月刊バスケットボール5月号

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2022.06.02

町田瑠唯デビューから10試合、10のポジティブ

 ワシントン・ミスティクスでWNBAデビューを果たした町田瑠唯は、5月中に組まれていた10試合の日程すべてを終え、すっかりチームに馴染んだ様子で活躍している。東京2020オリンピック時のような驚愕のスタッツを残しているわけではないものの、言葉の壁やあまり情報として持っていない相手とのマッチアップなど困難がつきまとう中で、確実にチームに貢献していることが感じられる。具体的にはどんなところが高く評価できるだろうか。

 


1)全試合出場
まず、開幕から全試合に出場できていることは高く評価できる。ミスティクスのロスターには現在11人のプレーヤーが登録されているが、その中で10試合すべてに出場しているのは5人だけだ。総出場時間(175分)は7番目で、心身のコンディショニングの良さがチームに安定感をもたらす一つの要素となっている。町田自身のアベレージは2.8得点、フィールドゴール成功率35.3%、3P成功率30.8%、1.8リバウンド、3.3アシスト、0.5スティールだ。


2)早くもスタメン起用2度
ミスティクスにおいてバックコートの要と言えるナターシャ・クラウドが欠場した2試合で、マイク・ティボーGM兼HCは町田をスターターに起用した。いうまでもなく、チームからの信頼の厚さを示す出来事だ。町田はこの2試合で平均29分28秒プレーし、8.5得点、フィールドゴール成功率43.8%、3P成功率50.0%、2.5リバウンド、5.5アシストと数字的にもここまでの最高レベルの結果を残した。


3)チームの好調ぶり
開幕からの10試合を終えて7勝3敗(勝率.700)でリーグ2位というミスティクスの成績は、ひとまずここまで、町田の獲得が成功以外の何物でもないことを示していると言ってよいだろう。敗れた3試合はダラス・ウイング(5勝4敗、勝率.556)、シカゴ・スカイ(5勝3敗、勝率.625)、コネティカット・サン(6勝3敗、勝率.667)といずれも勝率.500以上のチームで、スカイは昨シーズンの王者だ。

 また7勝の中には現在首位のラスベガス・エイセズ(9勝1敗、勝率.900)からの価値ある白星が含まれている。町田が初めてスターターで出場したのがこの試合で、キャリアハイとなる9得点、4アシストを記録したことは高く評価できる。
ベンチから出てくる町田のプレーが、ここまではミスティクスの良い流れにつながることが多い。町田個人というよりも、町田を含む5人のケミストリーがシーズン序盤から高いレベルで生み出されている証しと見るべき現象かもしれない。

 


4)総アシストでリーグトップ20入り(17位タイ、平均本数でも22位)
女子バスケットボールの世界最高峰リーグとされるWNBAで、得意のアシスト部門でリーグのトップ20人に数えられるという成績は、町田に期待するものとしては「まずまず」くらいに捉えるべきレベルかもしれない。最初の10試合で平均3.3本、トータル33本。しかし何はともあれ、デビューから間もない時点でのこの成績は大きなポジティブ要素だ。
コミュニケーションがさらにうまくできるようになり、かつ出場時間が伸びてくれば、この数字がグンと上昇することが期待できる。ミスティクスがプレーメイカーとしての町田のポテンシャルに期待しているのもそのレベルだ。ティボーGM兼HCも会見で、町田が最終的にはアシスト部門でトップ10入り(しかもトップ5に近いレベル)すると見込んでいることを明かしていた。


5)アシストはアベレージも総数も全ルーキー中1位
もう一つアシストについていえば、今シーズンのルーキーの中では町田がアベレージでも総数でもトップに立っている。2位は今春NCAAトーナメントで全米制覇を成し遂げたサウスキャロライナ大から、インディアナ・フィーバーに入ったデスティニー・ヘンダーソンで、5月中の数字は11試合で平均2.6本、総数29本だ。
ちなみにリーグ全体のアシストリーダーはスカイのコートニー・バンダースルートで、5月中は8試合で平均7.4本、総数59本を記録している。平均で5本台に乗せればトップ10入りが見えてくるが、それは町田の現状から考えれば十分可能なレベルだろう。個人的な成績にどこまでフォーカスするかは別にして、トップを競う状況も多くのファンが期待しているに違いない。


6)スティールでルーキー中10位
町田の1試合平均0.5スティールという数字はインパクトが小さいかもしれないが、これもルーキー中10位に入る成績だ。また、直近4試合でアベレージが1.2本に上昇しているのも良い傾向に違いない。

