月刊バスケットボール5月号

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2021.05.22

渡邊雄太(NBAラプターズ)と2021WNBAを語るキア・ナース(マーキュリー)

 日本時間5月15日(アメリカ時間14日)に、WNBAが記念すべき25シーズン目の開幕を迎えた。新型コロナウイルスのパンデミック下、今シーズンは12チームがそれぞれ32試合をこなす日程が組まれている。ディフェンディング・チャンピオンはかつて渡嘉敷来夢(現ENEOSサンフラワーズ)が所属したシアトル・ストーム。開幕から1週間となる5月22日までに、すでに全チームが少なくとも1試合を消化し、徐々に熱気も高まってきている。
WNBAは、アメリカ代表候補はもちろんのこと、オーストラリアやスペインなどFIBAランキング上位のナショナルチームでの活躍が知られるアメリカ国外のプレーヤーも多々登場する、女子バスケットボール界における世界最高の舞台として多くの関係者やファンに認識されている。また、日本の競技関係者にとっては、楽しむだけではなくスカウティングの場でもあるだろう。日本でも、アプリを通じて非常にリーズナブルな価格で全試合を見ることができるのだ。
直近の公式戦を見ることで、例えば今夏開催が予定されている東京オリンピックで女子日本代表のプレーヤーたちがマッチアップする相手のプレーをチェックできる。身長などのスペックに加えて、やはりそのプレーヤーたちのコート上での様子を見ることで、どんなマッチアップになるかをより深くイメージできるというものだ。また、例えばルイビル大学で今野紀花と共にプレーした、デイナ・エバンス(ダラス・ウイングス)のようなプレーヤーも開幕ロスターに名を連ねている。将来は今野自身、あるいはほかの日本人プレーヤーにとっての活躍の舞台になる可能性も大いにあるだろう。
今シーズンのWNBAは、NBA同様ズーム会見に日本から参加させてもらえるので、ここまでに何試合かで取材させてもらっているのだが、話が聞けた何人かの一人にフェニックス・マーキュリーのキア・ナースというプレーヤーがいた。マーキュリーでフォワードとして活躍するナースはカナダ代表でもある。

 東京オリンピックに向けた最終予選でカナダは日本を70-68で破ったが、この試合でチームハイの19得点を稼いだのがナース。現在のカナダ代表において最大の得点源となっている。東京オリンピックが予定通りに開催されれば、来日の可能性が高いプレーヤーの一人だ。
ナースは2020-21NBAシーズンにおいて、トロント・ラプターズの試合中継でコメンテーターとしてたびたび登場していたので、NBAファン、ラプターズファンの間ではおなじみの人物かもしれない。所属するマーキュリーは、かつて萩原美樹子をや大神雄子も所属したチーム(大神はキャンプ参加)。その点でも、日本のバスケットボールファンとしてもなじみやすいのではないかとも思う。
取材したのは日本時間5月19日の対ワシントン・ミスティクス戦。12得点を挙げて91-70で快勝に貢献した後のナースが、ズーム会見に参加してくれた。
WNBAのプレーヤーは、例年だとオフシーズンとなる秋から冬にかけて国外リーグでプレーするケースが多い。ナースも過去2年間は秋冬にオーストラリアのWNBLでプレーし、夏場にWNBAでプレーしていた。しかしパンデミックの影響で今シーズンは流れが大幅に違い、オフを母国で過ごしたそうだ。そのような背景を持つナースなので、今シーズンの特異性と、ラプターズで今シーズン活躍した渡邊雄太に関して質問させてもらった。

 

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ラプターズのコメンテーターも務めていたナースは渡邊雄太についてもいろいろと話してくれた(写真をクリックするとインタビューが見られます)


