月刊バスケットボール5月号

バスケットボール女子日本代表世界一への3つのカギ(3) - 3Pシューティング

 世界の頂点を目指す女子日本代表のオフェンス面における大きな武器は3Pシューティングだ。この項目について5年前のリオオリンピックと3年前のFIBA女子ワールドカップ2018の日本代表を振り返ると、その意味合いが大きく変動していることに気づく。5年前、日本代表は大会参加12チーム中3位にあたる一試合平均75.0得点を記録しており、3P成功数は7.2本(21.6得点、全体の28.8%)だった。3Pショットのアテンプトは18.7本で、これはフィールドゴール全体(67.2本)の27.8%にあたる数字であり、成功率は大会4位の38.4%だった。

 

 

 3年前はどうかというと、平均得点は大会5位の74.5得点で5年前とほぼ同じなのだが、3P成功数が10.0本(30.0得点、全体の40.3%)まで上昇している。アテンプトに至ってはリオオリンピックに比べ一気に10本上昇し、一試合あたり28.8本(フィールドゴールアテンプト全体の44.8%)になっていた。成功率が34.8%。これが大会公式サイトで確認できる数字だ。
両大会で日本の3Pシューティングは、アテンプト数も成功数もトップ3入りし、成功率は5年前が4位、3年前が2位だった。これらのデータは日本のシューティングが非常に優秀だったことを示している。しかし同時に、世界一を実現するほどまでには傑出していなかったと捉えることもできてしまう。世界のトップ3に入るシューティングが悪かったなどと言いたいのではまったくない。別稿で触れているような大きな身長差を克服して世界一を獲るには、より高いレベルが必要だったのではないかと思うのだ。

町田瑠唯は3Pショットを軸としたプレーメイクを念頭に置いていることを話してくれた(写真/©JBA)

 

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 5年前のロスターを見ると、バックコート(ポイントガードとシューティングガード)として登録されていたのは町田瑠唯(富士通レッドウェーブ)、三好南穂(トヨタ自動車アンテロープス)、吉田亜沙美(当時ENEOSサンフラワーズ)の3人で、残る9人のフロントライン(フォワードとセンター)に藤高三佳(当時トヨタ自動車アンテロープス)らシューティングに長けた人選を含めていた。しかし3年前はその藤高をシューティングガードとして登録するなどバックコートを7人に増やしていた。プレーヤーの役割・目的意識を変えて臨んでいたことがうかがえる。
同大会で優勝したアメリカ代表の平均得点は87.7得点。必ずしもここまで上昇させる必要はないとしても、日本の戦い方が比較的ハイスコアリングな展開を指向していることを考えると、オフェンス面でのカギはこの項目でいかにレベルを高められるかにかかってくるように思われる。
これも別稿で紹介しているとおり、ホーバスHCは合宿中の会見で「平均得点80点台。80ポゼッションで3Pアテンプトを30本以上(あるいは約40%)にして、そのうち40%近くを成功させる」との構想を明かした。80ポゼッションの40%で3Pショットのアテンプトがあり、その40%を成功させるということは、80×0.4×0.4の計算で一試合あたり3P成功数12.8本という数字が目標になる。それによる得点(38.4得点)をベースとして相手のディフェンスを広げ、運動量の多いハーフコートオフェンスからペイントでの得点を狙う、またトランジションでイージーバスケットを狙い得点を重ねるというのが基本的な考え方だろう。スラスラ軽く書いて済ませられるほど簡単な作業ではないのは承知だが、とにかくこんな皮算用をよりち密に考え抜いた構想を描いているのではないかと思う。

 

ロングレンジもドライブもと意欲を語った安間志織(写真/©JBA)

 

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第2次合宿に参加した22人の代表候補のうち15人は、バックコートとして登録されていた。緊迫した状況で最高のスピードと緩急をつけた展開を、ミスなく遂行し続けられるプレーメイカーと、ロングレンジからズバズバ狙えるシューターが必須だという一つのサインだと思う。その上でフロントラインのプレーヤーたちにも、ここぞの場面で3Pショットを一本決められる度胸とテクニックが望まれる。
この点についてWJBLでアシスト1位に輝いた富士通レッドウェーブのポイントガード、町田瑠唯は「ずっとシュートのことは言われているので、積極的に打ちたいと思いますが、ポンポン打つのではなく流れの中で打つべき時にしっかり打てるようにやっていきたいと思います」と抱負を語る。「シューターやシュートの確率が高い選手が多いので、自分がしっかりクリエイトして打たせられるようにしたいです」

 トヨタ自動車アンテロープスのプレーメイカー、安間志織は2020-21シーズンを通じて3Pショットに対する自信が出てきたことを明かした上で「シューターに打ってもらいたいというのもあるので、それを作るために私が、本数が少なくても空いているときに打たないといけないし、そこからドライブでディフェンスを引きつけて…という感じが理想かなと思います」と意欲的に話した。

 

速いバスケの重要性を宮﨑早織は話した(写真/©JBA)

 


「トムさんのやりたいバスケットに自分がどうアピールしたらよいかを考えながら合宿に臨んでいます」と話したのはWJBL2020-21シーズンの3P成功率で11位にランクインした宮崎早織(ENEOSサンフラワーズ)。「ガードの3Pショット、2Pショット、流れの速いバスケットは本当に重要になってくるんじゃないかなって思っています」と話し、自らの持ち味を積極的に発揮しようとフォーカスしている様子だった。シャンソン化粧シャンソンVマジックの小池 遥は、3Pショットの表裏一体という意味で重要になるだろうドライブに自信を見せる一方、やはり課題として3Pシューティングを挙げていた。
女子日本代表が世界一の座に就く可能性が何%かなどわかるよしもないが、十分期待を持てるチームだ。端で見ている記者が描く妄想以上に、ホーバス トムHCの頭の中では2018年を上回る3Pショットの嵐を巻き起こすゲームプランが整然と組み立てられ、スカウティングも進んでいるに違いない。しかし、3Pショットの精度は40%が最低ラインで、42%、43%と上を見たいというのが本音ではないだろうか。それにはシューターたちはもちろんだが、やはりプレーメイカーたちの手腕やチームディフェンスの精度、リバウンドの奮闘ぶりも大きくものを言うだろう。
女子日本代表は今後、4月30日(金)から5月9日(日)までの第3次合宿を経て、さらに第4次合宿へと向かう予定。実力者がそろっているだけにどのような進展が見られ、報告されるかは楽しみでしかない。

小池 遥は「トムさんに求められているのがドライブやディフェンス面」と意識しながら、3Pショットにも積極性を見せていた(写真/©JBA)

 

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文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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