月刊バスケットボール5月号

「ワクワクがとまらない」女子日本代表はどんな進化を見せるのか

FIBA女子アジアカップで大会5連覇を成し遂げた日本代表。そのゴールはパリ2024での金メダル獲得だ(写真/©fibaasiacup2021)

 

 人は夢を心に抱いて、効果的な方法を理解して、「私ならできる」と思えたときに、ワクワクして力を発揮できる。目標は優勝。チーム活動の目的として、夢を与えられる存在になろうという理想を掲げていました。私たちの頑張りが、誰かの喜びやエネルギーになると信じることができたのが、大きかったと思っています――FIBA女子アジアカップ2021で新生日本代表が頂点に立てた理由を、恩塚 亨HCはこう説明した。大会前、前任のトム・ホーバス氏(現男子日本代表HC)から大役を引き継いだ際の発表会見でもこの考え方を聞かせてくれていたが、それが大きな結果につながることをみごとに証明した。


今大会における日本代表の戦いぶりは、恩塚HCの言葉どおり、個々のプレーヤーが自分とチームメイト、スタッフを信じ、チームメイトとスタッフが自分を信じてくれているとわかっているだろうことが、一つ一つのポゼッション、1試合1試合から伝わってくるような内容だった。


オコエ桃仁花(富士通レッドウェーブ)は中国代表との決勝戦で3Pショットが14本中3本の成功と確率としては低かった。しかし決勝戦翌日のメディア対応では、「入らなくても打ち続けたことが自分のベストプレー」と誇らしげに話していた。こうした気持ちになれるのは、周囲が自分のプレーに自信を持ってくれていると信じられるからに他ならないだろう。


最高の形で今大会を終えた日本代表は、恩塚HC就任時点から明確に、3年後のパリオリンピックで金メダルを獲得することを目標として掲げている。「世界一のアジリティーで高さを凌駕する」という大胆なプレースタイルも示された。3年後、日本代表はどんな姿を見せてくれているだろうか。


驚異の3Pショット成功率


オコエと同じメディア対応の機会に、恩塚HCが語ったアジアのライバルチームに関する考察に、そのヒントを求めてみたい。それは次のような内容だった。


「大会を通じて、3Pショットの精度と試投数が増えてきたと思います。日本がオリンピックで示した戦い方を参考にしているかどうかはわからないですが、今までは割とシンプルにインサイドの攻防がカギになるゲームが多かったのが、アウトサイドのショット。しかも確率も高いですし、ショットのスピードも速い。外も中も、これからは戦うポイントが広がっていく。そこをカバーできるアジリティーを高めていくことが、これからのカギとなると思っています」


世界の強豪は高さがあるが、そこにこれまで以上のアウトサイド・シューティングがついてくる。実際、今大会で3Pショット成功率のランキングを見ると、1位は韓国代表の42.0%、2位は中国代表の41.8%で、日本代表の36.0%は8チーム中の4位だった。1試合当たりのアテンプト数32.2本と成功数11.6本はともにトップだったが、精度の点では相対的に「中の中」だ。


パリオリンピックでは、今回の韓国代表、中国代表のように40%を超えるチームが複数登場する可能性が高い。それに対抗して金メダルを獲得するならば、日本代表は東京2020オリンピックの数字(大会1位の38.4%)を上回る成功率を、より高い安定感で達成しているだろう。

 

根本葉瑠乃(三菱電機コアラーズ)は準決勝の対オーストラリア戦で重要な3Pショットを決め、大会を通じて35.3%の成功率を残したが、大会後の会見では今後のレベルアップに向けた思いが強そうだった(写真/©fiba.asiacup2021)


8月にハンガリーで開催されたFIBA U19女子ワールドカップ2021でも、上位進出チームの3Pショットの確率が前回大会に比べて軒並み上昇していることがデータとして確認できた。出場国全体の1試合における平均アテンプト数は、2019年の22.4本から2021年は23.8本への微増だったが、成功率が30%を越えたチームがゼロから5チームへと大幅に増えていた。


