月刊バスケットボール5月号

【ウインターカップ2020】あの元日本代表選手が指導者として全国大会デビュー

 6年ぶり3回目の出場となる千葉英和(千葉)。そのベンチには、元日本代表で今年春に現役を引退した藤岡麻菜美さんの姿があった。今年6月、自らの母校である千葉英和のアシスタントコーチ(以下Aコーチ)に就任。その初年度に、チームは待望久しいウインターカップの出場権を獲得した。

 

 「(新型コロナウイルスの影響で)学校がずっと休校となり、6月の中旬くらいから部活は再開したのですが、その同じタイミングで自分も関わることになったので、選手とはまだ半年間くらいしか一緒にはやっていません。でも、引退する3年生が多い中で、残ってくれた3人(♯4志村愛莉、♯5阿部久里香、♯8高根澤伽心)が一生懸命にチームを引っ張ってくれました」と藤岡Aコーチは語る。

 

相手ブロックをかわしつつシュートを放つ④志村愛莉

 

 大会初日、対戦したのは5年連続13回目の出場となる中津北(大分)。序盤は拮抗した戦いを見せた千葉英和だが、小さなミスを相手に突かれて連続得点を許し、徐々に引き離されてゆく展開に。⑥田丸実来が4本の3ポイントを決めるなどしてあと一歩まで迫る場面が幾度もあったが、結局61‐66で敗れ初戦を突破することはできなかった。

 

 「“らしさ”というものがまったく出ていなかったので、緊張しちゃったのかな…。常連校ではないので、全国の舞台慣れという面に関しては、中津北さんのほうが余裕を持って戦っているなと感じました。イージーシュートも全部落ちてしまったので、あとはもうディフェンスを頑張ること、自分の得意なプレーを思いきり悔いなくやってこいと、今日はそれしか言えなかったです」と藤岡Aコーチは試合を振り返った。

 

 指導者として初めて臨んだウインターカップを、藤岡Aコーチはどう感じたのだろう?
「自分がやるより教えるほうが難しいな…と思います。自分がやるほうが楽です、感覚があるので。それをいかに選手たちに伝えて、実践するまでに導いていけるか。今はまだ指導者としての力が本当にないので、一つずつ自分の力を付けていきたいと思います」

 

森村義和コーチ率いる千葉英和。

藤岡Aコーチはそれを陰で支えながら母校の後輩たちの指導にあたる

 

 キャプテンを務めた志村は、「以前から、キャプテンとしてチームを引っ張っていこうという思いはあったのですが、そんなに行動には起こしていませんでした。麻菜美コーチが来てから感じたのは、声を出すことが一番大事だということ。それからは、自分が一番声を出してチームを引っ張っていこうと思うようになりました」と自身の変化を語る。さらに、「1対1のやり方で“こういう技があるよ”と教えてもらったものが、今日、実際の試合でできた場面があったので、良かったなと思います。負けたことは悔しいですが、その中でもいいプレーが何本も出て、(3年生として)最後の大会が楽しくできました」と笑顔を見せた。

 

 半年という短い時間ではあったが、指導者と選手との絆は確かに結ばれた。藤岡Aコーチは指導者としての大きな第一歩を踏み出し、そして、来春には初めて送り出すことになる選手に、大舞台を笑顔で振り返ることのできる思い出をプレゼントした。

 

 今、大きな不安とともに、世の中は見えない敵との戦いに直面している。そんな中、多くの人の努力によって奇跡のようにウインターカップは開幕した。まるで宝箱のような体育館の中では、勝者も敗者も皆、大きな輝きを放っている。

 

写真/JBA

取材・文/村山純一(月刊バスケットボール)



PICK UP