7年前、マイケル・ジョーダンが男子日本代表について語ったこと - 「勝者の姿勢を身につけろ」

 7年前の2015年10月15日、マイケル・ジョーダンが来日して、東京都現代美術館でエア ジョーダンのシリーズ誕生30周年を記念する特別展示「ミュージアム 23 トーキョー(MUSEUM 23 TOKYO)」のオープニングイベントに姿を見せるという出来事があった。去る7月28日にジョーダン ブランドが日本代表のサプライヤーになることが明らかになったことで、そのときの記憶がよみがえってきた。あのときジョーダンは、当時の男子日本代表に対するコメントをしてくれていたのだった。

 


2015年に来日したジョーダンは男子日本代表に関する質問にも答えてくれた(取材協力=Nike/Jordan)

 

 FIBA世界ランキング47位だった当時の男子日本代表は、翌年のリオオリンピック出場を目指し、非常に厳しい状況に直面していた。2014年のアジアカップで6位となってアジア選手権出場を果たしたが、優勝すればリオ行きというこの大会では4位という結果。翌年7月のオリンピック最終予選(OQT)への出場権は確保できたものの、日本はOQTに臨む全チームの中でFIBAランキングが最も低いチームだった。


OQTは世界の各ゾーンでの予選に敗れた中から資格を得た18チームが3都市に分かれて、それぞれで1枚ずつ、計3枚しかないリオへの切符を競う戦いだった。出場チームには世界のトップ10に入るチームも複数含まれることが2015年9月の時点でわかっていたのであり、日本のリオ行きが相当な難関であること想像できる状況だった。実際に日本がプレーしたベオグラード大会で切符をつかんだ開催国のセルビアは、現在NBAのデンバー・ナゲッツで活躍しているニコラ・ヨキッチらを擁し当時世界6位のチームだった。


OQTのグループラウンドで、日本は当時FIBAランキング35位のラトビアと42位のチェコと同組で、グループラウンド突破の可能性はなきにしもあらずという期待もあったが、ふたを開けてみるとそう甘くはなかった。翌シーズンからサンアントニオ・スパーズ入りするダービス・ベルターンスらを擁したラトビアに48-88、同じく2016-17シーズンからワシントン・ウィザーズ入りしたトマシュ・サトランスキーや当時スペインリーグで活躍していたパトリック・アウダらを軸としたチェコに71-87でいずれも敗れ、リオへの切符をつかむ挑戦はグループラウンド敗退という結果で終わっている。


ジョーダンの来日はアジア選手権終了から約1ヵ月後で、残された唯一の機会であるOQTまで約9ヵ月の時点。この状況でもしもジョーダンが日本代表のヘッドコーチだったら、どんなことを言うだろうか? そんなことはあり得ないが。奇跡的にかなった独占インタビューの機会に、いくつかの質問の一つとしてこの問いを投げかけてみた。「もしもあなたがこのチームを率いる機会を得た、あるいは責任を背負ったとしたら、どうやって引っ張っていきますか?」

 

 ジョーダンは答えてくれた。

 


「私は、ことスポーツの観点では、ほかの人とはかなり異なる背景から学んできた。その文化の中では、自分を信じられなければ、優秀で自信満々のチームを相手にして戦うときに最初から不利な状態で始めることになるんだ。勝つために最も重要なのは、勝者の姿勢を持つことだと思っている。その姿勢がなかったら勝つことはできないだろう。自分のショットが入ると信じられないようじゃ、入るわけはないんだ。信じるという姿勢が大事で、結果はそこからついてくるものなんだよ」

“I came from a culture that’s totally different from the sports stand point, you know where that…, if you don’t believe in yourself, then you start off at a deficit when you play against teams that are very good and very confident. I think the biggest thing about winning is having an attitude to win. If you don’t have an attitude to win, then you won’t win. If you don’t believe you can make that shot, then you won’t make that shot. So, it’s an attitude of believing. Then you achieve it.”


「だから、もし私が日本代表チームを前にして話すとしたらこう言うだろう。『もし相手を倒せると信じられないなら、倒せるわけはないぞ。信じるんだ。君たちにそれを成し遂げる力があることを』」
So, if I’m sitting and talking to the Japan national team, “If you don’t believe you can beat the team, you would not beat the team. It’s all about believing if you are capable of achieving.”

 

 自信に裏打ちされた勝者の姿勢を身につけるには、相応の努力が伴わなければならない。それを誰よりも知り、実践してきたジョーダンの言葉を聞きながら、実際にジョーダンが代表合宿で日本代表チームに語りかける様子や、それにより気を引き締めなおしてレベルアップし、OQTで勝利する幻が頭の中を駆け巡った。


7年が過ぎた今夏、男子日本代表は世界の強豪と対戦するたびに苦戦を強いられてはいるものの、アジアカップでは世界のトップレベルにも対抗するポテンシャルがついてきていることを感じさせている。ベスト8のフィニッシュは満足できるものとは言えないが、メンバーたちがチームと自分自身を信じ始めていることが、負け試合からさえ伝わってくる戦いぶりだった。現在日本の男子バスケットボール界には、日本初のNBAドラフト1巡目指名プレーヤーでジョーダン ブランドのアスリートでもある八村 塁と、多くが信じなかったNBA入りを鋼のような決意で成し遂げ4シーズン活躍してきた渡邊雄太という、2015年当時には存在しなかったNBAプレーヤーが二人いる。昨夏の東京2020オリンピック前には、のちに同大会で銀メダルを獲得したフランスを破る快挙も成し遂げた。


ジョーダン自身が日本代表のブレーンに入る話は聞いていないが、ジョーダン ブランドがJBAのサポートに乗り出し、日本代表は勝者のシンボルであるジャンプマンのロゴを胸にあしらったユニフォームを着てプレーすることが決まった。「不甲斐ないプレーはこのロゴをつけている以上できない」と話した渡邊のコメントを聞くと、ジョーダンという言葉に特別な力が宿っていることがわかる。

 

 魔法の衣装をまとったAkatsuki Japanが、闇の束縛を解き払って躍進。おとぎ話のような展開がどんな形で実を結ぶか。今度は幻で終わらせてはいけない。

 

文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



PICK UP