月刊バスケットボール5月号

NBA

2021.03.29

渡邊雄太(ラプターズ)のオフェンス面のアジャストメントについてニック・ナースHCにフォローアップ・インタビュー

ナースHCはブレイザーズ戦で渡邊を試す可能性に言及した(画像をクリックするとインタビュー映像をごらんいただけます)

 

早ければ3.27対ブレイザーズ戦で渡邊を試すかも…

 

 日本時間3月20日の対ユタ・ジャズ戦以降の直近5試合中4試合で出場機会を得られていない渡邊雄太(トロント・ラプターズ)について、日本時間3月28日(アメリカ時間)に練習後の会見に応じたニック・ナースHCにコメントを求めてみた。冒頭のジャズ戦を前にして問いかけたときは、渡邊についてディフェンス面でのスペシャリスト的な役割を期待していること、また対戦相手に3Pラインとペイントの間のスペースでプレーをさせられそこからのパスやフィニッシュをしづらい状況に追い込まれていると言った趣旨の話をしてくれていた。その約一週間後、アジャストメントの状況はどうなのか。
ナースHCは渡邊が自己中心的にならずにボールをシェアしようとしている点に触れながら、「局面を読めるようになる必要があります(I think that he’s gotta be able to read what’s available for him)」と切り出した。以下、その回答をひととおりまとめてみたい。

「彼は非自己中心的で、良く動くし、ドライブしてキックアウトができ、良いパッサーであり、といった感じのプレーヤーです。でも、ボールをバスケットに入れてほしい時もあります。
彼はそれをわかってきていると思います。最近あまり多くプレーしていませんが、相手を抜いたら、ボールを手放すよりもバスケットにねじ込む方法を見つけるべき時があります。ディフェンスが広がって1対1になったら、このリーグでは得点できるようにならないといけません。
本当に、点取り屋になってほしいということではないんです。決めるべき場面で決めるということですね。このところあまり機会を得られていませんが、だからと言ってもう得られないということではありません。我々の周辺は物事が変わり続けているので、“空き”ができるでしょう。早ければ明日(日本時間3月29日[アメリカ時間28日]の対ポートランド・トレイルブレイザーズ戦)にも、何人かのプレーヤーたちと一緒に起用して試すかもしれません」

 

 

チーム構成の変化の中で結果を残したい


ナースHC自身の英語での回答は以下のような流れだった。
“Again I think that he’s gotta be able to read what’s available for him. I think that he’s a little, naturally he’s unselfish and he’s a good cutter and he’ll drive it and kick it out and he’s a good passer I think he’s like that. But he’s gotta…, at some time, he’s gotta take the opportunity to put the ball in the basket, right?”
“I think that he’s getting to know some of those…, lately hasn’t played all that much lately but, you know there’s time when he is getting by his man and getting to the area where he needs to figure out a way to get it in the basket rather than fire it out because the defense is kind of expanding back and it’s a one-on-one situation. In this league you’ve gotta be able to score those.”
“I mean it’s not really…, you know we’re not asking him to be a huge scorer. We’re just asking to make plays, the opportunity of plays that are in front of him. He hasn’t got a great opportunity lately but it doesn’t mean he’s not going to. I think there’s…, as some things continue to shift with us, I think there will be an opening here. Well, I would say as early as tomorrow probably to find him in the rotation with some certain guys and see what it looks like.”
ナースHCの言う「決めるべき場面がきたら決める(We’re just asking to make plays, the opportunity of plays that are in front of him.)」は必ずしも得点だけではなく、他者へのセットアップも含め決定的な得点機を生むことを指していると思われる。実際前回のインタビューでナースHCは、必ずしもショットで終わらなくてもよいという考え方を明らかにしていた。
現状は、その決定的な仕事を短い時間で成し遂げることが望まれるが、決して能力的にできないことではないだろう。ナースHCは一週間前に渡邊のアジャストメントをサポートしたいと言っており、この日も翌日のブレイザーズ戦での起用に言及していることからも、構想の中での期待感はこれまでと変わっていないと感じられる。

 ラプターズは現在18勝27敗(勝率40.0%)のイースタンカンファレンス11位で、レギュラーシーズンは残り27試合。仮に現時点でプレーオフ自動進出が可能な6位に位置しているアトランタ・ホークスの成績(23勝22敗、勝率51.1%)がそのままプレーオフ進出ラインと想定して、最終的に全72試合消化後その勝率に到達しようと思えば、37勝35敗という成績が目標になる。それに到達するには残る27試合で19勝8敗という成績が必要で、相当高いハードルだ。ただしカンファレンス10位までが出場できるプレーイン・トーナメントに関しては、現状の順位を一つ上げるということであり、そこまでハードルは高くない。
一方、ロスターはトレードデッドラインをまたいで大きく変動した。ブレイザーズとのトレードでゲイリー・トレントJrとロドニー・フッドという2人のガード・フォワードを獲得し、得点源の一人だったノーマン・パウエルを手放した。また、マット・トーマスをユタ・ジャズに、テレンス・デイビスをサクラメント・キングスに、それぞれ将来のドラフト指名権と引き換えにトレードしている。
このインタビュー当日のインジャリー・レポートを見ると、ディアンドレ・ベンブリー、パトリック・マコー、ポール・ワトソンがブレイザーズ戦に関して“Out(故障欠場)”となっている。
ラプターズは、タンクして今年のドラフトでロッタリーピックを獲得しようという考えに傾かない限り、残る27試合で新戦力をチームに馴染ませながら勝利を手にしようとするはずだ。一方で今年のドラフト指名権は1つしかなく、トレードで指名権を得ることもなかった。過去にもドラフト上位で逸材を指名してチームを作り直すよりもトレードやフリーエージェント(FA)獲得とプレーヤー・ディヴェロプメントでチームを育ててきた経過を見れば、タンクを指向しない公算が強いのではないだろうか。
その前提に立てば、トレントJrとフッドを含め重用されそうなメンバー8人(2人の他にフレッド・ヴァンヴリート、カイル・ラウリー、パスカル・シアカム、OGアヌノビー、アロン・ベインズ、クリス・ブーシェイ)を軸に、過去5試合でポイントガードの控えとして安定して出場機会を得られているマラカイ・フリンと渡邊というロスター構成で、残り27試合に勝ちに行くということになる(FA市場でフロントラインのあらたな人材獲得の可能性もある)。

 渡邊に対する評価はディフェンダーとしての能力だけでなく練習や試合に向かう姿勢を含めて確立されており、オフェンス面で望まれている課題も明確だ。206cmの渡邊はラプターズのロスターにおいてシアカム、ブーシェイと並んでベインズ(208cm)に次ぐ長身でもある。これまで継続してきた練習の価値を信じて結果が出るときを待つほかない。

 

取材・文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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