月刊バスケットボール8月号

ウインターカップ2020「佐藤久夫先生、なぜ優勝できたか教えてください!」(前編)

 昨年のウインターカップ、主力選手を2人欠きながらも大接戦を勝ち抜いて見事な優勝を飾った仙台大明成高。紙一重の差で明暗が分かれたが、そこにはどんな策略やドラマがあったのか。「優勝した後にあれこれ振り返りたくない」という佐藤コーチを説得し、特別に準々決勝、準決勝、決勝の3試合について、映像を見ながら自ら解説してもらった。3月25日発売の月刊バスケットボール5月号ではその前編として、準々決勝と準決勝の裏側を大公開!(※下記に一部抜粋)

 

★準々決勝(vs.福岡第一) 64-61


<解説1>
相手をリズムに乗せないために
各Q10分のうち7分間はコントロール

 

 

 福岡第一戦に向けて、選手たちには「走らせない」「ビッグマンに注意」ということと、「各Qを7分と3分で区切る」というテーマを設けました。我がチームには「ゾーンディフェンスは基本的に速攻を狙う」という原則があるのですが、このルールに則って走り合いになると、福岡第一をリズムに乗せてしまう可能性がある。自分たちにも走る力はあるのですが、練習中、簡単にシュートを落とす選手たちの姿を見ていたので、40分間走り合うことは避けたいと思いました。だから各Qの最初の7分間は、ゾーンディフェンスながらも慌てずコントロールして良いシュートで終わることを意識させ、残りの3分間は思い切りよく走って攻めることを意識させました。スカウティングもできていないですし、こうしたペース変化、区切りのあるバスケットで相手の調子を狂わせ、自分たちが主導権を握ろうと考えたのです。
この考え方は、準決勝の北陸戦でも指示しました。しかし実際には両試合とも、7分間と3分間であまり緩急の差を付けられませんでした。むしろ「(速攻に)行けるときは行け」「シュートは迷うな」とも指示していたので、「最初の7分間でも思い切って攻めていいのだろうか」と選手たちを混乱させてしまったと思います。特に、#5一戸や#7越田といったガード陣に迷いが生まれましたし、#10(山内ジャヘル)琉人も戸惑ってシュートの確率が落ちました。勝てたから良かったものの、相手のリズムのみならず自分たちのリズムもちぐはぐになるような、諸刃の剣となりました。経験したことのない戦い方でしたし、選手たちに戸惑いを与えるような、逆効果の注文だったかもしれません。
それがこの試合のロースコアゲームにつながったと思います。ロースコアな重い展開に持ち込もうと計画していたわけではなく、自然とそうなってしまったに過ぎません。ただ、結果的にはロースコアだからこそ点差があまり開かず、苦しい展開でも追い付くチャンスが生まれました。

 

 
<解説3>
“平常心”を持つ難しさと
ベンチメンバーの心構え

 

 

 今年度はコロナ禍で試合経験が浅いこともあり、全国大会の緊張感の中で平常心を持つことがすごく難しかったと思います。特にベンチメンバーがそうでした。競ったゲームの中で急に指名されてコートに送り出されても、ガチガチに硬い。福岡第一戦でも北陸戦でも、激しくディフェンスに当たられ、交代した選手がミスする場面がありました。
ただ、それは控え選手たちに力がないわけではなく、こちらの指導不足です。控え選手もスタメンとあまり変わらない平均的な力を持っているのですが、スタメンにはない難しさがある。体も冷えていますし、彼らの中には「この試合で活躍できれば次はもっと出場時間が伸びるかも」というオーディションの意識もあります。そうした状況においても平常心でプレーすることは、高校生にはなかなか難しい。控え選手としての準備や心構えを、もっと常々言っておかなければいけなかったと感じました。
試合を見ながら、観客や応援団になってはいけません。場面、場面で自分だったらどうするかをイメージし、ベンチで一緒にプレーしていなければいけないのです。その目的意識が薄れていると、いざコートに出たときに焦りや硬さが出てしまうと思います。

 

 


★準決勝(vs.北陸)60-58

 

<解説1>
北陸に突かれた
ゾーンディフェンスの弱点

 

 

 もしも私が仙台大明成のゾーンディフェンスを崩そうと思ったら、例えば1―1―3のゾーンに対しては2ガードで攻めるのが有効だと思います。北陸は、その2ガードの距離の取り方が絶妙でした。すなわち2ガードの2人が、トップに位置するディフェンスが1人ではギリギリ守り切れない距離を保ってパス回しをしてくる。そのため1―1―3の真ん中にいる2人目の選手が前に出てきて、2―3の形にならざるを得ませんでした。そうなると、1―1―3(2―3)の下の3人の両脇、ウイングの選手が待ち構える形となり、足が止まってしまいます。このように北陸はアウトサイド陣に力があり、ハーフコートでのスペーシングが非常にうまいチームでした。
また、ゾーンを仕掛ける我々が最も嫌うのは、ドライブで切り込まれるのを許すことです。ドライブをきっかけに良いオフェンスを作り出されたり、留学生がオフェンスリバウンドに入りやすいシュートを打たれたりするからです。北陸は得意の外角シュートを決め、ディフェンスの意識が外に向いたところでドライブしてフローターを決めてきました。4番の選手(土家)や控えの8番の選手(加藤)にそれを許したことで、相手に流れが傾きました。8番の選手は元気があり、チームを勢い付けていたと思います。控えの選手にチームを活気付けられるのは、前年度、インターハイやウインターカップで我々が北陸に負けたときと同じパターンです。

 

※続きは月刊バスケットボール5月号で!

(文・中村麻衣子/月刊バスケットボール)



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