率はチーム2位とファイナルの悔しさを燃料に変えてみせた。「オリンピックでは世界を相手に通用した部分があって、それが自信につながりました」と比江島。



悔しさと自信を糧として、良い手応えをつかんで21-22シーズンにつなげたわけだが、時を同じくして宇都宮にとって分岐点となる出来事が起こる。長年チームを支えてきたジェフ・ギブスとライアン・ロシターの退団による主力の大幅な入れ替えだ。「攻めてほしいというのは最初から言われていたことで、あとは自分の意識が変わるかどうかの問題でした。ジェフとライアンが抜けたことで、より自分がしっかりしなければという責任を持てました。最初からやれよって感じですけど(笑)…あそこで完全にスイッチが切り替わりました」。

そして、一昨季のファイナルである。よりアグレッシブに、ハードに仕掛け続けて琉球ゴールデンキングスを2連勝で撃破。平均得点は前年ファイナルの約3倍となる20.5得点で、第2戦で琉球に引導を渡すスティールからのレイアップは、比江島がさらにステップアップしたことを象徴するものとなった。
苦難を乗り越え、名実共に宇都宮のエースとなった比江島。彼が今、選手として目指すのは日本代表としての世界での1勝だ。「まだまだ世界との差は埋まっていませんが、Bリーグでレベルアップできるのは去年経験できたことです。国内で成長しながら活躍し続けて、来年のワールドカップや再来年のオリンピックにつなげていきたい」。当時語っていた目標は、ワールドカップで達成することになった。





比江島を長年間近で見てきた渡邊はワールドカップ中、「僕は『彼を止められる選手は世界でもなかなかいない』とずっと言い続けている。正直、僕は彼のBリーグでのスタッツには全く納得していないんです」ともっと活躍して当たり前だと注文を出していた。来るべき新シーズン、“比江島タイム”は幾度見られることになるだろうか。




Profile
比江島 慎
Makoto Hiejima
ポジション:SG
生年月日:1990年8月11日(33歳)
身長/体重:191cm/88kg
出身:福岡県
出身校:洛南高→青山学院大

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取材・文/堀内涼(月刊バスケットボール)、写真/石塚康隆(月刊バスケットボール)、再編集/広瀬俊夫(月刊バスケットボールWEB)

タグ: 比江島慎

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