月刊バスケットボール5月号

【ウインターカップ2020】最後の10分間に込められた“豊浦らしいバスケット”

 昨年のウインターカップ2回戦。豊浦(山口)は帝京長岡(新潟)と対戦し、残り2.2秒で劇的な逆転勝利を収めた。長身の選手が少なく、ディフェンスがいかに頑張るかが生命線となる豊浦だが、その持ち味を存分に発揮した試合として記憶されるものとなった。

 

 迎えた今年のウインターカップ大会2日目。豊浦は1回戦で宇都宮工(栃木)と対戦した。宇都宮工はスタメン5人のうち4人が身長180㎝台で、そのうち2人は188cm。豊浦も3人の180㎝台を擁するが、最長身でも181㎝だ。大型のチームを相手にどう戦うかが、今年もチームのテーマであったことは変わらない。

 

 試合は、宇都宮工が序盤から#6鈴木聡汰、#5大出雅輝の連続3ポイントで6-0と先制。豊浦はキャプテンの♯13西田颯稀が返して初得点を挙げ2‐6とするも、ここから宇都宮工は各選手が攻守で躍動感あるプレーを見せて流れをつかみ、試合開始から3分をすぎたところで2‐13と豊浦は防戦に回った。

 

高さで上回る宇都宮工に対し、序盤から苦しい展開を強いられた豊浦

 

「大きい相手との練習試合や対外試合が、やはりコロナの影響でできませんでした。昨年の経験を持っている選手もいるので、大きな選手への対応を意識することを練習でも求めてきましたが、実戦の経験の浅さが出て、体がコンタクトする競り合いで相手に優位に立たれてしまいました」。試合後、そう語った豊浦の枝折康孝コーチは、さらにこう続けた。


「そうなったときに、ディフェンスで粘ってブレークで点を取るということを今までやってきたのですが、本当に半歩、一歩のハンズアップ、半歩、一歩の間合いの部分の甘さというのが、今回は出てしまいました。相手に優位に立たれ、精神的に余裕を持たれながら“やり合い”をしてしまうと、頑張ってもこういう展開になる。ゲーム中はすごく苦しいな…と感じていました」

 

 3Qを終わっての得点は、豊浦から見て54‐93。いかに豊浦が自分たちのバスケットができず、相手に走られてしまったかがわかる。


しかし、迎えた4Qの戦いぶりには、“豊浦らしさ”が凝縮されていた。このピリオドの得点は、豊浦から見て39‐13。


「最初は、自分たちのフォーメーションをやりながらも、1対1のタイミングが遅かったり、“行く!”となったときにも視野が狭まったまま、連動性なく対抗してしまったりしていました。一人一人が攻め気を持って、積極的にリングに向かっていく中での連動というのが今まで求めてきたバスケットですが、(4Qは)それを実践的にやってくれました」(枝折コーチ)

 

 そして、今年度最後の試合を終えた枝折コーチは、慈しむような眼差しでこう語った。


「リングを見てバスケットをするということやってくれた3年生には、本当に『ありがとう』と言いたいです。1、2年生もその姿を見てくれたので、次につなげていきたい」

 

“豊浦らしいバスケット”を見せるべく、チームは最後の10分間を気持ちを込めて戦った

 

 キャプテンを務めた西田は、「後輩たちに『小さくても勝てるんだぞ』というところを絶対に見せたかったので、今日のようなバスケットをしてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいです。4Qは最後の10分間だから、絶対に40分で勝つのは豊浦だという話をしました。その最後の10分を、自分たちはディフェンスから走って、どんどん得点を重ねて、点差を気にせずに狙って、最後は逆転しようと…」


最終的な得点は、93‐106。追いつき、追い越すことはできなかったが、最後の10分間には、困難だったこの1年間に選手たちが積み重ねてきた努力と、あとを継ぐ後輩たちへの思い、これまで支えてくれた人たちの感謝が込められていた。


それは、実に“豊浦らしいバスケット”だった。

 

☆本日(12月25日)発売の月刊バスケットボール2月号では、連載『指導者Interview』で豊浦高 枝折康孝コーチのインタビューを掲載。

 

写真/JBA
取材・文/村山純一(月刊バスケットボール)



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