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2021.08.12

NCAAファイナルフォートーク - バスケの熱狂から差別のない社会を作りだせ

 こうしたさまざまな難しい問題に直面しているアメリカ社会において、ファイナルフォートークは最低でも3-4年は続けていきたい、そうするべき企画だと、バットもロバーツも意欲的だ。「いろんな見方や概念を、いろんな人の物語を通じて、将来に伝える場として発展させたいです。世界中の大学の学長や体育局長など、社会的地位の高い人びとに、この場を介してそれが響いていくかもしれません。その人々の心を動かすことができれば、その人自身のビジネスや学生とのやり取りの中で、それが伝わっていくかもしれません。将来どんな形になるかはわからないとしても、前向きなきっかけになることができると思っているのです」(ロバーツ)。その言葉から、NCAAが社会正義に対してこれまで以上に敏感に反応しながら発展していこうとしている姿勢も感じられた。

 

 どの国の若者たちにもこうした知識や現状について知り、考えるきっかけがもたらされるようにとの意図で、このイベントの一部はNCAA公式サイトで公開されている。その手法と影響力の大きさにNCAAが価値を見いだしたことが、前述のとおりNCAAファイナルフォートークを来年以降も継続する判断につながった。


来年の男子ファイナルフォー開催地となるニューオリンズでは、イベントの手法をリアルとバーチャルのハイブリッドにする意向だという。「コロナが終息しているよう願い、来年はぜひ現地の会場に来場者を招き入れて講演を実現して、同時にライブストリーミングをやりたいです。さらに改善して複合的な手法を模索していくつもりです」


NCAA関係者の胸の内には、日本のバスケットボール・チーム、大学やさまざまな学校の人々に、このイベントを活用してほしいとの願いもあるとのことだ。「梶川さんの講演を見れば、日本ではまだまだ性差や性的志向に起因する偏見や差別(ジェンダーイクイティー[=gender equity]とジェンダーイクオルティー[=gender equality])に関する課題が山積しているように感じます。アメリカではサッカーの女子アメリカ代表プレーヤーが、実績として足元にも及ばない男子アメリカ代表と同じ報酬を得られていないことなどが課題として語られていますが、日本はどうでしょう? そうした課題への取り組みを前進させるきっかけに、NCAAファイナルフォートークを活用してほしいと思っています」とバットは熱っぽく語る。


「これからの世代に、そうした議論ができる世界を作るのがこの企画のねらいです。『自分がリーダーになったら、ジェンダーイクイティーが達成され、誰にも同じように機会が与えられる世界を作るんだ』と考える若者が出てきてくれるように願っています」

 

バット(左)と対談している右側の人物はNABCのクレイグ・ロビンソン。ロビンソン氏のような人物から、問題意識がさらに広がっていくことを、NCAAは期待している(写真/©NCAA Final Four Talks)

 

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取材・文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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