月刊バスケットボール5月号

NBA

2021.05.03

渡邊雄太(ラプターズ)に見るマヌ・ジノビリ(元スパーズ)級のポテンシャル

 

4月にオフェンスが炸裂し、本契約を獲得した渡邊


4月が終わり、渡邊雄太がNBAの「本契約プレーヤー」として5月を迎えた。4月の渡邊は日程として組まれた15試合すべて出場し、3月末まで(48試合中4試合を欠場、15試合は出場機会なし)とは異質の好数字を記録した。主なアベレージは以下のとおりで、特に得点力とショットの精度が顕著に高まった。フリースローとブロックショットもやや低下したとはいえ気にするような内容ではない。

 

☆渡邊雄太の3月までと4月比較(カッコ内は通年のアベレージ) ※データは4月30日時点
得点 2.3→7.8(4.2)
フィールドゴール成功率 32.9%→57.1%(45.6%)
3P成功率 36.1%→45.9%(41.1%)
フリースロー成功率 90.0%→80.0%(84.0%)
リバウンド 3.0→3.5(3.1)
アシスト 0.4→1.2(0.7)
スティール 0.4→0.7(0.5)
ブロック 0.5→0.3(0.4)

 

 それまでと同じようにディフェンス面でチームの期待に応えるとともに、オフェンスで効果的な活躍を見せることができるようになったことを示す数値が並ぶ。4月21日以降ラプターズではパスカル・シアカムとOGアヌノビーがスターターにそろって復帰していることもあり、渡邊の出場時間はやや減少しているが、それがなければ上記のアベレージはもう少し上昇していたのかもしれない。
4月のラプターズはチームとしても、低迷の底にあった3月(1勝13敗)の状態から持ち直して15試合を8勝7敗と勝ち越した。2018-19シーズンのチャンピオンとしては決して最良の結果ではないにせよ、これは2月の9勝5敗に次ぐ今シーズン2番目に良い月間成績だ。月末にブルックリン・ネッツとデンバー・ナゲッツ、さらに5月の初戦でユタ・ジャズと、東西の上位チームに3連敗を喫したのは痛いが、プレーイン・トーナメント出場権争いにはまだ何とか踏みとどまっている。
その痛い黒星のうち2つを含む4月中最後の5試合における渡邊は平均6.0得点、フィールドゴール成功率50.0%、3P成功率46.2%、2.0リバウンド、0.6アシストと堅調を維持した。速攻に走り、鋭いカットからたびたびスラムダンクを叩き込み、迫力や安定感が増してきた。

 数字に見えづらいディフェンス面でも、相手のシューターや中心的プレーヤーとのマッチアップが毎試合見られ、そのたび相手に簡単には得点させない時間帯を生み出している。ボックス&ワンでラプターズがスローダウンさせたい“ワン”を任され、フェイスガードで徹底的にボールから遠ざけるようなシーンを見ればチームの信頼も感じられる。攻守両面の活躍で、ラプターズのローテーションの核に溶け込んだのだ。

 一方、ここにきてチームがクロスゲームを勝ちきれないことは大いに気になる。その一因として、アメリカ、カナダのメディアに登場する論客がたびたびベンチスコアリングの弱さが挙げるのを聞けばなおさらだ。直近の3連敗では以下のようなデータで、いずれも終盤に引き離されてしまっていた。

 

ラプターズの直近3試合における最終スコアとベンチスコアリング
4月27日 対ネッツ戦 103-116 ベンチ 24-38
4月29日 対ナゲッツ 111-121 ベンチ 19-46
5月1日 対ジャズ戦 102-106 ベンチ 13-32

 

 この現状の要因は、ゲイリー・トレントJrやクリス・ブーシェイら本来ならベンチからでもスターターとしてでも得点源になりうるプレーヤーを、4月後半になって欠いていることだ。渡邊や新加入のフレディー・ギレスピーがどちらかと言えばディフェンス面で強烈なアピールポイントを持っているのに対し、トレントJrとブーシェイにはオフェンスでの爆発的な活躍を期待できるはずだった(もちろんディフェンス面の貢献度も高い)。
そのような状況だが、プレーイン・トーナメント出場権争いの中でラプターズは1試合でも多く勝たなければならない。

 

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勝ちたい状況、しかし求められるのは着実な前進


こうしたデータや背景、コメンテーターたちの声を聞くと、渡邊にはもっとオフェンスでの貢献を求められてくるのではないかということが気になってくる。そこで対ジャズ戦前の会見で、ニック・ナースHCに思い切った問いかけをしてみた。内容は「渡邊にもっとやってほしいと思いますか? 例えばマヌ・ジノビリ(元サンアントニオ・スパーズ)のようなインパクトを望みますか?」というものだ。

 

ナースHCは渡邊のスターター起用を検討していたことを明かしてくれた(写真をクリックするとインタビュー映像を見られます)


ナースHCは最初に「マヌ・ジノビリは本当に驚異的なプレーヤーでした(Well, first of all, Manu Ginobili was an incredible player, right? Really incredible)」と切り出した後、渡邊については突拍子もなく大きなビジョンよりも地に足の着いた前進を望む考え方を示す一方で、最近スターター起用も検討したほど高い評価をしていることを明かしてくれた。回答は以下のようなものだ。
「私はベンチプレーヤーとしてのユウタを非常に気に入っています。最近スターターでどうかと考えることもあったのですが、あのエナジーとプレースタイルはベンチから出てくるプレーヤーにあってほしい要素に思えて、元の考え(渡邊をベンチスタートで起用する考え)に戻ってくるんです」
“where I’m at is this. I mean I like, I do like Yuta as a bench player. I’ve considered starting him here a little bit recently. And I keep coming back to…, I just like you know his energy and style of play and all those kid of things that fit in”
「考え方としては当初と同じで6番手、7番手、8番手で定着できるかどうかを見極めるのが先決です。彼はよくなってきているし進展がみられるのですが、始まりがまったくの無名でしたから、『さて、ここまで来たぞ』という段階。ジョー・イングレス(ジャズのシューター)やジノビリのようにやってくれたらもちろんうれしいですけれど、それよりもボールをしっかり扱い、ピック&ロールをうまくこなし、ゴール近辺のフィニッシュを成功させ、良い塩梅で3Pショットも狙うということを確認するのが大切です。(3Pショットは)適切な本数を打てていると思います。こういった要素が彼のプレーの核となるべきですが、ジノビリやイングレスは驚くべき3シューターです。その方向に彼を押し上げていけるようにしたいですね」
“You know I think we’re not any different than where we were. I’m trying to find out if he can be a, you know regular sixth, seventh, eighth man, you know. In this league and he’s you know I think he’s getting better at progressing but he’s kind of coming from nowhere. So, I think the progression he’s made is here. I don’t think we’re thinking about Joe Ingles and Manu Ginobili and anything quite yet. But you know I’m trying to, again, have him handle the ball more, play a little more pick & roll, finish at the rim we talked about. And then again, he’s getting his fair share, maybe even more he could probably take…, but he’s taking decent amount of three-point attempts. And those has to be a…, integral part of his game. I think Ginobili and Ingles and those guys are incredible three-point shooters and you know we’ve gotta keep trending Yuta upward there.”

 

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