月刊バスケットボール6月号

5人制バスケ女子日本代表、東京オリンピックに向けいよいよ佳境

東京オリンピックに向けた女子日本代表のチューンナップが大詰めに差し掛かっている(写真/©JBA)

 

フランス、アメリカ、ナイジェリアを見据えた日本の取り組み

 

 東京オリンピックが予定通りに開催される場合、女子日本代表が初戦の対フランス戦を戦う7月27日(火)まで、すでに2か月を切っている。女子日本代表は6月1日(火)から13 日(日)にかけて味の素ナショナルトレーニングセンターで第5次合宿を行い、その締めくくりとして6月10日(木)、12日(土)、13日(日)にポルトガル代表を迎えて三井不動産カップ 2021(神奈川大会)を行う予定だ。最終メンバーのセレクションとチームのチューンアップの両面で、いよいよ大詰めに差し掛かってきた。
日本が強化試合で対戦するポルトガルはFIBA ランキング 48 位。同10 位の日本から見れば勝つべき相手と捉えることができる。この対戦に日本は、本番のグループラウンドで対戦するフランス、アメリカ、ナイジェリアを想定して何をするべきなのか。各チームの情報を見つかる範囲で集めてみた。

 

フランス(7月27日対戦予定)
FIBAランキング5位/2016オリンピック/4位/2018ワールドカップ5位



リオオリンピックではグループフェーズで日本と同じグループAで3勝2敗。この2敗は日本(71-79)とオーストラリア(71-89)に対するものだった。ファイナルラウンドではカナダを破ってベスト4に進出。準決勝では最終的に金メダルを獲得したアメリカに後半突き放され67-86で敗れたが、前半は36-40とほぼ互角。セルビアに63-70で黒星を喫した3位決定戦でも前半は27-27。この大会では試合の入り方が悪かったが第2Qに立て直す傾向が見られ、唯一第1Qをリードして終えたのは日本との試合(19-17)だった。ただし4強入りという成績が示す通り、その後立て直しがきちんとできていた。
5位に入ったFIBA女子ワールドカップ2018では、グループフェーズを2位で終えファイナルラウンド進出決定戦でトルコを倒してベスト8入り。準々決勝でベルギーに敗れ5-8位決定戦に回ったがそこで勝ち上がった。この大会では通算成績が5勝2敗だったが、5勝のうち3勝でやはり第1Qを劣勢で終えている。

 経験豊富なベテランのオリビア・イポウパ(165cm/PG)、サンドリン・グルダ(197cm/PF)、エレナ・シァク(197cm/C)、そして若手のマリーン・ジョハネス(177cm/SG)らがボックススコアを賑わす名前。現在フランスバスケットボール連盟(http://www.ffbb.com/)で確認できるロスター15人の平均身長は183.9cmあり、上記後グルダとシァクを含め190cm以上が5人いる。YouTubeなどで閲覧可能な映像からは、ジョハネスの縦横無尽なプレーぶりやシァクらビッグマンのフィジカルな強さが確認できる。
フランスへの対策として想像しやすいのは、まずは序盤に日本のペースをつかむことと、ジョハネスのような有能なプレーヤーに好きなことを楽にさせないことではないかと思う。実際に直接対決で勝利した体験を持つ日本は、格上とはいえメンタル・エッジも持って臨むべきとも思う。そのような点をポルトガルとのテストマッチで表現できるか、一つの見どころになる。

 

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アメリカ(7月30日対戦予定)
世界ランキング1位/2016オリンピック優勝/2018ワールドカップ優勝

 東京オリンピックで7大会連続の金メダルを目指すチーム。フィジカルなディフェンスとリバウンドからトランジション・オフェンスでどんどん攻めあがってくる上、どのプレーヤーも3Pショットを積極的に狙う。多くのチームはアメリカの攻勢に20分間は持ちこたえられるが、それを40分間できるチームがない。リオオリンピックで対戦した日本はまさしくそのパターンで、前半を終えて56-46というスコアは希望を持てるものだったが、最終的には110-64と圧倒されてしまった。日本は「40 minutes of hell(40分間の地獄)」を乗り切る必要がある。
アメリカ対策として、40分間ピークパフォーマンスを続けることは非常に重要だ。どこかで谷間を作ることは許されないだろう。ポルトガルとの強化試合は、点差や勝敗の結果とはまったく別に、ティップオフから試合終了の瞬間まで戦い切る訓練の機会にもなるはずだ。

