月刊バスケットボール6月号

Bリーグ

2021.09.20

謙虚な岸本隆一(琉球ゴールデンキングス)が発散する自信

 5年前の2016年9月22日、琉球ゴールデンキングスはアルバルク東京と、Bリーグ創立後初めてのシーズンにおける歴史的な開幕初戦の舞台で対戦した。bjリーグを4度制覇したキングスと、JBL・NBLで通算4度王座を獲得したアルバルク東京の“花形チーム対決”。しかしこの対戦について、「雑草対エリート」という見方をし、アルバルク東京の優勢を予想するメディア関係者やファンも少なくなかった。


背景には、特に両チームが所属したリーグの外国籍プレーヤー起用に関する自由度の違いがあった。オンザコートの人数制限がbjリーグよりも高まるBリーグで、キングスにそれまでと同じだけの支配力を期待できないのではないかというわけだ。


チーム・クラブ運営の歴史の違いもあった。キングスは2006年の誕生からして地域に根差したプロクラブ。一方のアルバルク東京は、日本を代表する大企業の一つであるトヨタ自動車のバスケットボール部として1948年に創部。1980年代以降、企業スポーツが受難の時代を迎える中で、組織としての力強さを印象づけるかのように、逆にチーム力を年々高めてきたチームだった。

 

5年前の悔しさを胸に


来る2021年9月30日(木)、両チームは当時とは異なる背景を持って再びB1シーズン開幕戦で火花を散らす。今回の会場は沖縄アリーナだ。

 

 キングスが今シーズンの活動を本格スタートした直後の8月11日に、クラブ公式サイトで公開された岸本隆一の『2021-22シーズン始動インタビュー』には、5年前の開幕戦を振り返る言葉が記されている「新しくこれからファンになってくれるであろう人たちの期待を裏切れないという責任も感じていたので、とても重かったですね。自分に自信もなく、あまりに大舞台で、どしっと構える度量がなく受け止めきれない部分もありました」


バスケットボール界が言いようのない熱気に包まれたあの夜、岸本はスターターとして代々木第一体育館のコートに立った。会場を埋めた9,132人の大観衆が見守る中、フィールドゴールを7本中1本(3Pショット)しか決められず4得点。75-80と5点差を追いかける最後のポゼッションを自らの3つ目のターンオーバーで終え、このスコアのまま敗れた。華々しい舞台設定の中、岸本にとっては悔しい幕切れだったに違いない。


あの夜から5シーズン、岸本とキングスの記録をたどれば非常に堅実な前進を見せてきたことが明らかだ。最も象徴的なのはチーム成績。2016-17シーズンこそ負け越した(29勝31敗)ものの、翌2017-18シーズン以降はB1西地区において4連覇。レギュラーシーズンでは通算178勝99敗で、勝率は64.3%に上る。


Bリーグ開幕以前の過程も含め、悔しさをバネにして即刻改善するキングスのカルチャーがその歴史に体現されている。シーズンを負け越したのはbjリーグ参戦初シーズンだった2007-08シーズン(10勝34敗)と、Bリーグの初シーズンだけ。それぞれの翌シーズンには、2009年が沖縄のプロチームとして初の日本一達成、2018年がB1西地区初制覇が達成された。


bjリーグ時代最後の3シーズンに1試合平均11得点台のアベレージを残した岸本は、Bリーグの5シーズンで平均10.0得点とそのレベルをほぼ維持してきた。その間の欠場はわずか4試合。2020年の3月に体調を崩し、調べてみれば指定難病の潰瘍性大腸炎だったという発表には驚かされたが、そんな試練に屈さない安定感はキングスの屋台骨と言える。


