月刊バスケットボール5月号

NBA

2021.11.04

渡邊雄太(トロント・ラプターズ)の飛躍をかなり期待できる3つの理由

 渡邊雄太が欠場したままのトロント・ラプターズは、日本時間11月4日のワシントン・ウィザーズとの一戦に勝利した時点で今シーズンの通算成績を6勝3敗とし、イースタンカンファレンスの4位につけている。リーグ全体でも6位の好成績だ。ホームのスコシアバンク・アリーナでの600日ぶりの試合となった開幕戦(これもウィザーズが相手)を落とし、最初の4試合は1勝3敗だったが、以降の5試合すべてに勝利。しかもここまでの9試合中4試合あったアウェイゲームで負けなしという、出足の遅れを取り返す急加速で突っ走っている。


開幕前、ラプターズの評価は決して高くはなく、例えばNBA公式サイトで10月18日に発表されたプレシーズンランキングでは30チーム中の18位で、レギュラーシーズンの成績が27勝45敗という見立てになっていた。こうした低い評価をここまではみごとに覆しているわけだが、好調の要因と、渡邊の飛躍の可能性をまとめてみたい。


ラプターズが波に乗れている主な要因としては以下の3点を挙げられそうだ。


1. デカいロスターによるリーグトップのハッスル


ラプターズは200cm以下のプレーヤーが、ポイントガードのフレッド・バンブリートとマラカイ・フリン、そしてシューティングガードのギャリー・トレントJrの3人しかおらず、他は誰が出てきても皆デカい。抜きんでたビッグマンがいるのではなく、運動能力が高く走れて高確率でアウトサイドから得点を狙えるアスレティックなビッグマンが代わるがわるコートに出てくる。結果としては、ディフェンス面でもマンツーマンでスイッチした際のミスマッチが減り、また相手の小柄なプレーヤーにとっては高い高い壁となる。50-50ボールを自チームのポゼッションにする確率も高まる。


そうしたねらいが現実となっていることを示すかのように、ラプターズはスティール数(平均11.1本)、パス・ディフレクション(22.3本)、ルーズボール・リカバリー数(9.0本)がすべてリーグトップ。ナースHCにこうした好成績につながる要因を聞くと、「皆頑張ってくれて、本当にうれしいです。そこに力を注いできましたからね」と切り出し、以下のように話してくれた

 

日本時間11月4日朝の対ウィザーズ戦試合前会見でのナースHC(写真をクリックすると、下記のコメント部分の映像が見られます)


「まず、その部分で非常に秀でた個このタレントがそろっていることが挙げられます。フレッドはずっと良かったけれど今シーズンはさらに素晴らしい。ギャリーのディフェンス面での頑張りについてはこの10日間ほどで何度も話していますが、本当に大きな驚きです。そしてほかのプレーヤーたちの長身も生きています。OG(アヌノビー)、スコッティ(バーンズ)、ケム(バーチ)、プレシャス(アチウワ)にクリス(ブーシェイ)。パスカル(シアカム)とユウタ(渡邊雄太)も戻ってくれば同じことを期待できます。皆デカいですよ。それを生かしてパスをはじき、モノにしていきたいですね。以前に比べてその後ボールを獲りに行くところもしっかりできています。昨シーズンは相手のボールをはじいても、そのまま相手側にころがってダンクされたり、3Pショットを決められたり。それがいつまでも続くような感じで悔しい思いをしました。今シーズンはそれがこっちのボールになっているので、ありがたいですね」

 

<ナースHC自身の英文回答>
First of all, we’ve had some guys, just be individually really outstanding at it. I think Fred’s always been good but he’s been even better. And Gary’s been a really big surprise at the defensive end for us as we’ve mentioned number of times here in the last ten days or so. And then the rest of it, we’ve got some pretty good length. OG, Scottie, Khem, Precious, Chris, Pascal, Yuta when we get everybody back. We’ve got some length. We’re gonna wanna use it you know trying to deflect passes, get after it a little bit. I think we probably have done a better job than in the past of recovering the loose balls, too. Remember going through a lot of that last year. We were knocking the ball away right into a dunk or knocking the ball away right into a three. It seemed like it was going on all season. This year we’ve been knocking the ball away into a recovery for us and that’s better.


2. スコッティ・バーンズを開花させた育成力


そうしたチーム全体の好ましい傾向の中で、ルーキーのバーンズの活躍もひときわ光っている。バーンズはラプターズが今夏のドラフト1巡目4位で指名した身長201cmのフォワードだが、当初は今春のNCAAトーナメントでファイナルに進出したゴンザガ大の中心選手として活躍したジェイレン・サッグス(同ドラフト全体5位でオーランド・マジックが指名)ではなくバーンズを獲得したラプターズの選択に対して、批判的な論調の分析が多く見られた。ところがふたを開けてみれば、日本時間11月4日までの日程を終えた時点で、平均18.1得点と8.9リバウンドがともにルーキー全体のトップという力強いパフォーマンスを見せている。


