月刊バスケットボール6月号

亡きチームメイトと共にたどり着いた全国の舞台(徳島・城東)【インターハイ2021】

 

 2017年以来となるインターハイ出場を果たした城東(徳島)。大会初日の1回戦で、強豪・東海大付諏訪(長野)と対戦した。

 

「コロナ禍で他県への遠征もできず、経験のない今の選手たちにとって全国は知らない世界。だから初出場の気持ちで臨みました」と城東を率いる泉直哉コーチ。その言葉どおり、先制点こそ思い切りの良い速攻で#4森田那知が挙げたが、その後は諏訪のフィジカルの強さや速さなど「県内にはないレベル」(森田)に苦戦。1Qで10–34と出鼻を挫かれると、その後も#4森田を起点に反撃を図るが大きく開いた点差は縮まらず。最終スコアは52-99で試合終了となった。

 

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 強敵相手に完敗だった。だが、チーム一丸となってつかんだ価値ある全国の舞台をムダにはしなかった。「自分たちのやりたいバスケットが全国の強豪相手に40分続かないのは分かっていました。でも1回でも多くやってみよう、点差が何点開いてもチャレンジし続けようと。コートに立たなければ分からないものもありますし、その収穫は大きいです」と泉コーチ。

 

 

 そんな城東の選手たちには、どうしても全国に立ちたい理由があった。ベンチに置かれていたのは、青いユニフォームを着た熊のぬいぐるみと1枚の写真。昨夏、亡くなった当時高校1年生の山本力瑠(りきる)だ。「バスケットを楽しみに入学してきた子だったのですが…」と泉コーチが言うように、山本は中学時代に県選抜にも選ばれていた期待の選手。だが無情にも、海の事故で帰らぬ人となった。

 

 チームメイトの訃報に「理解できないくらい、言葉で表せないくらいショックでした」と#4森田。だがチーム全員で前を向き、毎日の練習や試合では山本の写真を抱えたぬいぐるみをベンチに座らせることに。「力瑠を全国に連れていこう」。その一心で、日々の練習に邁進してきた。

 

 

 昨年のウインターカップ予選では、決勝で海部にわずか2点差で敗れ悲願達成とはならなかった。そして今年の県新人も海部に敗退。

 

 だが、三度目の正直で臨んだインターハイ予選では80-60でライバルを破り、うれしい全国出場を果たした。「ウインターカップ予選では山本くんを連れて行けなくて、『今年こそは』とチームで一つになって戦いました。県で優勝できたときは本当にうれしかったです」と#4森田。

 

 悲しみを抱えながらも前を向き、まだ見ぬ世界の扉を開いた城東。このインターハイで得た収穫を持ち帰り、今度は冬の全国へ――。チャレンジはこれからも続いていく。

 

 

○取材・文/中村麻衣子(本誌編集部)

○写真/石塚康隆、本誌編集部

 

(月刊バスケットボール)



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