月刊バスケットボール5月号

NBA

2020.08.25

渡邊雄太が理想像と明かすオーストラリア人プレーヤー

 日本人史上2人目のNBA選手が誕生してから早いもので2シーズンが経過した。グリズリーズとの2ウェイ契約の2年目を終えた渡邊雄太は、NBAで18試合に出場し、平均5.6分のプレータイムを得た。ジャ・モラントという大型ルーキーの加入や渡邊と同じウィングプレーヤーの層が厚くなったことでルーキーシーズンとなった昨季(15試合出場で平均11.6分)よりも出番自体は減ったが、FG成功率は大きく改善されている(29.4%→44.1%)。

 

 その点については渡邊自身も自信をのぞかせるが、一方で課題や悔しさも改めて痛感しており、「FG成功率は上がりましたが、3Pシュート(37.5%)をもっと確率よく決めたかったです。Gリーグでも同じで、その点についてはあまり成功率を伸ばせなかった」と渡邊。同じGリーグ経験組のディアンソニー・メルトンやグレイソン・アレンがグリズリーズのローテーションメンバーとして活躍していることに対しても「Gリーグでは彼らと同じレベルでプレーできていたのにNBAで自分が活躍できたいない現状が歯がゆいです」と悔しさをにじませる。

 

 

 手探りでNBAというステージに立ったルーキーイヤーを経て、その先を考えた今季は日本人選手としてみれば相変わらず大きな一歩と言えるが、一人のNBA選手として考えると焦りや悔しさがあって当然。実力があってもチャンスをもらえないことには始まらない。そんな厳しい環境の中でどう自分をアピールするのか。渡邊は次のように語る。

 

「うちのジャのように僕は派手なプレーはできないし、そういう選手になろうとは思っていません。エンターテイメント要素のプレーを僕がNBAでやろうとするのは自殺行為。逆に僕の良さが消えてしまうと思うので派手なプレーはほかの選手に任せて、僕はディフェンスやルーズをやっていかないといけない」

 

 渡邊の目指す理想の選手像はまさに職人タイプの3&Dプレーヤー。NBA入り以前から将来的な理想像として周囲からも言われてきたことだが、現在のNBAにおける渡邊のロールモデルは果たして誰なのか? こんな質問を投げかけてみたところ、一人の選手の名が挙がった。その選手の名はジョー・イングルス。現在、プレーオフ1回戦を戦うジャズの先発SFだ。

 

 イングルスを一言で表すのなら“仕事人”という言葉が当てはまる。201cm、100kgというNBA選手としては平均的なボディーフレームで、身体能力が突出して高いわけではないが、得点にゲームメイク、ディフェンスでも力を発揮するマルチなレフティープレーヤーだ。ハイライトシーンに登場するようなプレーも滅多に残さないが、要所を締める中継役としてジャズにとってなくてはならないピースとして大活躍している。性格も温厚で家族思いで出身もアメリカ国外(オーストラリア)である点など、渡邊との共通点は非常に多い。

 

「彼(イングルス)は自ら得点することもできるけど、チームメイトにドノバン・ミッチェルやルディ・ゴベアというオールスタークラスの選手がいる中で脇役にも徹することができる選手です。彼のようにディフェンスなどのスタッツに現れない裏方の部分でも活躍できる選手が自分の理想であり目指すべき部分です。プレーもよく見ていますし、参考にもしていますので将来的にああいったタイプの選手になれたら」

 

 もし、渡邊がイングルスのような選手に少しずつでも近付くことができれば、今後の活躍の幅は大きく広がることになるだろう。ポジションレスのスモールボールが主体の現NBAの中で渡邊のように複数のポジションをガードできるウィングプレーヤーの需要は非常に高いからだ。3&Dという言葉が頻繁に使われるようになったのもここ5年ほどで、ポジションレスバスケットが主体に立って以降はウィングプレヤーの需要は一気に高まった。現在のNBAにおいて理想的にサイズを有する渡邊だけに、その存在をひっそりと見つめている球団は案外多いかもしれない。

 

 

(月刊バスケットボール)



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