月刊バスケットボール5月号

NBA

2021.04.25

渡邊雄太(ラプターズ)、敗戦も成果が見られた日本時間4.25対ニックス戦

 

波に乗るニックスを止められず

 

 日本時間4月25日未明(アメリカ時間24日午後)に行われたニューヨーク・ニックス対トロント・ラプターズの一戦は、120-103でニックスが2013年3月以来となる9連勝を飾った。好調を維持するニックスは得点源のジュリアス・ランドルが3Pショット7本中5本を成功させるなど31得点を記録したほか、RJバレットも25得点。ラプターズはOGアヌノビーとフレッド・ヴァンヴリートが27得点、パスカル・シアカムも26得点とスターターの得点源が好調だったが、ベンチ・スコアリングでニックスに43-11と決定的な差をつけられた。
ニックスはこの勝利で今シーズンの通算成績を34勝27敗とし、イースタンカンファレンスにおける順位は4位。ラプターズは連勝が4で途切れるとともに、今シーズンの通算成績が25勝35敗となり、同カンファレンス12位となっている。プレーオフ進出権を争うプレーイン・トーナメントに出場できる10位のポジションに立つワシントン・ウィザーズ(26勝33敗)とのゲーム差は1.5。厳しい立場だ。
この日が本契約にサインした後2試合目となる渡邊は14分24秒間コートに立ち、3Pショット1本を成功させ3得点を記録した。この日ニックスのフィールドゴール成功率が56.0%と高かったこともあり、数字の上でリバウンドが珍しくゼロで終わったことが気にかかる点ではある。ただ、普段どおり運動量も多く集中した様子であり、決して悪い出来ではなかった。ニック・ナースHCがそこそこの出場時間を与えたこと、特に勝負がかかった第4Qにスタートで起用したことからも、その期待が大きかったことがうかがえる。その中で、うまくいったプレーもいかなかったプレーを含め、渡邊のプレーが目を引いたシーンは特に後半に多かった。

 

ベースラインドライブ、3Pショットで積極性を見せる


最初のショットアテンプトは、83-86のラプターズ劣勢で迎えた第3Q残り1分16秒。トップでボールを持ち左ウイングでフリーになったヴァンヴリートにパスをさばいた後、ヴァンヴリートのドライブ&キックからボールを再び得てバレットと1対1となった。素早いドリブルドライブでバレットの右サイドを突いた渡邊は、ペイント右のハイポスト周辺で、バレットのコンテストを受けながらフェイドアウェイ・ジャンパーを放った。

 ゴール下にはタージ・ギブソンがヘルプできる状態で待ち構えており、206cmの渡邊は198cmのバレットを相手に高さを生かすアテンプトを選んだ形だ。残念ながら得点ならず。もちろん決めたかった1本だが、終盤の時間帯で積極性は見せられた。
直後、今度はディフェンスで大きなチャレンジがやってきた。右ペリメーターでボールを持つバレットとの1対1だ。このときは細かな左右のフェイクから右サイドを破られニックスの88点目となる得点をバレットに許している。
バレットはデューク大出身のシューティングガードで、2019NBAドラフト全体3位でニックス入りしている。20歳ながらカナダ代表にも選ばれており、身体能力の高さ、アウトサイド・シューティングの精度の高さに加え、ゴール近辺でフィニッシュに向かう際の駆け引きと体の使い方が非常にうまい。渡邊はこのバレットとマッチアップする時間が長かった。
第4Qに入り、渡邊に2度目の得点機がやってきた。83-91の第4Q残り11分20秒あたりからの流れで、右コーナーでボールを受け、バレットの右サイドを抜くベースラインドライブからリバースレイアップを試みた。ヘルプにきたギブソンのブロックをかわし、ゴールに流し込むかと思われたがボールはリムに弾かれミスショット。ただ、惜しいプレーだったとともに、このプレーは相手側と渡邊自身の変化も感じることができるプレーでもあった。
4月に入ってからのこの試合前までに出場した11試合で、渡邊は3Pショットが46.2%(26本中12本成功)と好調だ。そのため、ディフェンダー(バレット)も放っておくことができない存在になっている。このベースラインドライブは、警戒したバレットがクローズアウトしてくるところにカウンターを仕掛けたものであり、Gリーグ時代には頻繁に見ることができたプレーだった。それがNBAレベルで出せるまでに発展してきていることをこのプレーは示している。
次の見せ場は第4Q残り11分を切ろうという時点。再びディフェンスでのバレットとのマッチアップだった。結果としてはシューティング・モーションのコンティニュエーションにおけるファウルをとられバレットに3得点を献上したのだが、非常に見ごたえのあるシーンだった。
このとき渡邊とバレットは左ペリメーターでアイソレーションのような形になっていた。バレットはドリブルドライブでペイントに侵入し、渡邊めがけて体ごとぶつけてくるような強烈なアタックを仕掛けてきた。渡邊は体でバレットの強烈なヒットを受け止め、うまく対抗していたかに見えたが、このプレーでホイッスルが鳴る。強烈なコンタクトの後、スペースが生まれたところでバレットは柔らかくレイアップを沈め、さらにフリースローも冷静に成功させている。渡邊は「今のがファウルですか?」といった表情を浮かべていた。
ジャッジに異論を唱える意図はまったくないが、両者の攻防はフェアかつハイレベルだったと思う。ニックスはバレットの3点プレーで、リードをこの時点までで最大の11点に広げている。
ここまで短い時間に2度、マッチアップでバレットに得点を許してしまった渡邊だが、83-94の第4Q残り10分40秒あたりからの流れでバレットと左ペリメーターで1対1となったシーンでは、駆け引きに勝利した。このシーンでは、ゴールを背にしたドリブルで渡邊を押し込んでスピンムーヴでベースライン側をアタックしたバレットをうまく止めている。
渡邊のこの日唯一の得点シーンは、83-97で迎えた第4Q残り10分1秒。ペイントにアタックしたカイル・ラウリーのキックパスを受けてトップから放った3Pショットが成功した。
渡邊はこの後88-102と点差が14点に開いた残り8分52秒までプレーしてベンチに下がったが、その直前にはゴール下でフリーになったギブソンのイージーバスケットをファウルで阻止する場面があった。このプレーがファウルとして記録されることはあまり喜ばしくはないが、試合の流れの中で止めておきたいプレーととらえることができたシーンであり、決して悪い判断ではなかったと思う(ファウルのプレー自体も悪質ではなくフェアだった)。
これらのシーンの中で、ディフェンス面のポジティブな側面はなかなか数字として出てきにくい内容だと思う。それらに加え、1本だけ試みた3Pショットを決めてみせたことなど、渡邊個人としては好プレーも多かった。ただし冒頭で触れた通り、この試合ではベンチ・スコアリングが直接的な敗因の一つと捉えることができるのであり、この日見せた積極性がよりインパクトの大きな数字としてでてくることが必要だろう。

 次戦は日本時間4月27日(アメリカ時間26日)に行われるクリーブランド・キャバリアーズ(21勝38敗、イースタンカンファレンス13位)との一戦。勝っておきたいこの試合で渡邊にさらなる進化の兆しを期待しよう。


文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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