同大会で優勝したアメリカ代表に注目すると、3P成功率もトップで40.2%であり、2019年の前回大会における29.5%(2位)から10.7%ポイント上昇していた。2019年大会の29.5%は、今年の大会に当てはめると6位相当の数字だ。アテンプト数に関しても、アメリカ代表は2019年の17.4本から今年は25.6本へと激増。成功数は5.1本から10.3本への倍増だった。


世界のユースが全体的にアウトサイド・シューティングの精度を高めており、中でもアメリカが腕を上げていることを感じさせるデータ。それを見れば、この世代がさらに成長して歴戦のベテランたちとともに登場してくる、あるいはその世代に刺激されてさらに円熟味を増したプレーヤーたちが集まる2024年のアメリカ代表は、現在以上の脅威だ。


必ずしも毎度の大会で数値が上昇していくわけではなく、例えば東京2020大会でのアメリカ代表は、リオ大会の45.3%から35.1%へと3Pショット成功率を下降させていたのは事実だ。しかし、だから次も下降、あるいは同レベルと想定することには意味がない。逆に2016年を超える驚異の決定力を想定するべきだろう。同時に、こうした数字が可能なことがすでに証明されているのだから、日本代表はそのレベルで入れてくるチームの一つになっていることが、自然と想像できる。


世界の大きなディフェンスに対して3Pショットを45%以上の確率で決める日本代表は、そのためのさまざまな能力を備えている。それは確かに、ワクワクが止まらない女子バスケットボールの進化を期待させてくれる。


ロックダウン・ディフェンス


今回のアジアカップ決勝では中国代表相手に24.1%(29本中7本成功)と数字が上がらなかった。東京2020大会決勝でも、アメリカ代表に対し25.8%(31本中8本成功)。大きな相手に一番の武器を封じられたことが苦戦の要因だったとみたくなるデータが残された。相手のクローズアウトより一瞬速く、自信を持ってリリースできるために、個々のプレーヤーとしてはリリースにいたるショットメカニック上のテクニックの習得、チームとしては十分なズレを生み出すコンビネーションの構築など、まだまだ伸びしろがある。これらを、シューティング技能自体の上昇だけでなく、世界一のアジリティーの追求によってもたらそうというのが恩塚HCのコンセプトだと思う。

 

ウー・トントンを追いかける赤穂ひまわり(写真/©fiba.asiacup2021)


今夏はブリアナ・スチュアート(シアトル・ストーム)や、つい先日今シーズンのWNBAで最優秀ディフェンシブ・プレーヤーに輝いたシルビア・フォウルズ(ミネソタ・リンクス)、昨シーズンWNBAでMVPに輝いたエイジャ・ウィルソン(ラスベガス・エイセズ)ら、大きくて動けるプレーヤーとスー・バード(シアトル・ストーム)やダイアナ・タラシ(フェニックス・マーキュリー)らスマートなバックコート陣に手を焼き、3Pショットを放つことさえ難しかった。3年後の日本代表は、WNBAのスター軍団が向かってきても局面を打開できるチームになっている。それが具体的にどんな成果を意味するかのヒントは、今回の中国代表戦と東京2020オリンピックでのアメリカ代表との2試合における、相手の3Pショットの様子にあるように思う。


FIBA女子アジアカップ2021決勝
対中国代表戦(78-73で勝利)
相手の3P成功率30.0%(6/20)

 

東京2020オリンピック
グループラウンド
対アメリカ代表戦(69-86の敗戦)
相手の3P成功率42.9%(9/21)

決勝
対アメリカ代表戦(75-90の敗戦)
相手の3P成功率30.8%(4/13)


中国代表に対しては「世界一のアジリティーの追求」というテーマがより強く意識された状態で戦い、それがペリメーター・ディフェンスにも反映されていたととらえてよいのではないだろうか。アメリカ代表との初戦は、高さをペリメーターでもアドバンテージにされた側面もありそうだ。決勝戦ではそれに対応した効果とともに、アメリカ代表側がペイントでの得点をより重視したために、3Pアテンプト自体が大幅に減ったと見ることができる。


