月刊バスケットボール5月号

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2021.03.17

ヒル真理(足羽高校卒、ボーリング・グリーン州大4年生) - アメリカで手にしたもの(1)

福井県立足羽高校卒業後の2016年に渡米したヒル真理が、現在4年生として所属しているボーリング・グリーン州大(BGSU)の一員としてポストシーズンWNIT(Women‘s National Invitation Tournament)に出場する。一番の夢だったNCAAトーナメント出場はかなわなかったが、ごく限られた者にしか巡ってこないビッグイベントを大学でのキャリアのフィナーレとして体験することができる。日本時間の3月5日未明に行ったヒルとのインタビューを基に、アメリカで過ごしたこれまでの5年間を振り返る。

 

ヒル真理(ボーリング・グリーン州大4年生) #11|168cm|PG

 

アメリカに行きたいとは思っていなかった

 

 今年のBGSUは、所属のミッドアメリカン・カンファレンス(MAC)が行った各チームのコーチ陣へのアンケートによるシーズン前予想では11位フィニッシュだったが、終わってみれば14勝4敗の成績でMACのレギュラーシーズンにおいてチャンピオンとなる大番狂わせを演じた(ノンカンファレンス・ゲームとMACチャンピオンシップを含めた通算では、3月15日時点で20勝6敗)。躍進のきっかけは、2018年に新任ヘッドコーチのロビン・フラリックがチームを率いるようになり、リクルーティングに大きな変化があったことのようだ。
フラリックHCはディビジョンIIのアッシュランド大で104勝3敗という驚くべき勝率を残し、全米制覇も1度達成した有能な指導者。BGSUでの最初の2シーズンは思うように成績を残せなかったが、1年生を6人加えスターターも下級生で固めて臨んだ今シーズン、周囲の予想を覆す大躍進を遂げた。
ヒルのBGSU加入は2018-19シーズン後のオフ。フラリックHC体制での2シーズン目に入る夏であり、強化に向けた最初のステップとしてチームに望まれての加入だった。2019-20シーズンにスターターとしてチームをけん引した後、今シーズンはチーム構成が変わったことに加えケガも重なり出場機会が減った。ただし、経験不足が懸念されたチームを上級生としてまとめる役割を担っており、それが個人成績では見えない貢献をもたらしていることを、チームの成績が示している。
ヒルが渡米したのは福井県立足羽高校卒業後の2016年だが、子どもの頃は留学に対する意欲はなかった。父親がアメリカ出身だが、アメリカで過ごした時期も長かった兄・ライアン(理奈)と姉・恵理が英語を話す一方で、自身は日本で育ったため英語が得意ではなかったことがコンプレックスとなっていたそうだ。「アメリカに行きたいと思っていなかったんです。チャレンジするのが怖くって。英語もわからないし…」
それでも、年上の2人がともに留学してバスケットボールを楽しみながらキャリアを作っていく姿はヒルの目に刺激的に映っていた。NCAAトーナメントという世界でほかに類を見ない大舞台があることもわかっていた。父親からも母国の文化を学んでほしいとの思いとともに、応援するよと声をかけてもらった。「誰にでも巡ってくる機会ではないと思って」と一念発起したヒルは、高校卒業を前に留学を決意する。

 

NJCAAで全米制覇を成し遂げ、次なるステップへ

 

 渡米時の最初の留学先は、フロリダ州にあるIMGアカデミーだった。ここでのプログラムは一般にポストグラッド(post grad)と呼ばれるもので、高校卒業後一年間をかけて大学に入る準備過程を提供するプログラムだ。ヒルはここで、英語の勉強とバスケットボールのトレーニングにフォーカスする緊迫した時間を過ごした。「一年間にどれだけ大学やジュニアカレッジにアピールしてオファーをもらえるかが勝負。私もそれが目標で、DI(NCAAディビジョンI)からオファーをもらってバスケをする夢に近づけるための、最初の大事な一年でした」とヒルは当時を振り返った。
一年間の努力は実り、ヒルの下にタラハシ・コミュニティー・カレッジ(TCC)という短大からのオファーが舞い込む。NJCAA(全米短期大学体育協会)ディビジョンIに所属する強豪チームだった。目標をNCAAのディビジョンIに定めていたヒルだが、コーチの薦めもありこのオファーを受けることにした。短大を選択したのは、英語力をさらに向上させつつプレーする機会も得やすい環境に魅力を感じたからだったという。
その選択が正しかったことを、翌年ヒルは証明する。ヒルが加入した2017-18シーズンにNJCAAの全米トーナメントに第11シードで出場したTCCは、一発勝負を5試合勝ち抜いて全米制覇を達成したのだ。この大会でヒルは、最初の3試合こそ平均7.3分の出場で際立った数字を残していないが、準決勝と決勝では勝利を引き寄せる大きな貢献をもたらした。
第2シードのガルフコースト州短大を78-68で破った準決勝では、33分間コートに立って14得点(FG成功率35.7%、3P成功率50.0%)、4リバウンド、2スティール。そしてトリニティーヴァレー短大を69-51で下してチャンピオンとなった決勝では、27分間で8得点(FG成功率50.0%)、2リバウンド、1スティール。勝負強さを感じさせたヒルの活躍を中心に、TCCはNJCAA史上最もシードの低い(数字としては大きい)位置から勝ち上がったチャンピオンとして大会の歴史に名を刻むことができた。
ただ、「チームの文化が自分に合わず、精神面でストレスを感じる部分がありました」というTCCにヒルは1年間しか在籍せず、全米制覇直後の夏にサウスジョージア・テクニカル・カレッジ(SGTC)に転入することとなる。
SGTCはTCC同様にNJCAAのディビジョンIに所属する全米的にも強豪と呼べる短大であり、実力が伴わなければ転入はあり得ない。しかし、TCCでのヒルは前述のビッグゲームにおける活躍を含め34試合に出場(そのうち19試合はスターター)しており、実績は十分だった。IMGアカデミー時代のコーチ陣の後押しもあり、この転入の話はスムーズに進んだ。
その上、ヒルよりも前にSGTCに在籍していた鈴木神乃(現在サウスキャロライナ大エイキン校所属)のプレーや姿勢が、日本人プレーヤー自体の評判を大いに高めていたこともプラス材料となり、ほぼ即決でことが進んだそうだ。「IMGのコーチが先方に話してくれていて、タラハシでのシーズンが終わった時点でサウスジョージアにビジット(学校訪問)し、コミット(転入の意志を書面上でも明確にすること)してもう次(のシーズン)から転校ということになりました」(パート2に続く)

 

こちらの画像をクリックすると、月バス公式YouTubeチャンネルでインタビュー映像を閲覧可能!

 

写真/BGSU Athletics

取材・文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール) 



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