また、3P成功率に着目すると、どんなに否定的な評論家であっても、尊い努力が結果につながったことを認めざるを得ないだろう。2016-17シーズンは前シーズンの37.5%から30.8%へと大幅なダウン。これはある意味で、bjリーグのネガティブな現実を示した数字だったのかもしれないが、その翌シーズン以降35%を割ったシーズンはなく、2020-21シーズンは2012年のプロデビュー以降の全キャリアで最高となる41.4%をマークした。マッチアップとのズレを作るオフボール、オンボールの動きのバリエーションも、力強さも増した。これは逆に、bjリーグが育てたプレーヤーの誇るべき現実だ。


岸本もキングスもあの夜と同じではない。9.30決戦は、今やどこからどうみても『エリート対決』と形容されてしかるべき対戦だ。

 

アンダーアーマー主催のイベントだったので、せっかくの機会にシューズのこだわりを聞くと、岸本は「ローカット。足首の可動域が多くなる感覚を大切にしています」と話してくれた

 

「最後にチームとして一番良い状況に持っていけるようにしたい」

 


目標が何であれ、それを成し遂げるためのアプローチはすでに岸本の生活にしみついている。「人よりも考えることと続けるっていうこと」——8月29日にアンダーアーマー チャリティーオークション開始初日のオンラインライブトークショー後のメディア対応で、岸本はこう話した。「BリーグでもNBAでも、日本代表でも、そこに到達する手段は必ずしも一つではありません。人よりも考え、そこに到達するための手段・努力を惜しまず続けるということが、目標を達成するためには必要じゃないかと思います」


個人としてもチームとしても、そのアプローチを実践してきた。岸本の言葉にはそんな自信が感じられた。2リーグ制時代に果たした沖縄のプロスポーツ初の日本一を、統一されたトップリーグたるBリーグ制覇により、もう一度。


そんな言葉を聞くかと思ったが、岸本が述べた新シーズンへの抱負はいたって謙虚だった。「シーズンを過ごす中で成長して、最後にチームとして一番良い状況に持っていけるようにしたいですね。アップダウンがある中でも、チームとしてまとまって戦えたらと思います」。個人的な目標としては、「毎年思うことなんですが、毎試合できるだけ長くコートに立てるように、自分のコンディションを整えて戦っていきたいですね」と話す。


生真面目な努力家が、派手な目標を語らず地道な前進を志しているときこそ怖い。


小寺ハミルトンゲイリー、コー・フリッピン、アレン・ダーラムが加わり、bjリーグ時代にキングスを2度リーグ制覇に導いた桶谷 大がヘッドコーチとして戻ってきた新生キングスに関しては 「今シーズンの特徴は、ボールを持ったら試合を決めたり支配する力のある選手ばかりだということ。なので、個人的にはいかに再現性を高めるか。毎試合チームとして100%の力をどうやって出し切って行くかがテーマだと思っています」と、その自力に自信を見せる。「毎試合、良い意味で違うゲームができるチームになると思うので、そんなところを期待してほしいですね」


ダーラムが合流した8月28日以降、キングスはプレーヤーもスタッフも全員がそろい、シーズン開幕に向けて本格的に始動した。その後、新加入のビッグマンとして期待された渡邉飛勇が9月4日に行われた秋田ノーザンハピネッツとの練習試合で右橈骨頭を骨折(全治4-5ヵ月)し、さらに9月14日の練習中に並里 成が第三腓骨筋を負傷(全治2-3週間)と心配なニュースが続いた。2021-22シーズンは、一筋縄ではいかない試練を提供するものなのかもしれない。


だからこそ怖い、今シーズンの岸本とキングスだ。

 

 

☆アンダーアーマー チャリティーオークション ※ライブトークショーは下の画像クリックで閲覧可能

参加: 辻 直人(広島ドラゴンフライズ)、岸本隆一(琉球ゴールデンキングス)、シェーファーアヴィ幸樹(シーホース三河)、宇都直輝(富山グラウジーズ)

MC: 今井麻椰

 

 

☆岸本隆一も出品中のアンダーアーマーチャリティーオークションサイト:

https://auction.hattrick.world/top/226


取材・文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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