相手のショットの精度を低下させるような厳しいボールプレッシャーや、オフボールでのディフェンスを遂行するアジリティー、それを40分間チームとして続ける力を、3年後の日本代表は今以上につけている。ゴール下、あるいはペイント内で10-15cm、ときには20cmも大きな相手にコンタクトしても負けず、攻守で体をぶつけ合い続けるタフさも、ロスター全員の標準装備となっている。


相手シューターがプレッシャーを感じとり、リバウンダーは自由にボールを獲れないことを感じとり、アベレージで40%を超える相手チームの3P成功率が、決勝戦の中国代表のように、日本代表との試合にかぎり30%前後に低迷するような現象が起きてくる。ペイントで圧倒されることがないタフな攻防から、虎視眈々と速攻やセカンドチャンスでの得点をねらっていく。今回中国代表に対して、ペイントでの得点は40-46と上回られたが、この項目で6点の差にとどまった一方でセカンドチャンスでの得点では10-8と上回っていた。

 

身長200cmのリー・ユェルにプレッシャーをかける宮崎早織とオコエ桃二花(写真/©fiba.asiacup2021)

 

選択的フィニッシュを行える判断力と強さ、うまさ


中国代表は平均身長が186cmで、フロントラインの6人に絞れば194cmの大型チームだった。これは東京2020オリンピックのアメリカ代表とほぼ同じサイズ感だ。対する日本代表は今大会のチーム平均身長177cm、フロントライン6人の183cmは東京2020オリンピックとほぼ同じだ。9-10cmの差を克服する必要性は今後も変わらないだろうが、それが今後は常に遂行される。そのために、フィジカルの強さに加えて選択的フィニッシュを行える判断力とスキルを備えたプレーヤーが、バックコートでもフロントラインでも増えてくる。これらの要素は、恩塚HCがフロントラインの控えだった西岡里紗(三菱電機コアラーズ)、中田珠未(ENEOSサンフラワーズ)に求めていた要素だが、スターターだけではなくロスター全員の標準装備となる。


そのレベルを夢見ればこその結果として、中にはワンハンドでプルアップからクイックリリースの3Pショットを高確率で決められる、ステフィン・カリー(ゴールデンステイト・ウォリアーズ)のようなプレーヤーも増えてくる。大神雄子(現トヨタ自動車アンテロープスアシスタント)が現代版にバージョンアップしたようなタイプとも言えるかもしれない。バックダウンドリブルからのターンアラウンドで、半身の体勢から長身センターの頭越しにフェイドアウェイジャンパーやベビーフックを決めるのが得意というプレーヤーも出てくるだろう。こうしたプレーに意欲を持つプレーヤーが増えてくると、その習得で効果を挙げる方法を理解した指導者も増えるはずだ。


また、そうしたプレーヤーが増えれば、ディフェンダーのレベルも向上するだろう。渡邊雄太(トロント・ラプターズ)のような、執拗なペリメーター・ディフェンスとハッスルに燃える有能なプレーヤーがどんどん増え、さらにその結果として対戦相手側のフィニッシュ力も高まっていく。相乗効果で女子バスケットボールのレベルが全体的に上がっていく。当然男子にも波及する。


順調にいけば、こうしたことが短期間に起こってくると思う。来年2月のワールドカップ予選に向けて、すでに東京2020オリンピックで銀メダルを獲得したプレーヤーたちさえうかうかしてはいられない層の厚みが日本の女子バスケットボール界にあることも、今回のアジアカップ5連覇で感じられたことの一つだ。「私なんかには日本代表は無理」なことはない。「本場アメリカには勝てない」わけがない。Wリーグだけでなく学生を含めたあらゆるカテゴリーで、「こんなふうにプレーできたらいいな」というワクワクが表現され、それに向かう頑張りの積み重ねが行われていく。その結果として、3年後に日本代表がパリで金メダルを獲得することは、必然的に想像できる結果だ。

 

山本麻衣(トヨタ自動車アンテロープス)のドライブには、決めきるうまさ、強さが随所に発揮されていた(写真/©fiba.asiacup2021)


取材・文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



PICK UP