NBA

2021.04.05

日本人対決を前に八村 塁(ウィザーズ)をニック・ナースHC(ラプターズ)が分析 - ラプターズ対ウィザーズ戦前日練習後会見より

 

コーチ哲学の違いを示すロング・ツーの考え方


八村と渡邊のプレー、ラプターズとウィザーズのプレーは当然さまざまな違いがあるが、その一つにショットチャートの違いがある。渡邊のそれは3Pエリアとペイントにシューティングスポットが集中しているのに対し、八村は、上記のコメントでナースHCも述べているように、どこからでもショットを狙ってくる。特に、3Pラインの外側でボールを受けたときにディフェンダーがクローズアウトしてくると、絶妙のショットフェイクから一つドリブルしてアークの内側に入り、ロング・ツーを打つシーンがたびたび見られる(極端にロング・ツーが多いわけではないが、ロング・ツーでも躊躇せず、リズムが良ければ打ってくる)。
 ラプターズウィザーズのショットチャートを比較すると、これらが偶然ではないだろうことがうかがえる。その点について、「あなたのプレーヤーはあまりそうはしないですよね」と問いかけると、ナースHCは「以前、カワイ・レナード(現ロサンジェルス・クリッパーズ)という男がいましたが、彼は打っていましたね。サージ・イバカ(同じく現クリッパーズ)、彼もそうでした。あたらしくやってきたゲイリー(トレントJr)も打ちます」と答えた上で、「コーチ哲学の違い、やりたいことが違うんです」と説明した。

 ナースHCはどちらかと言えば、3Pとペイントでの得点を強く意識していることが、ショットチャートから見て取れる。その点がやはり考えの違いとして捉えられるのかだろう。ただ、かたくなにその考えに縛られてはいないだろうことを、次のようなコメントで明かした。「かつて私は至近距離で得点するか、そうでなければ打たないという考えが強かったですが、(ロング・ツーを)どんどん狙っていいプレーヤーがいると考えるようになりました。それが正解のケースがあるんです。ショットクロック(の残り時間)が影響することもあるし、他にも多くの場合でそうすべき理由が見つけられるでしょう。まずは2Pのレンジで攻めてから3Pショットを打ち始めたいプレーヤーもいます。試合のリズムの中でそうしたいプレーヤーもいます。でも、これはコーチ哲学の違いで、どちらかが正しく、どちらかが間違っているということではないと思います。2得点を獲りにいく攻め方で何度もチャンピオンシップを獲得したチームがあるわけですからね」
2つ目の質問に対するナースHC自身による英文での回答は以下のような流れだった。
“We used to have a guy named Kawhi Leonard, (laugh), he used to take some of those and Serge Ibaka would take some. I think it’s…, Gary’s taking some now, our new player Gary Trent. It’s…, I think it’s different coach’s philosophy and different…, what they wanna do.”
“I used to…, I came from…, a very short-two you scored or we didn’t take any of them ever. But I kind of think that there are certain guys that can take them a lot of times. It is the right play. A lot of times the shot clock is in play. And then a lot of times there’s other reasons maybe for that. You just try to get the guy going first from two. Then he can start shooting threes. Some guys feel better that way in the rhythm of the game. But I think that it’s again coach’s philosophy and neither one is right or wrong ’cause I think you can…, we can all sit here and picture a lot of guys who made two point shots with a lot of championship rings.”
こうした考え方の違いを反映する両チームのプレーの中で、もしも渡邊と八村のマッチアップが実現するとしたらどんな応酬になるのか。アウトサイドでの八村は、不用意にクローズアウトしていけば上記のようなドリブル一つからのプルアップで得点できるので、最初から常に、相当タイトについていかなければいけなくなるだろう。また、ラプターズがオフェンス・リバウンドを頑張らないと、トランジションで八村がフロントランナーとなり、ラッセル・ウエストブルックからのタッチダウン・パスを受けてダンク連発といったことも想像できる。
ビールと八村の出場が微妙なウィザーズに対し、ラプターズはバックコートのフレッド・ヴァンヴリートの出場が微妙で、カイル・ラウリーは欠場の見通し。ヴァンヴリートが出られない場合にはマラカイ・フリンをスターターに起用するとナースHCは話していたが、そうなればフリンにとってはウエストブルックとマッチアップする非常に大きなチャレンジとなる。
八村にはディフェンス面で、こと渡邊に関しては得点の阻止だけでなくキラーパスを出させない工夫と、オフェンス・リバウンドを獲らせないフィジカルなプレーが必要だ。
一方渡邊に最も期待されるのはリバウンドとディフェンスなのは間違いない。オフェンス・リバウンドを獲れれば、ウエストブルックと八村によるトランジションの脅威を減らせる。それはリーグ屈指のスピードを誇るウィザーズをスローダウンさせることにつながるだろう。オフェンスでもしも3Pショットが1本、2本決まると、ウィザーズにとっては2ケタ得点とられたのと同じほど、あるいはそれ以上にダメージになるのではないだろうか。それはラプターズがやりたいバスケットボールができている証しと取れるからだ。

 日本人対決の可能性に加えてプレーオフ、あるいはプレーイン・トーナメント進出に向けた競争でも両チームはしのぎを削っている(ラプターズが19勝30敗でイースタンカンファレンス11位、ウィザーズが17勝31敗で同12位)。ナースHCは「タンクという考え方は語るに足りない」と言ったコメントもしていた。両チームのロスター全員が元気にプレーできることを願うばかりだ。

 

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取材・文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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