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2021/05/01

八村 塁(ウィザーズ)が発散するNBAスワッガー

 

 身長208cmのアンソニー・デイビス。昨シーズンのNBAチャンピオンで、リーグのブロック王に3度輝いたビッグマン。アメリカ代表としてオリンピックとワールドカップで金メダルを手にし、インサイドでもアウトサイドでも、オフェンスでもディフェンスでも強大な脅威となる存在。そのデイビスが、ブロックショットを狙って猛スピードで八村に襲い掛かってきた。

 だから何だっていうんだ――4月29日、全米中継もされたワシントン・ウィザーズ対ロサンゼルス・レイカーズ戦で八村 塁が見せた豪快なダンクから発散されているものは、そんな凄みを帯びた自信だ。フィニッシュに向かう直前、八村はデイビスとの距離感を確かめるためか、一瞬相手の方をギラっとにらみつけ、ひるむことなく加速しながら舞い上がった。空中で激しい衝突が起こる中、ボールをつかんだ八村の右腕がデイビスの頭上から振り下ろされる。ゴールとネットを激しく揺らすスラムダンクが決まるとともに、デイビスの巨体はフロアに崩れ落ちていた。
 八村は、空中での衝突の結果としてベースラインの外まで吹き飛ばされて立ち上がれずにいたデイビスの方を、涼しげな表情で一べつしてバックコートに戻っていく。
 ダンクに関するさまざまな形容が頭の中に次々と浮かんできた。“with authority(威厳のある)”、“in your face(真向勝負で)”、“monster dunk(怪物のような)”、“tomahawk(斧を振り下ろすような)”、“hammer(ハンマーでたたき込むような)”、“posterize(ポスターになるような)”。とにかく言いようもないほどに強烈で衝撃的な一撃だった。

 全米中継を担当したESPNの実況は「Wow, my goodness, Rui Hachimura against Anthony Davis!! He’s got the worst of that!!(ワオ、なんということでしょう、八村 塁がアンソニー・デイビスに! これは(デイビスにとって)最悪の結果です!)」と叫んだ。レイカーズ側の実況も「Hachimura throws it down on Davis!! Look out AD…(八村、デイビスに対して叩きつけました! これはAD、やられましたね…)」と絶叫していた。 
 試合後の会見に登場した八村には、アメリカの記者からも日本の記者からも、このダンクについての質問が飛んだ。チームの日本語広報スタッフとのやりとりでは、「力強くいこうと思って、最初は本当に決めたかわからなかったんですけど、ラッセルがすごく笑っていてみんながフレックスしていたので、それで決めたとわかって良かったです」と答えている。フレックス(flex)はベンチが盛り上がってほぐれた状態になることを指す言葉だ。
 こんなプレーはNBAでも当たり前ではない。「#ADの上」からぶち込んだ八村のダンクは、その夜のTOP10プレーの2位にランクインした。しかし、「2位でいいんだろうか」と日本メディアとして正直な感想を持った。日本のスポーツ界にとっては当然もっと歴史的な、ワクワクするような衝撃をもたらす一撃だっただろう。
 このプレーを見た直後、MLBのシアトル・マリナーズに所属したイチローが今から20年前に披露した「レーザービーム(lazer beam)」の記憶もよみがえった。ライトフィールドに転がったヒットを見て一塁から三塁に滑り込むランナーを、イチローが矢のようなストライク返球で刺したシーンだ。マリナーズに加わったばかりの“ルーキー”だったイチローの驚異的なプレーに、テレビ解説者も実況も絶叫していたが、当のイチローは「だから何なの?」とでも言いたげにライトフィールドにヒザをついて次のプレーに備えていた。

 デイビスにダンクを浴びせる前後の八村の姿勢に、「ライトに飛んだら任せとけ」というイチローに似た自信を感じる。発展途上ではあるだろう。しかしアメリカでいう「スワッガー(swagger)」というものが身についていると思う。このプレーで八村は、いつものとおり速攻でフロントランナーとなり、ブラッドリー・ビールからのパスを受けゴールに向かった。「あとは任せてくださいよ」。そんなプロフェッショナルとしての自信は、相手が誰であっても揺るがないのだ。

 2019年の夏、八村をゴンザガ大で指導したトミー・ロイド氏(マーク・フューHCのアシスタント)が来日して行ったクリニックで、「hit first(最初にぶつかっていけ)」ということを習慣づけるドリルを見せてくれたことも思い出す。NCAAディビジョンIのトッププレーヤーたちを相手にする中でこの習慣を体にしみ込ませた八村は、今やそれをNBAのレベルに昇華させているのだ。だからADが相手でも自信をもって突っ込み、当然のように決めてくる。 
 ダンクから離れて、このところの自身の出来に関して八村は成長を感じていることも話していた。ラッセル・ウエストブルックとビールという、NBAでも特にアグレッシブなことで知られるバックコートとプレーする中で、自分自身のアグレッシブさもうまく発揮できるようになってきたという。至高のチームメイトは八村にさらなる自信をもたらす存在でもあるのだろう。

 今シーズンの残りは日本時間5月1日(アメリカ時間4月30日)のクリーブランド・キャバリアーズ戦を含めてあと10試合。直近10試合を9勝1敗としているウィザーズはプレーイン・トーナメントへの出場の希望も大きく、自信に満ちた活躍を見られる機会はまだまだ続く。


文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)

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