例年と大いに違う現状についてナースは、「私にとっては本当に特異なシーズンです。オフシーズンはウチにいましたが、過去2年間はオーストラリアでプレーしていましたから。たぶん7年生(日本でいう中学校一年生)以来初めてというほど、バスケットボールをする必要がない時期を過ごしました」と話した。「特異な状況の中で、時間を取って体を作り直し、昨シーズンの故障にも対応できたので、それまでよりずっといい調子になってシーズンに戻ることができているんですよ。過去2シーズンよりも体調がいいので、それはこの状況下で良いことです」
“This is a really unique season for me. Just being at home in the off season as opposed to Australia where I was the last two years. For the first time since probably I was seventh grade, this is the first year I haven’t had to play basketball 12 month out of the year. And so, the uniqueness comes in and I was able to kind of sit down, work on my body a little bit more, clean up some injuries that I had from last season and come back feeling a lot better. My body feels better than it has in a couple years out here and so that’s a great part of it.”
コンディションが良好になったことはポジティブに捉えているようだが、カナダの安全衛生プロトコル下で、本格的なバスケットボールはできていなかったという。「ジムに一度に入れるのは2人までという時期もあり、難しかったです。それでは(シーズンに向けた)準備が十分にはできません。でも、ここまでに3試合で来たのはよかったです。感覚が良くなってきているし、試合中の連携という意味で必要なケミストリーもチームメイトとの間でできてきていますから。でも、私の準備を手伝ってくれた地元のサポートチームの人々には、本当に感謝しています」
“There wasn’t a lot of competitive basketball especially. With health and safety protocols in Canada, not being able to get more than two people in a gym at a time and so that was difficult. There’s not a lot that can kind of prepare you for that. But this has been great to get three games under my belt. Now I’m starting to feel a lot better out there obviously building chemistry with my teammates as well in terms of just in-game competition. But I’m grateful for the team I had at home to help me prepare.”
渡邊雄太については、非常によく見ているようだった。「ラプターズを今シーズン取材する機会があり、ものすごく魅力的なプレーヤーだと思って見ていました。彼の努力と毎試合見せてくれる奮闘ぶりが大好きです。ロールプレーヤーとして、今年のラプターズのチームの中で、彼はベンチから出てきて、ディフェンス面でもいいプレーを見せてくれていました。とても大きくて、スウィッチを好むチームディフェンスの中で相手を混乱させることができていたと思います。3Pショットも良く入りますし、プレーヤーの育成がうまいラプターズというチーム、組織にあって楽しみな存在ですね。このままラプターズで大きく伸びていってくれるでしょう。あのように力いっぱいプレーしてくれて毎試合奮闘を続けてくれたら、NBAでもすごいプレーヤーになれると思いますよ!」
“In terms of Yuta Watanabe, I did have the opportunity to cover the Raptors this year a little bit this year and I mean he’s an absolutely fantastic player to watch. And I just love his effort and his hustle that he plays with each and every game. I think as a role player especially with this Raptors team that they had this season his ability to come in off the bench and make plays whether that was on the defensive end because obviously he has a great size so he can kind of switch with them and that’s what they like to do to play a little bit more chaotic way but also his ability to knock down the three. And this is the Raptors team and organization that’s really good at developing their players. I think Watanabe is gonna be great as he continues to develop with this Raptors team. And he’ll be a great player in the NBA if he continues to build that energy and that hustle he plays with every game!”

 朗らかに答えてくれるナースの話から、カナダでのパンデミック対応の詳細まではわからない。しかし、日本とは異なるやり方でさまざまな方針を打ち出してバスケットボールを前進させようとしていることと、個別のプレーヤーたちがその中でキャリア構築に真摯に取り組んでいる様子が伝わってくる。
また、ナースがエリートプレーヤーだからというのもあるのかもしれないが、女子プレーヤーたちが男子バスケットボールに精通していることも強く感じられる。ほかにも何人かのプレーヤーが会見で話すところを聞かせてもらっているが、コービー・ブライアントやラッセル・ウエストブルックらNBAのレジェンドやスタープレーヤーたちについて本当によく知っているのがわかる。中継で試合が止まるハーフタイムやタイムアウトの間には、NBAプレーヤーを例にしたスキル解説も入ってくるのだ。

 WNBAは日本のバスケットボールファンにも性別によらず楽しめるポイントがあるので、この夏はフォローしてみると面白いかもしれない。 

 

オリンピック最終予選の対日本戦で林 咲希(ENEOSサンフラワーズ)との1対1に臨むナース(写真/©fiba.basketball)

 

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取材・文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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