 ここでは今年3月のキャンプにおけるロスターを並べてみたが、昨年のオリンピック予選で活躍したブレナ・スチュアート(193cm/F-C)、ブリトニー・グライナー(206cm/C)ら注目すべきプレーヤーの何人かが参加していない。また、ダイアナ・タラシはつい最近胸部を痛め戦列を離れた。3×3アメリカ代表で東京オリンピックの出場権を得たプレーヤーが含まれている。
最終的なロスター動向は今後要確認だが、誰が出てきてもまったく脅威は変わらない。一方で、アメリカのプレーヤーは多くが現在WNBAでプレーしているので、個別のスカウティングはしやすいと言える。今シーズンWNBAでスタッツリーダーを確認すると、ティナ・チャールズ(193cm/C)がリーグ全体のトップスコアラーとなっている。シルビア・フォウルズ(198cm/C)はフィールドゴール成功率が1位、リバウンドが4位。アリエル・アトキンス(173cm/G)は3P成功数で、スカイラー・ディギンズ-スミス(183cm/G)はアシストで、ジュエル・ロイドはスティールでトップ5入り…。つまり世界最高峰のリーグとされるWNBAのトップクラスのプレーヤーがそろっている。

 

ナイジェリア(8月2日対戦予定)
世界ランキング17位/2016オリンピック不出場/2018ワールドカップ8位

 ナイジェリアは強敵で、ランキングに騙されてはいけない。逆に、リオオリンピックに出られなかったチームが2018年に世界の8強入りし、昨年のオリンピック予選でアメリカに対し71-76という激戦を展開したことをしっかり見つめられないならば、日本は金メダルを語るべきではないだろう。その試合のロスターに名を連ねたメンバーを並べてみれば、サラ・オゴケ(175cm/G)を除く全員がNCAAディビジョンIでしっかり訓練された「もう一つのアメリカ」と呼ぶべきチームであることがわかる(オゴケもアメリカの大学でバスケットボールをしていた)。
前述のアメリカとの試合では、スー・バードやグライナーらWNBAのトップクラスがプレーしたアメリカにプレスディフェンスで堂々対抗。前半を終えた時点でのスコアは40-26。リードしていたのはナイジェリアの方だった。強烈なトラップディフェンスが冴えた第2Qは世界ランク1位のアメリカに6点しか許していない。このような結果を受けてチームとして勢いと自信を持たないはずない。

 ビクトリア・マコーリー(193cm/F-C)をはじめこのときは190cm以上が3人おり、平均身長は183.4cm。しかし長身プレーヤーだけではなく、エジーネ・カルー(173cm/G)らフィジカルが強く機動力に富んだバックコートも非常に大きな脅威だ。

 

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女子日本代表が「40分間の地獄」を戦い抜くために

 

 こうしたデータを眺めてみると、あらためて日本のチャレンジがいかに大きなものかが明らかになる。一方で、5月に第4次強化合宿に臨んだ女子日本代表のズーム会見は、それが不可能ではないことを感じさせてくれるものだった。
第3次合宿からバックコートの人選を絞り17人で臨んだ第4次合宿期間のズーム会見で、トム・ホーバスHCは「この合宿では自分たちのバスケットボールがきれいにできるようになった」とまずは自分たち側の仕上がりに関する好感触を語った。感覚的には90%ぐらいの仕上がりであることも明かしながら、「このチームのオフェンシブ・セットとかディフェンスの考え方は、フランス、アメリカ、ナイジェリアのためにやっている。ウチの強さと弱さを考えてチームバスケットボールをやります」とスカウティングも進んでいることをうかがわせた。「練習内容は半分が自分たちのバスケットをきれいにやること。もう半分が、例えばナイジェリアはこういうディフェンスをやっているから、こうすればアタックできるというような内容」だと言い、対戦相手を想定した準備も着々と進んでいる様子だ。
現状、海外のプレーヤーたちが個別のチームで実戦を通じて調子を上げているのに対し、日本には実戦経験が皆無という点が懸念事項の一つだ。しかしその点については「プラスとマイナス両方がある。個々のプレーヤーとしては準備ができるが、代表チームとしてはまとまれていない」と冷静に分析した。「海外のプレーヤーがリーグで高いレベルのプレーをしているのは本当に大きなプラス。でもナショナルチームが練習をしていないのは大きなマイナス。日本は今回(第4次)の合宿を終えるともう44回練習したことになるんですが、他の国はそこまでやったかどうか」。日本にはち密さと連係の点でアドバンテージがあるという見方だが、ポルトガルとの強化試合で実戦感覚をつかみ、本番まで維持していきたいところだ。

