月刊バスケットボール5月号

NBA

2020.12.12

「2020-21ラプターズで渡邊雄太 大活躍」その姿を想像できる理由―②

2019NBAジャパンゲームスでのフレッド・ヴァンヴリート(奥はジェームス・ハーデン)

Yasutaka Ishizuka/月刊バスケットボール

 

NBAチャンピオン
フレッド・ヴァンヴリートとの縁

 

 渡邊雄太のジョージワシントン大(以下GW)時代を振り返ると、節目となる重要な活躍がいくつも見つかる。功績として最も目を引くのは2016年のNIT(National Invitation Tournament)で全米タイトルを手にする過程で“エース・ストッパー”として開花し、チームに大きく貢献したことだろう。しかし4年間のキャリアの中で、見る側の立場で最も衝撃的だったのは、2014年12月26日の対ウィチタ州大戦だ。

 

 ホリデーシーズンのトーナメントとして知られるダイヤモンドヘッド・クラシック決勝戦。その時点で全米11位だったウィチタ州大を、GWはトリッキーな1-3-1ゾーンディフェンスでほんろうした。ハーフコートどころかフルコートのスリークォーターをカバーする変則的1-3-1のトップで、長いウィングスパンを使って相手のバックコートを苦しめたのがフレッシュマンの渡邊だった。渡邊はオフェンス面でもビッグショットを沈めフレッシュマンらしからぬずぶとさとスキルを見せつけ、結果は60-54のアップセット。これは渡邊抜きに語れない勝利だった。

 

 このとき渡邊に手を焼いたウィチタ州大の司令塔が、今、ラプターズのリーダー格になっているフレッド・ヴァンヴリートだ。核となる存在が「ユウタはできる」と身をもって知っているのだ。

 

 ヴァンヴリートが渡邊を特別な存在として覚えていたり、意識しているということはないだろう。しかし、年齢が1歳しか違わない二人(どちらも1994年生まれだがヴァンヴリートは早生まれ。また渡邊はプレップスクールに1年在籍したので学年は2年違う)に“アイスブレイク”の機会があるとすれば打ち解けやすい状況になることは想像できる。ウィチタ大卒業時のヴァンヴリートは渡邊と同じドラフト外でのNBA入り。そこから這い上がって主力の座でチームをけん引しているヴァンヴリートは、そうでなくとも渡邊にとって良い刺激になるはずだ。

 

全米制覇とエースの記憶を蘇らせる
小さなポジティブ

 

 GW時代の渡邊はアトランティック10カンファレンス(以下A10)屈指のディフェンダーであり、4年生の時にはカンファレンスの最優秀ディフェンシヴ・プレーヤー賞とオールカンファレンス・サードチーム入りの栄誉を手にしている。その同じA10で、渡邊が下級生だった時代に激突した強豪の一つにセントジョセフ大がある。

 

 セントジョセフ大には渡邊と同い年(学年は1年上)の強力なエースがいた。その男は2014-15シーズンにオールA10ファーストチームに選出され、3年生だった2016年には同チーム選出に加えA10プレーヤー・オヴ・ジ・イヤーにも輝いた。同年のNBAドラフトにアーリーエントリーすると、1巡目21位でアトランタ・ホークスの指名を受けプロ入り。その後NBAとGリーグ(2017年まで名Dリーグ)を行き来しながらこの世界で生き延び、実は今季、ラプターズに加わっている。ディアンドレ・ベンブリーというフォワードだ。

 

 渡邊とベンブリーが大学時代に同じコートに立ったのは3度。以下のような数字が残っている。

 

2015年1月3日 GW〇64-×60セントジョセフ大
渡邊…12得点、4リバウンド、1ブロック/ベンブリー…22得点、8リバウンド、3アシスト、3スティール
2016年2月10日 GW×66-84〇セントジョセフ大
渡邊…10得点、3リバウンド、1アシスト、2ブロック/ベンブリー…14得点、5リバウンド、3アシスト、1ブロック
2016年3月10日 GW×80-86〇セントジョセフ大(A10トーナメント準々決勝)
渡邊…6得点、4リバウンド、1アシスト/ベンブリー…26得点、6リバウンド、3アシスト、1スティール

 

ベンブリーをかわしてドライヴする渡邊(2016年2月10日の試合より)

Yasutaka Ishizuka/月刊バスケットボール

 

 個人の数字を比較すると、すでにエースだったベンブリーの実績は渡邊に比べて別格だ。しかし渡邊はその後2016NITチャンピオンやA10最優秀ディフェンシヴ・プレーヤーといった勲章を勝ち取り、ここまでプロとしてのキャリアを築いてきた。二人は“A10育ち”で、時期が若干ずれるとはいえどちらもそれぞれの大学で“エース”。さらに同じ1994年生まれ(学年はベンブリーが1年上)だ。

 

 ヴァンヴリートやベンブリーを近しい存在と言えるかどうかは別として、こういった縁のあるプレーヤーたちは渡邊にとってメンタル面の小さなポジティブになりうると思う。実力差がほとんどない者同士の競争で、こういった些細な要素からNITチャンピオンを手にした過程やエースとして活躍した記憶が呼び覚まされたら、渡邊らしさを発揮しやすくなるだろう。

 

 ラプターズがプレシーズン初戦に臨むのは日本時間12月13日(日)。この時点での順調な仕上がりはもちろん、レギュラーシーズン、はたまたプレーオフでの飛躍を想像しながら注目したい。(part1を読む

 

文=柴田 健/月バス.com

(月刊バスケットボール)



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