「最高の自分」を体現できる
コンディションで試合に臨むために
アイシングは従来から、スポーツの世界でも広く実施されている。バスケットボールでも、熱中症などが疑われる際の体温コントロール、捻挫などの故障に対する応急処置、そして故障予防という具合にいくつかの異なる状況で役に立つ。特に故障予防目的でのアイシング活用は近年スポーツケアの世界で注目されている。激しい運動により毛細血管が切れて、炎症を起こしたのと同じ状態にある関節や筋肉を局所的に冷やすことで血流を抑えてリカバリーを促進する効果を期待できる。
氷という身近な材料を使うため、比較的手軽に、日常的に行うことができるのは、アイシングの特徴的な利点。アスリートやコーチとしては、それでリカバリー促進や故障回避の可能性が高まるならぜひとも取り入れたいと感じるに違いない。
開志国際高には全国から優秀なタレントが集まっているが、練習環境としては女子チームとフルサイズのコート1面を共用しながらの活動で、強化には工夫が必要となる。必要なのは、限られた時間と場所で皆が効率よく練習をすることと、最高のパフォーマンスを出せるよう「最高の自分」を体現できるコンディションで臨むこと。前者を達成するために、約2時間半のチーム練習では目的意識に貫かれたドリルを計画どおりに遂行するよう徹底する。そして後者のためにアイシングが有効な手法となる。
富樫監督は、「今、例えば大会1ヶ月前で何が一番怖いかとなると、やっぱり怪我」とコンディショニングの重要性を語る。「学校行事などで全員そろってのチーム練習ができないときでも、怪我をしないように集中してプレーするよう気を配っていますよ」
アイシングを取り入れたコンディショニングは、今ではチームの伝統
開志国際の体育館に入るとすぐに、「ロックアイス®」というブランド名が記された大きな冷凍庫が目に入る。学校側の理解と企業の協力により、選手たちが使いたい時に氷をすぐ使えるようにしているのだ。
「ロックアイス」は小久保製氷冷蔵の登録商標で、日常的にも広く使用されているいわゆる「かちわり氷」で知られるブランド。コンビニやスーパーで見かけたことがあるという読者も多いのではないだろうか。ところが近年では、家庭やアウトドアなどのレジャーで使われるだけではなく、熱中症対策やアスリートのコンディショニングをサポートするスポーツケアの分野に用途広がっているのだ。プロや大学の強豪チームとの提携も複数行っているが、サポートを受ける側にすれば、身近にあり手軽に使える氷という物質の特徴を生かした非常に有用性の高い提案といえるだろう。
開志国際でも大いに活用しており、富樫監督によれば「練習後に選手はもう大体やっています。特に痛みがあるかないか以上に、習慣として膝に当てておこうかなというような感覚で、怪我したときはもちろんですが予防のアイシングもやっています」とのことだ。
コンディショニング面の工夫はハード面だけではない。プロレベルで豊富な経験を持つ菊元孝則トレーナーをスタッフに迎え、最新の理論と実践を高校生たちに落とし込んでいるのだ。菊元トレーナーの知識や考え方は富樫監督もコーチ陣にも共有されており、選手の起用や怪我からの復帰に関する戦略にも生かされる。これまでの取り組みを経て、「アイシングを取り入れたコンディショニングは、今ではチームの伝統」と菊元トレーナーは話す。「富樫監督をはじめコーチ陣や私が指示する前に、選手たちは自主的に考えて毎度の練習や試合でやってくれています。一度離脱してしまったら、短期間で復帰するのは非常に難しいことも理解しているのだと思います」
さまざまな工夫を通じて、練習に臨む姿勢や自己管理意識を高めていこう — 勝負の前にその舞台に立てないような悔しい思いをしないために、また個々の長期的な成功を夢見ながら、富樫監督以下全員がこんな姿勢でチーム一丸となっていることが、開志国際の躍進の土台だ。アイシングがその中で華々しく脚光を浴びることは少ない。しかし実は、非常に有用性の高い「裏技」のような取り組みと捉えることができるのである。