 

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第4次合宿では3P成功率60-70%を目標として、それに対して手応えをつかんでいると話した林(写真/©JBA)


ホーバスHCはまた、今回のチームがオフェンス面で最大の武器としたい3Pショットに関して、そのスペシャリストである林 咲希(ENEOSサンフラワーズ)の仕上がりに自信を見せていた。4月の会見では3Pシューティングに関して「80ポゼッションで3Pアテンプトを30本以上(あるいは約40%)にして、そのうち40%近くを成功させる」との構想を話してくれていたが、林は60%以上の確率で成功させているという。林本人も、「シューターとしてトムさんから買われていて、それをこの代表合宿で表現できている」と話す。「難しく考えずに空いたら打つということをやっています。今の時点ではいい具合に達成できていて、6割-7割決められるように頑張っていきたいです」

 

「3Pラインより1m以上後方からディープスリーを50%以上で」と話す三好。レンジはいくらでも伸ばしたい(写真/©JBA)

 

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実戦での確率を考える上で、やはり相手の大きさが影響しないかどうかは気になる点の一つだ。それについては、「(コート上を動き回って)相手とのズレを作ってシュートに持っていくのが得意なので、ガードがパスを出しやすい位置に動くことと、速さの強弱をつけて相手をズラして打てるように意識している」と話してくれた。同じ点について三好南穂(トヨタ自動車アンテロープス)は、「普通の3Pエリアで打つのが難しいというのがあるので、ラインよりも1m以上後ろから、練習では50%決めていきたいと思っています」という。
林も三好も、ホーバスHCの構想に出てきた数字よりも高いレベルを自らの課題として取り組んでいることがわかる。また、奥山理々嘉(ENEOSサンフラワーズ)はFIBA U19女子ワールドカップで世界の大きさを体験したことがこの面でも生きてくるだろうことを「リーチが長くて3Pシュートが打てなくて。その頃はラインぎりぎりからしか打てなかったから…」と当時を振り返りながら話してくれた。

 

U19で世界を経験した奥山は、それを生かした貢献に期待がかかる(写真/©JBA)


また、長岡萌映子(トヨタ自動車アンテロープス)は「世界の高さに対してオフェンスで機動力を生かしていけると思います。その中で良いところ悪いところを理解してアジャストしたり、力負けしないように体を張ることを意識していますと話していたが、それをチームとして40分間やり通すことがそのままアメリカ対策のように思う。「ディフェンスでミスマッチがあるので、体を当てることと、そこでどれだけアクティブに動けるか。足を使ってディフェンスすることが、小さい私たちには求められるので、自分以外にも日本のセンターはやっていかなければいけないかなと思います」

 

オリンピックもワールドカップも経験している長岡は率先して体を張る覚悟だ(写真©JBA)


185cmと長身のシューティングガードである赤穂ひまわり(デンソーアイリス)が課題として挙げたのも、「やり続ける」という部分だった。「オフェンスリバウンドはもちろん毎回ちゃんと参加するということ。参加しなければ絶対に獲れないので、行くことをしっかり意識してやっています」。ディフェンスリバウンドに関しても、フロントラインが大きな相手をボックスアウトしている間に自らを含めたバックコート陣がしっかり飛び込んで獲ることを意識しているという。
シューターの役割で合宿に参加していた北村悠貴(日立ハイテククーガーズ)は、自身を「積極性があるほう」と分析していたが、「前のめりになってもっともっと積極的に参加していきたい」と意欲を言葉にした。コート上の5人だけではなく、関係者一同誰もが一丸となることの重要性を意識すること。チーム全体でこうした小さな努力を続けていくことでしか活路を見出すことはできないと理解しているのだろう。

 

赤穂が言うオフェンスリバウンドに毎回参加する意識は「戦い抜く」という観点から非常に重要だ(写真/©JBA)

 

 林や三好らの取り組みの成果や、世界を感じた奥山のその後の成長がどんな形で表れてくるか。長岡、赤穂、北村が話してくれた地道で小さな努力の積み重ねはどんなレベルで達成されるのか。
相手が強いことはわかっている。では私たちはどうなのか? こちらの強さをわからせてやろうじゃないか。そんな気持ちが込められた女子日本代表のチャレンジが、まもなく本番を迎える。

 

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北村は「もっともっと積極的に」と自分を鼓舞するように話していた(写真/©JBA)


取材・文/柴田 健(月バス.com)

(月刊バスケットボール)

 



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