月刊バスケットボール5月号

Bリーグ

2021.03.22

王者アルバルク東京が直面する正念場【#バスケが観たいです】

 2018年、19年とBリーグのチャンピオンシップを獲得しているアルバルク東京は、3月12日に行われた天皇杯ファイナルラウンドの準決勝で、宇都宮ブレックスの前に力尽きた。

 

 この試合はエースの田中大貴が右下腿筋損傷で欠場、腰痛症で離脱が続いていたアレックス・カークこそ戦列に復帰したものの、本来のパフォーマンスとはほど遠く、宇都宮の強固なディフェンスを崩すには至らなかった。

 

 今季のA東京はクラブ内で新型コロナのクラスターが発生したことで、順調に形になり始めたチームは一定期間活動をストップせざるを得なくなり、開幕を前にチーム構築は半ばリセットを余儀なくされた。その影響もあってか、12月までは13勝11敗と勝ち越して入るものの今ひとつ調子が上がらない。ただ、年明け以降は本来の姿を徐々に取り戻し、3月22日時点では1月以降で13勝7敗と徐々に強さを取り戻し始めている。

 

 

 振り返れば2019年、連覇を達成した年も苦しいシーズンだった。この年は「いかにバスケットに集中する環境を作るかという部分はみんなかなり苦労したし、順風満帆ではなかった」と当時クラブに所属した馬場雄大(メルボルン・ユナイテッド)が振り返ったように、公私両面で乗り越えなければならない壁が多かったシーズンで、最終成績は44勝16敗という高勝率でフィニッシュしたが、結果は東地区3位。52勝8敗(勝率.867)という驚異的な勝率をマークした千葉ジェッツ、49勝11敗(勝率.817)と続いた栃木(現宇都宮)が東地区を圧倒したことが理由だった。ちなみにこのシーズンの千葉と栃木の勝率は、Bリーグ開幕から昨季までの中で歴代トップ2。このシーズンの千葉と栃木を除いて、レギュラーシーズンの最終勝率が8割を超えたクラブ16-17シーズンの川崎ブレイブサンダース(49勝11敗/.817)と17-18シーズンのシーホース三河(48勝12敗/.800)以外には存在しない。

 

 ともあれA東京はリーグ4位の勝率にもかかわらずワイルドカード扱い。すなわちクォーターファイナルとセミファイナルを敵地で戦わなければならなかったわけだ。クォーターファイナルでは中地区の王者・新潟アルビレックスBBに2ゲームで辛くも勝利、セミファイナルでは西地区の王者・琉球ゴールデンキングスを3ゲームで何とか退けた。東地区を制したライバル千葉の待つファイナルへとコマを進めた。

 

B.LEAGUE FINAL 2018-19『千葉vs.A東京』より

 

 ファイナルの千葉戦は最終スコア71対67。結果から言えば接戦をモノにし、見事な連覇を達成したわけだが、試合はタフなものだった。前年のファイナルでA東京に圧倒された千葉は、大野篤史HCも「本当に我慢強くなりました」と称賛を惜しまないほどのメンタル的にタフな集団に成長。実際、3Qで最大19点のリードを作ったが、4Q残り26.5秒には富樫勇樹の3Pシュートで2点差まで詰め寄られた。

 

 ただ、ここで大崩れしなかったのはルカ・パヴィチェヴィッチHCが最も大切にするディフェンス、そして球際への執着心が理由だった。この試合では執着心が勝負どころの終盤でリバウンドという形に表れ、最後の最後まで粘り続けたことが勝利に結び付いたと言っていいだろう。

 

 ディフェンスについても象徴的なシーンがあったことを覚えているだろうか。それは4Q残り9分15秒からのプレー。A東京はトップでボールを持ったギャビン・エドワーズに全くパスを出させず、最終的にはタフな3Pシュート打たせる完璧なディフェンスを披露したのだ。当時の映像はぜひとも見返してみてほしい。このディフェンスこそ、パヴィチェヴィッチHCが追求する完成形に近いものであり、それまでに積み重ねてきたA東京の全てが凝縮されたシーンだったと言える。「やっている僕らも『これだ』と思ったし、それを誰もが体感したと思います。コートに立っていた千葉の5人は『攻められない』と感じたはず」と馬場も誇らしげだった。こうして18-19シーズンの3地区全ての覇者を破り、A東京がリーグチャンピオンの座に就いたのが今から約2年前のことだ。

 

ワイルドカードから勝ち上がり、リーグ連覇を果たしたA東京

 

 そして今季、2020-21シーズンのレギュラーシーズンも残すところ16試合。現時点ではチャンピオンシップ圏内のワイルドカード2枠目を争っているA東京だが、前述した田中の欠場に加え、カークも天皇杯後に腰椎椎間板外側ヘルニアの診断を受けたことで、3月15日にインジュアリーリストへの登録が発表されてしまい、規約により最低でも4月15日までの30日間は再登録することができない。

 

 優勝した過去2シーズンと比べても非常に苦しい状況だ。カークの穴を埋めるべく獲得したジャマール・ソープや3月に入って戦列復帰を果たし、田中に代わって先発を務める小酒部泰暉ら、残されたメンバーで二枚看板不在の正念場をどう乗り越えていくか。そして、3月8日のサンロッカーズ渋谷戦後に「少し気がかりなのがディフェンスで相手を抑えられていないところ。過去3シーズンのようにもっと安定感を求めるディフェンスをしてほしい」とパヴィチェヴィッチHCが本音を漏らしていたディフェンス面をどう仕上げていくか。この2つはA東京に課された難題だ。

 

エース田中の分も奮闘が期待される小酒部(左)と司令塔・安藤誓哉

 

 ただ、「3年間ずっと一緒に戦ってきた大貴さんとアレックスがいないのはもちろんチームにとっては痛いですが、彼ら2人がいない中でのチームワークは徐々に高まってきていると感じています。ここでもっと勝ち切ることができたならば2人が戻ってきたときにチャンピオンシップを取れる準備ができると思いますし、逆に今、ケガ人がいることを言いわけにしてしまったのなら、チャンピオンシップを戦うチームにはなれないのではないかというくらいの気持ちでいます」と安藤は強気な姿勢を崩さない。その言葉どおり、2人がいないからこそのレベルアップもあり得るはずだ。

 

 チャンピオンシップは約2か月後。ディフェンディングチャンピオンのシーズンがどう言った結末を迎えるのか。A東京の終盤戦から目が離せない。

 

#バスケが観たいです

B.LEAGUE FINAL 2018-19『千葉vs.A東京』バスケットLIVEで再配信中!

https://basketball.mb.softbank.jp/videos/6112

 

(月刊バスケットボール)



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