 町田のディフェンスは、クラウドが言うには「コワいくらい」にしつこくどこまでもマッチアップした相手についていく。相手のドリブルドライブを阻止する、あるいはスローダウンさせるシーンもたびたびあり、ディフェンス面での存在感もチームとして相当感じているものと思われる。

 


7)チームメイトからの高い評価
前述のクラウドのコメントだけでなく、町田のプレーぶりに対するチームメイトからの称賛の声はミスティクス加入以来たびたび聞かれている。大黒柱のベテラン、エレーナ・デレ・ダン、シューティングガードのアリエル・アトキンス、ピック&ロールでたびたび良いコンビネーションを見せているエリザベス・ウィリアムズ、大の仲良しとされるマイシャ・ハインズ-アレンらは、会見の場で町田に関する質問を受けるたびに笑顔で高評価を語ってくれる。
彼女たちはお世辞を言っているわけではないだろう。それがチームの成績に十分表れている。


8)日本のファンからの高い反響
日本にいるファンが、町田の出場試合をフルに観戦するには、Rakuten NBA(有料、配信される試合は現時点では一部のみ)かWNBA公式アプリのリーグパス(有料、リーグの全試合を閲覧可能)に加入する方法と、WNBA公式ソーシャルメディアアカウントの無料ライブ配信(一部の試合のみ)を楽しむ方法がある。どれだけの人々が有料サービスを利用しているかのデータは手元にはないが、月バス.comで毎試合のレポートやミスティクスの会見で得られる情報を記事として発信した場合、多くは高い反響につながっている。この現状からやはり町田の活躍が日本国内において非常に高い関心の的であることがわかるのだが、それがそのまま、ミスティクスとその親会社であるモニュメンタル・スポーツ&エンタテインメント(以下MSE)にもポジティブなフィードバックとして伝わる要素である点は重要だ。チームにとっての町田の価値がマーケティングの側面からも高まるからだ。
この秋ワシントン・ウィザーズがNBAジャパンゲームス2022で来日する際、ミスティクスのコーチ陣やプレーヤーも一部来日する可能性が高いことをMSEの幹部は明かしている。そうした相互の活動で日米のバスケットボールを盛り上げていくことに、町田の活躍はつながるに違いない。


9)週間トップ10プレー入り
北米時間5月28日の対コネティカット・サン戦で町田が繰り出したアシストの場面が、当該週のトップ10プレーの第5位にランクインしていた。ウィリアムズとのピックプレーで、ノールックのフックパスをゴール下に通した好アシストで、「これぞ町田」と言えるようなトリッキーでクリエイティブなプレーだった。
世界最高峰リーグのトッププレー映像集にその名を刻むことは、具体的なイメージとしてファンや子どもたちに及ぼす直接的な影響があるだろう。有料サービスを使わなくても見られるダイジェスト映像に登場する町田を見て、さっそくまねした子どもたちが全国にたくさんいたのではないだろうか。これは日本のバスケットボール界にとって非常に重要な出来事だ。

 

 

10)地元メディアの受けも良好
町田にとってバスケットボール以上に難しいだろう言葉の壁の打破を、町田は非常にうまくやってのけている。素晴らしいのは人柄として周囲に気に入られていることで、ビートライター(ミスティクスとウィザーズの番記者)たちが町田を温かく迎えていることが、日々の取材で感じられる。
町田が日本のスナック菓子をミスティクス関係者やメディアメンバーに配って挨拶をしたことが伝えられていた。こうしたコミュニケーションが言葉の壁を破って打ち解けた人づきあいを始める助けになっているようだ。記者の方も日本語で質問を試みたり、試合や練習のたびに町田の映像を日本のファン向けに発信してくれている。彼らも町田の価値を認識しているからこそのことだろう。

 


さて、6月以降、こうしたポジティブはどのように膨らんでいくだろうか。まだ達成されていない2桁アシスト、2桁得点はいつ来るか。ダブルダブル、トリプルダブルはいつになるだろうか。アシストリーダー争いはどんな形でヒートアップしてくるのか。


課題としてはコーチ陣やチームメイトからも言われている「積極的にオープンショットを打っていく」アプローチがある。また、相手も研究してピック&ロールでのパスの出しどころを読んでくるだろう。その状況で、いかに自分でフィニッシュできるか。あるいはさらに研ぎ澄まされたポケットパスを連発できるだろうか。それには日本語でいう「あうんの呼吸(英語ならPlay on the same pageだろうか)」が必要だが、どこまでそれを高めていけるか。


今シーズン中に、町田の名前が付けられたユニフォームが定番化するだろうか。八村 塁とどこかのタイミングで“共演”する機会があるだろうか…。楽しみな要素が次々と浮かんでくる町田のデビューシーズンだ。



文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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