月刊バスケットボール6月号

Bリーグ

2021.02.13

ケイン・ロバーツ(東京Z) - BリーグからNCAAディビジョンIに飛び込むサムライの物語(4)

知る人ぞ知る存在だったケイン・ロバーツが、昨夏のアースフレンズ東京Z入りで一躍脚光を浴びるようになるまでの様子はあまり知られていない。その成長を見守ってきたシーセン クリス マコト氏(トウキョウサムライのディレクター兼U18ヘッドコーチ)に、「それまで」を聞いた。

文/柴田 健(月バス.com) 協力/Kris Thiesen(Tokyo Samurai)、アースフレンズ東京Z

 

トウキョウサムライのプロフィール写真のロバーツは今以上に少年の表情だ

 

 筆者自身が初めてロバーツのプレーを直に見たのは、NBAが主催するバスケットボール・ウィズアウト・ボーダーズ アジア2019のスクリメージだった。アジア太平洋地区各国から集まった同年代のプレーヤーの中でもロバーツのスピードとハンドリングテクニックは際立っていた。ただ、不勉強な私はロバーツについて事前に詳しく知っていたわけではなかった。いったいどんな少年だったのだろうか。

 

 「私がコーチをしているセントメリーズ・インターナショナル・スクールがらみのキャンプで、彼が8年生(中学2年生)のときに初めて会いました。運動能力は高かったです。ただ粗削りでバスケットボールというものを理解できていませんでした。次の冬にもキニック高校(横須賀の米軍従事世帯向けの学校)のジュニアバーシティー・チームでプレーするケインを見ましたが、良くなってはいたものの運動能力頼みで、鍛えられてはいない印象でした」(シーセン氏)

 

 ロバーツがトウキョウサムライのキャンプに参加したのは2018年の春。“サムライボーラー”になりたい子どもたちにとってのトライアウトの機会だ。そこでのロバーツも、ポテンシャルはあるもののプレーのしかたを理解していない状態だったという。特にオフェンスばかりに気を取られていた点を、シーセン氏は問題視した。

 

 「我々が子どもたちに話すのは、皆が大学コーチに気に入られるようなプレーをできるようにトレーニングするということです。試合で勝つことばかりを追いかけているわけではないんですよね。勝てればいいし、勝ちたいですが、正しいやり方でそういったものを求めたいのです。きちんとマンツーマンで守ることができ、ピック&ロールの攻防を熟知し、オフェンスで自己中心的にならず、きちんとした態度で全力プレーを見せられるようにするのです」(シーセン氏)

 

 当初ロバーツにはそういったことの体現が難しく、U15、U16、U17の選抜チームに入ることができなかった。それでもシーセン氏は「君が変わり、成長して期待に応えてくれるところを見たい」とロバーツを諭し、チームへの帯同こそ認めなかったが、練習生として迎え入れることにした。

 

 「何度も話し、自身のプレーぶりを収めたビデオを見せていくうちに、彼は徐々に理解し始めたと思います。2ヵ月くらいたったころだったと思いますが、私たちは彼をU16チームに加えることを伝えました。もともと力はあったと思いますよ。でも、それは勝ち取ってもらわなければなりません」(シーセン氏)

 

 ケンドリック・ストックマン(横浜ビー・コルセアーズ)、モサクオルワダミロラ雄太ジョセフ(セント・トマスモア・プレップスクール)、 江原信太朗(東海大、U16日本代表)らが在籍していた当時のトウキョウサムライは粒ぞろいだった。しかしロバーツはその中で辛抱強く戦い、渡米して参加したトーナメントで好プレーを見せた。

 

 「あれはロバーツと彼の父親が我々ととことんやっていくかつもりどうかを見極める機会になりました。彼は堂々戦い逃げなかったんですよね。アメリカの子たちはうまくいかないと別の機会を求めてどこかに行ってしまうようなこともあるんです」(シーセン氏)

 

 シーセン氏は年を経るにつれロバーツの内面的な成長を実感してきた存在だ。しかし、ディビジョンIのオファーを獲得できた要因をどうとらえているのか。

 

 「理由を一つに絞ることはできませんが、直近の数ヵ月に限って言うならば、コロナ感染拡大下にあってBリーグでプレーできたことですね。セント・トマスモア・プレップに行った子も、ロードアイランドにあるセント・アンドリュース・プレップに進んだ子もプレーできていないために、コーチに見てもらえる機会がないのです。ケインは厳しい競争に身を置いてハイレベルなプレーをしています。東頭HCの力も大きいですよ。ケインがディフェンスをしっかりやるようになり、どれだけ守れるかを見せられていますから。シューティングもよくなりました。東頭HCとチームが、バスケットボールにどう向き合うべきかを指導してくれているからにほかなりません。それはかけがえのないことだと思います」(シーセン氏)

 

 シーセン氏自身が特段のつながりを持っていなかったストーニー・ブルック大学からリクルーティングの連絡で返答があったのは、ロバーツの対佐賀バルーナーズ戦でのハイライト映像を送った後が初めてだったという。筆者とこのやり取りをした1月14日の時点でシーセン氏は、ロバーツに向けられる関心がアメリカでも高まっているのは間違いないと断言した。

 ここまで、シーセン氏とのQ&Aを通じてロバーツがストーニー・ブルック大学からの入学オファーを得るまでを振り返ってきた。次回以降は、ロバーツ本人と東頭HCに直接聞いたインタビュー内容から、ロバーツの今後の展望と、この出来事が持つ意味合いを論じていく。(パート5に続く

 

2月6日・7日の対西宮ストークス戦でのロバーツは、両試合とも20分以上の出場時間を得、特に6日の試合では自己最高の18得点を記録した(写真/©B.LEAGUE)

 

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