月刊バスケットボール6月号

Bリーグ

2021.02.16

ケイン・ロバーツ(東京Z) - BリーグからNCAAディビジョンIに飛び込むサムライの物語(7=最終回)

ケイン・ロバーツ(アースフレンズ東京Z)がNCAAディビジョンIのストーニー・ブルック大学への入学オファーを受けたこと、あるいは入学の意志を固めたことは、チームとヘッドコーチの東頭俊典氏にとってどんな意味を持っているのか。2人へのインタビューでさらに聞かせてもらった(収録は1月16日)。
文/柴田 健(月バス.com) 協力/アースフレンズ東京Z 、Kris Thiesen(Tokyo Samurai)

 

Bリーグから世界へ、東京Zから日本代表に…という期待を背にロバーツはパイオニアとしての道を進んでいる(写真/©B.LEAGUE)

 

 東頭HCはロバーツを馬場雄大(豪NBLメルボルン・ユナイテッド)と引き合わせたこともあるという。馬場はロバーツについて「同年代だった頃ここまでうまくはできなかった」と舌を巻いたそうだ。だからこそ東頭HCはロバーツに、日々戦いとなるNCAAディビジョンIでの競争にもへこたれないだけの自信を備えてほしいと願う。

 

――東頭HCから見てロバーツ選手が今のうちに身につけておくべきものは内面的要素が多そうですね。

東頭HC アメリカに行ったら毎日が戦いなので、そこで生き残るメンタルタフネスを身につけてほしいです。今日もアレクサンダー・ジョーンズ(206cmのパワーフォワード)とケンカしていたくらいなのですが、毎日そんなことを積み重ねて強くなってくれたらいいですね。練習中は常に勝つんだという気持ちを表に出して、コートに立ったらとことん戦って。そういうメンタリティーを持っているときと持っていないときがあるので、今のうちにそれを身につけていってもらいたいです。


――言葉の壁がないアメリカでは、そういう意味でもやりやすいでしょうね。
ロバーツ 間違いありません。カリフォルニアで過ごした高校のシニア時代には言葉で困ることはなく、初日から皆とやり取りできましたから。大学でも問題はないでしょう。率直な思いをそのまま言えますからね。

 

――「アスフレ」としては、一年でいなくなってしまうとファンも寂しがるようなことがあると思うのですが…。
東頭HC ミッションとして「世界に通用する人材を輩出する」ことを掲げているアスフレですが、今のところ日の丸を背負う人材を出せていません。これまでには、現役の岡田優介選手、以前在籍した渡邉拓馬さん、かつてヘッドコーチだった小野秀二さんと古田 悟さん、そして僕自身もアシスタントですが日の丸経験者として籍を置きました。でも、「アスフレから」はゼロなんです。ケインにはそれができる可能性が十分にあります。
一年でお別れではなく、帰国したら一緒にここで練習していいんだし、応援もしますよ。アスフレやBリーグファンの皆さんにも、彼が切り開いた道が本当に大きいということをわかった上で応援を続けてほしいです。

 

ロバーツ 現時点では、自分のやっていることの意義をすべて理解できていないところがあると思います。でも将来の子どもたちにとって大きなことなのかもしれません。最初にトップリーグを経る形で夢をかなえる道筋を示せたとなれば…。大学でも頑張って高いレベルで成功し、またBリーグに戻ってきたりして、次世代への手本になれたらうれしいです。

 

――ほかの大学からのオファーもあるかもしれませんね(1月25日時点で口頭にてストーニー・ブルック大学入りを表明済み)。
ロバーツ 誰もが知るケンタッキー大やでデューク大などでプレーするのは子どもの頃からの夢でした。でも現実的にはトップ中のトップではなく、自分を成長させてくれるミッドメジャーで頑張るのが得策です。チャンスがあればトランスファーを考えるかもしれませんが。


東頭HC ケインのリクルーティングにはものすごく多くの人が動きました。NCAAのルールに違反しないことに非常に気を遣い、僕自身がNCAAの理事会メンバーに問い合わせましたし、ルールを細かく調べたりコールセンターに電話を掛けたアスフレのスタッフもいたし、彼のご両親もいろんなことを調べました。トウキョウサムライのシーセン クリス マコト氏もそうですね。皆が一枚岩になって実現させたことなのです。
今回、「これはオーケーだ」というのが初めてわかったので、これはアスフレだからこそできたことだとは思いますが、今後は日本の一般的な進路選択のスタンダードに発展してくれたらいいと願っています。日本人にもチャンスがある。これまでは例えばスラムダンク奨学金などで一人選ばれないとバスケ留学が難しいという状況でしたが、こんな道筋もあるのだと。その意味で、ケイン、君は必ず成功しないとな!(笑)

 

 東頭HCはロバーツが世界への扉をこじ開けたことの意義を強調するとともに、ロバーツのストーニー・ブルック大学進学後の活躍がいっそう大きな意義を持つだろうことも示唆した。もしも主力の座を勝ち取ってNCAAトーナメントで活躍するようなことが起これば、有名校に所属していない若者たちにも将来の大きな可能性を示すことになるだろう。ウインターカップやインターハイなどの機会に恵まれたなら、それはいっそう現実的だ。
日本のトップリーグでいわゆる「2部」にあたるB2で、スターターでもなく出場時間も10分そこそこのプレーヤー。それがロバーツの現在地だ。にもかかわらず、NCAAのディビジョンIに所属するミッドメジャーのチームから、奨学生としてのオファーが舞い込む時代になった。だからこそ、この年齢でトップリーグ入りすること自体に非常に大きな意義があるという東頭HCの主張は的を射ている。
東頭HCによれば、数年前からアメリカでの日本人評は急上昇しているという。NBA入りを果たした渡邊雄太(トロント・ラプターズ)、八村 塁(ワシントン・ウィザーズ)あるいは馬場といった“海外組”だけでなく、田臥勇太(宇都宮ブレックス)、松井啓十郎(京都ハンナリーズ)、伊藤大司(滋賀レイクスターズ)、富樫勇樹選手(千葉ジェッツ)をはじめとした、過去に渡米して日本人プレーヤーの価値を示した先輩たちの功績も大きい。アメリカの大学から日本人プレーヤーが求められる時代が到来しているのであり、Bリーグだけでなく大学や高校の試合も見られていることを前提に考えるべきだ。
それにしても、昨夏の東京Z入団からまだ半年にも満たない時点でのビッグニュースは驚きだ。「最近伸びていると感じていたので、もう少ししたら来るかなぁ…と思っていたんですが、『今来るんだ!』という感じでした。“C-ケイン”でスカラシップが来ちゃいましたね(笑) これが“A-ケイン”になったらどうなっちゃうのかなと思いますね!」と東頭HCも素直に驚きと喜びを言い表していた。最後に「今シーズン中はロバーツ選手はどこにも行かないですよね?」と聞くと、東頭HCは笑顔でこう答えた「もちろんです。オフェンスがC-のままでは外には出せませんよ(笑)」

 

国内の高校生たちにもロバーツ同様のチャンスがあると東頭HCは語る(写真/©B.LEAGUE)

 

(月刊バスケットボール)



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