月刊バスケットボール8月号

NBA

2020.06.03

【コービー・ブライアント追悼コラム】10年前―2010年6月3日

10年前の今日、6月3日。コービー・ブライアントを好きな人はかなりの確実で、同じ感情を抱き、あるいは同じような行動をしていたと思います。なぜなら2010年のこの日は、コービーファンにとって特別な意味を持つNBAファイナルの第1戦が行われた日だからです。

文=柴田 健 撮影=佐々木智明

 

2010NBAファイナル第1戦ティップオフ前、精悍な顔立ちでコートに現れたコービー

 

 ロサンジェルス・レイカーズとボストン・セルティックスが激突した2010年のNBAファイナルは、近年のNBA史において非常に重要なシリーズでした。当時NBAコミッショナーだったデビッド・スターン(悲しいことに、今年の1月1日に逝去されました。享年77。ご冥福をお祈りいたします…)がシリーズ開幕前に語った言葉を借りれば、「1980年代の6月はLAとボストンを行ったり来たりする時期と決め込んでいました。(両チームの対決は)どれも面白かったですが、今、まるで当時に戻ったようですね」となります。

 

 両チームはそれまでに、レイカーズが15回、セルティックスが17回リーグ制覇を成し遂げており、ファイナルで11度あった直接対決(2010年が12度目)ではセルティックが9勝2敗とシリーズを大きくリードしていました。直近のファイナル直接対決はそのときから2年さかのぼる2008年で、6試合のドラマを経て王座に就いたのは、ポール・ピアース、ケビン・ガーネット、レイ・アレンのビッグスリーと司令塔のラジョン・ロンドを核としたセルティックス。レイカーズは1勝2敗で迎えたホームでの第4戦に前半の24点リードをひっくり返されて敗れると、第5戦こそ持ちこたえたものの、アウェイでの第6戦で92-131の39点差という屈辱的敗北を味わい、2勝4敗でシリーズを落としました。

 

 2010年のレイカーズは、その当時とはチーム状態に雲泥の差があり、連覇をかけて臨むディフェンディング・チャンピオンとしてシリーズを迎えています。前年のファイナルでは、オーランド・マジックを破って7年ぶりにリーグ制覇を達成。これはコービーにとって自身4度目、ただしシャキール・オニールなしでつかんだはじめてのタイトルでした(ファイナルMVPも初受賞)。

 

 2007-08シーズンは、コービーがオフにトレードを要求するほどチームとの関係がこじれた状態でスタートしており、1月にはビッグマンのアンドリュー・バイナムが故障で戦列離脱という危機もありました。2月にパウ・ガソルが加入したとはいえ、ファイナルまで勝ちきる準備は十分とは言えません。対して2010年はバイナムが十分プレーでき、前年までウイングのディフェンスで重要な働きをしていたトレバー・アリーザこそチームを離れたものの、代わって闘志満々のロン・アーテスト(現メッタ・ワールドピース)がディフェンシブ・ストッパーとして活躍。コービーとパウのコンビにも磨きがかかり、16度目のリーグ制覇に向け大いに期待を寄せられる状態でした。

 

 となれば…10年前の日本時間6月3日、コービーファンのあなたはたぶん、翌4日朝(アメリカ時間3日午後)ロサンジェルスのステイプルズ・センターでティップオフを迎える黄金のNBAファイナル第1戦に思いを馳せ、ビデオの録画をセットし、HOOPなどの専門誌を読んで情報を集め(当時はまだ今ほど、ソーシャルメディアでのつながりは深くなかったと思います)、「明日はコービーとパウが全開でセルティックスをやっつけるのだ」、「ロンがピアースを封じ込めるだろう」と胸の高まりを抑えることができず、眠れぬ夜を過ごしたのではないでしょうか。試合開始を迎える日本時間4日の朝には、会社での作業もおぼつかず、「ちょっと一休みしてきます…」などと言い残して休憩室に向かい、テレビで一つのクォーターまるごと見入っていつまでもデスクに戻らず同僚からけげんな顔をされたり、学生ならば授業にも身が入らずソワソワして注意された人も多かったのでは…?

 

 あわせて32回王座についているチーム同士による「伝統の一戦」。しかも2年前のリマッチで、レイカーズがホームコート・アドバンテージをもって連覇を狙うシリーズの初戦です。この日の試合は、世界中のファンをアツくする要素がそろったビッグゲームでした。

 

 カンファレンスファイナルの時点までコービーは、もしファイナルに進んだ場合の相手について、「どこでも同じ」と冷静なコメントをしていましたが、宿敵との大勝負を前に「セクシーなマッチアップだ」とこのシリーズを表現しています。「楽しみなチャレンジであり、テストだね」という彼の言葉は、ファンの心理とも重なっていたに違いありません。

 

 さて、試合のほうは…、レイカーズが第1Qからリードを保ち、徐々に点差を広げていきます。アーテストがピアースと激しくぶつかり合い一歩も引かない姿勢を誇示すれば、パウはガーネットとのマッチアップで23得点に14リバウンドの活躍(ガーネットは16得点、4リバウンド)。コービーの数字も、ゲームハイの30得点に加えて7リバウンド、6アシストと申し分ありません。

 

 最終的に第7戦までもつれ込んだ末、レイカーズが16度目のタイトルを手にした“世紀のシリーズ”。それにふさわしい熱気に包まれた第1戦は、パープル&ゴールドが102-89で勝利を収め、幕を開けています。

 

 

NBA公式YouTubeの2010NBAファイナル第1戦ダイジェスト映像リンク

https://www.youtube.com/watch?v=7NA8buIS_2k

 

 

コービー追悼特設ページ『Dear Kobe Bryant』

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(月刊バスケットボール)



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