ラプターズはバーンズだけではなく、地元トロント出身で、ネブラスカ大学で富永啓生の先輩(在籍期間は重なってはいない)にもあたるフォワードのダラノ・バントン(201cmでガードもできる)も、出番こそ少ないがコートに立つたびに勢いをもたらす活躍を見せている。現時点ですべてを判断するのは早すぎるとはいえ、彼らの活躍は、彼ら自身の資質はもちろんのこと、それを見抜いてチーム入り直後から開花させているラプターズのプレーヤー・ディベロプメントの、評判どおりの質の高さを感じさせる。これはルーキーのみならず、渡邊雄太を含めたすべてのプレーヤーが受ける恩恵だ。。


3. ルール変更への対応


もう一つ見逃せないのが、NBAのルール変更という要因だ。今シーズン、NBAはファウルの判定基準を大きく変え、バスケットボールらしくない動き(non-basketball moves)により不自然なコンタクトが生じる事象を排除する方向性に舵を切っている。例えば、ショットフェイクに積極的なコンテストをしてきたディフェンダーに対し、シューター側が体をぶつけにいった場合、これまでならばディフェンダーのファウルが吹かれていたケースでもコンタクトの強さの度合いによってはノーコール、あるいはオフェンス側の動きがあまりにも不自然ならば逆にオフェンス側のファウルとなっている。


こうした基準の変更を受け、バスケットボールらしい動きの中で生じたコンタクトについてはノーコールというケースが増えたことにより、全体としてプレーのフィジカリティーが相当に高まったという捉え方をナースHCは示していた。


その中で注視したいことの一つが、ショットセレクションの変化だ。ラプターズは昨シーズン、1試合当たりのショットアテンプトが平均87.3本で、そのうち10-19フィート(約3-5.8メートル)の距離から放つ、いわゆるミドルレンジからねらう本数が9.4本(10.8%)しかなかった。しかし今シーズンは最初の9試合を終えた時点で、アテンプト全体が91.5本、ミドルレンジが15.8本(17.3%)へとジャンプアップしている。


ラプターズは基本的には、これまで同様にドライブ&キックをベースとして3Pショットを狙う『ネクストアクション・オフェンス』で戦っている。しかし上記の基準の変更により、ディフェンダー側がより1対1で積極的に守れるため、チャンスがあればミドルレンジからも狙っていく考えだ。相手チームがこれまでよりも積極的に3Pショットにコンテストしてくるのだ。


一方で、ディフェンスに重点を置いているラプターズにとっては、この基準の変更が大いにプラスに働く(平均100.2失点はリーグ3位の少なさ)。こうした事象が、ラプターズの好成績という結果に表れているのだと思われる。

 

渡邊の飛躍を期待させる諸々のデータ


以上3点のポイント - ハッスルに対する意識・意欲の高さ、育成力の高さ、攻防両面でのルール変更の影響 - から飛躍を期待できるのが、実は渡邊雄太だ。


昨シーズンの渡邊のパフォーマンスを、その持ち味とするハッスルぶりから評価する指標として、試合中の走行スピードと走行距離を確認してみた。まるで輸送業界の記録のようだが、NBAはそれをファンが見られるようにしてくれているのだ(全試合がデータ取得対象ではない)。


渡邊は昨シーズン、特にオールスターブレイク後に出場機会が増え、以後のレギュラーシーズンでは平均出場時間が16.3分だった。そこで、同期間にほぼ同じ出場時間(16.0-16.9分)のプレーヤーを抽出すると26人いた。その中で渡邊の走行スピード(時速4.66マイル=時速約7.5km)と走行距離(7,148.8フィート=約2,179メートル)はいずれもトップ。つまり、同じ時間コートに立ったプレーヤーの中で、最も走ってハッスルした男ということになる。しかも渡邊は、3Pショットに対するコンテスト回数(2.2回)も26人中3位と高かった。

 

 これが渡邊のハッスルを示すインデックスだが、それに加えて渡邊は3Pショットも40%以上決めることを期待できる。また、オフェンス面でミドルレンジから積極的に打っていく考え方は、渡邊のオフェンスにも昨シーズン以上の自由度をもたらしそうだ。さらに、ナースHCはスタッツでは表現できない「ディフェンスにおける一歩目の速さ」を実感しているからこそ、渡邊が欠場している間も会見でたびたび高い評価を言葉にしているのだろう。


渡邊がそうした期待に応える可能性が非常に高いことを、プレシーズン初戦の活躍(16分52秒の出場で10得点、フィールドゴール4/7、3P2/2、7リバウンド、2アシスト、2ブロック、1スティール)が裏打ちする。渡邊がインディアナ、ニューヨーク、ワシントンD.C.と続いた直近の遠征に帯同したのは、ファームのラプターズ905で実戦を離れて体を動かすよりも、ルール変更とそれに伴う戦術の変化をできる限り感じ取ることに、より大きな意義があったからだと思われる。復帰が遅れる一方で、逆に体を休めながら、育成部隊の助けを得て知識を整理することもできたはず。頭と心の準備は相当できているだろう。あとはケガの再発や新たな故障に注意して、万全での復帰を待つばかりだ。

 

取材・文/柴田 健(月バス.com)

(月刊バスケットボール)



PICK UP