月刊バスケットボール8月号

NBA

2020.06.04

【コービー・ブライアント追悼コラム】シャキール・オニールの「贈る言葉」 Part1

今日6月4日は、コービーとシャキール・オニールを語るのにふさわしい“記念日”の一つです。そこで、シャックが天国のコービーに贈った追悼スピーチをとりあげてみます。

文=柴田 健

 

HOOP特別号『英雄伝説 コービー・ブライアント』より(中央左がシャック)

 

 

伝説のアリウープ

 

 2000年6月4日、ロサンジェルス・レイカーズはステイプルズ・センターにポートランド・トレイルブレイザーズを迎え、ウエスタンカンファレンス・ファイナル第7戦を戦っていました。第3Qを終わった時点で71-58と優位に立っていたのはブレイザーズ。しかしレイカーズは最終第4Qに31-13の猛スパートで逆転に成功。89-84の劇的勝利をおさめ、9年ぶりのファイナル進出を決めました。

 

 この試合の終盤にコービーとシャックが生み出したビッグプレイを記憶しているファンはきっと多いことでしょう。残り時間1分を切り、83-79とわずかにリードしたレイカーズがボールを保持。コービーがフロントコートにボールを運び込み、スコッティ・ピペンとトップの位置でスクエアアップした状態になりました。ゆったりしたドリブルから、急激に右への鋭いボールフェイクでピペンを揺さぶり、プルバック・ドリブルで左サイドを抜いてペイントに侵入したコービーは、シャックとマッチアップしていたブライアン・グラントがカバーに寄ってくるのを察知するや、タイミングよくゴール下に飛び込むシャックの頭上高くに絶妙のロブパスを浮かせます。身長216㎝のシャックが伸ばした手はリングのはるか上。その大きな手にふわりと舞い込んできたボールをわしづかみにしたシャックは、豪快にアリウープ・ダンクをぶち込みました。

 

 残り時間約41秒でリードを6点差に広げた会心のコンビプレーは、彼らが1996年にチームメイトになって以来3年間逃し続けてきたファイナル進出をほぼ決定づける「とどめの一撃」。12年ぶりのリーグ制覇に向け大きなステップとなる勝利を呼び込んだという意味において、レイカーズ全体の歴史の中でも重要なプレーの一つであり、コービーとシャックのコンビによる数々の名場面の中でも、最も印象に残るものの一つですが、それが生まれたのが20年前の今日、6月4日でした。

 

 コービーとは一筋縄ではいかないつきあいを続けてきたシャック。しかし、特に両者が引退した後は良好な関係を取り戻していました。2月24日にステイプルズ・センターで催された、コービーと悲劇の犠牲者たちを弔う告別式『The Celebration of Life』にもシャックは姿を現し、天国の相棒に向けた惜別の想いを、時にユーモアを交えながら言葉として残しています。

 

シャックのスピーチ

 

 大勢の前でコービー・ブライアントについて話すとしたら、それはたぶん彼の殿堂入りとか、コービーとバネッサの財団の催しに招かれてというようなことだろうと想像していました。それがよもや、まさか今日ここで彼を追悼する形になろうとは、思ってもみませんでした。

 

 体の芯から痛みを感じています。

 

 皆さんと同じく、友人であり弟であるコービー・ブライアントとかわいい“姪”、ジジを失った私も、いまだにうちひしがれたままです。バネッサさんと子どもたち、ご両親とお姉様がた、そして悲劇が起こったあの日に、愛する存在を失ったそれぞれのご遺族の皆さん、お悔やみ申し上げます。あの1月26日以来、私たちは永遠に変わってしまいました。

 

 私たち皆が知っているとおり、ブラックマンバの遺産は、単に史上最高のバスケットボール・プレーヤーの一人であったということで言い表せません。彼は確かに才能に恵まれ、しかもバスケットボールに真摯に打ち込みました。

 

 彼はこんなことを言っていました。「ほかの連中はチェッカーで遊ぶレベルだけど、オレはチェスなんすよね」。だから私はこう返したんです。「なるほどな、コービー。でもオレ、チェスのやり方を知らないんだよな…」

 

 これもお伝えしたいのが、コービーが最大の誇りとし、彼の心を満たしていたものはバネッサさんの夫として、ジジ、ナタリア、ビアンカ、そして生まれたばかりのカプリの父親として、また息子として、弟としての役割だったということです。コービーは忠義を尽くしてくれる友であり、本当に教養に満ちた人物でした。

 

 ここにいる皆さんの多くもご存じのことと思いますが、コービーと私は長年複雑な関係にありました。しかし、2人でリーダーを務めた別の例であるジョン・レノンとポール・マッカートニーが、創造性を競いながら史上もっとも偉大な音楽を生んだのと同じく、コービーと私は切磋琢磨を重ね史上最高の一つに数えられるバスケットボールを展開したのであり、3連覇のレイカーズが成し遂げたことを、シャックとコービーの時代以来、他のどのチームも成し得ていないことを思うと、それが本当に誇らしいことに思えるのです。

 

 

癒しの言葉

 

 以上はシャックのスピーチ前半部分の和訳文です。「周りはチェッカーでも…」というのは、「他者よりも頭脳的・戦略的なプレーで上回る」ことを比喩的に表現しており、先輩たるシャックを前に若いコービーが発した言葉としては、少々小生意気に聞こえたのかもしれません。それに対するシャックの「チェスのやり方がわからない」という返しは、ユーモアたっぷりにコービーの鼻っ柱の強さを柔らかく受け止めています。このエピソードをこの場で披露したことで、悲しみの底に沈んだ世界中のファンの心が少し和らいだのではないでしょうか。その直後に会場を包んだ大きな笑い声が、それを如実に表していました。

 

(以降、後半に続く)

 

2000NBAファイナルでのコービーとシャック

 

 

補足:シャックのスピーチ原文

 

When I have imagined speaking to a group of people about Kobe Bryant, I usually picture the context of his Hall of Fame induction or as a guest speaker at one of Kobe and Vanessa’s Foundation events. But never, ever could I have imagined that I’d be here today speaking at his memorial.

 

And it pains me to my core.

 

Like all of you, I continue to be devastated by the loss of my friend, my little brother Kobe Bryant and my beautiful niece Gigi. To Vanessa and the kids, Kobe’s parents, sisters and the families who lost a loved one on that tragic day, we grieve with you. All of us were forever changed on January 26th.

 

As we know, the Black Mamba’s legacy will be more than just being one of the greatest basketball players of all time. And believe me, Kobe was surely a gifted and intelligent student of the game. I remember him saying, “These guys are playing checkers, and I’m out here playing chess...” And I would say, “I guess so, Kobe, I don’t know how to play chess.”

 

I’d like to tell you that Kobe, what filled Kobe’s heart with the most pride was his role as a loving husband to Vanessa, daddy to Gigi, Natalia, Bianca and baby Capri, and a loving son and brother. Kobe was a loyal friend and a true renaissance man.

 

As many of you know, Kobe and I have a very complex relationship throughout the years. But not unlike another leadership duo, John Lennon and Paul McCartney, whose creative rivalry led to some of the greatest music of all time. Kobe and I pushed one another to play some of the greatest basketball of all time and I am proud that no other team has accomplished what the three-peat Lakers have done since the Shaq and Kobe Lakers did it.

 

(以降は後半公開時に掲載)

 

 

コービー追悼特設ページ『Dear Kobe Bryant』

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(月刊バスケットボール)



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