月刊バスケットボール6月号

NBA

2021.02.10

渡邊雄太vs.八村 塁 - 2.11「日本人対決」前に見ておきたい数字

 

実現するか? NBA史上3度目の日本人対決2021

 

 美しい歌声と美貌、切れの良いダンスでファンを魅了した沖縄県出身のエンターテイナー、安室奈美恵さんが引退して今夏で3年になる。そのファイナルステージの場で、同じ沖縄県出身のアーティスト、BEGINのボーカルを担当する比嘉栄昇さんがはなむけに贈った言葉を覚えている。「(BEGINが)一生懸命ボートを漕いでいたら、奈美恵ちゃんが飛行機でビューンって飛んでいって…」。比嘉さんたちにとって後輩の安室さんが、勢いよくスターダムに駆け上ったことを温かく表現した言葉だった。

 BEGINにも安室さんにも、多くの人々が何度となく心を動かされてきたことだろう。どちらもそれぞれの感性で強烈にファンの心に飛び込んできて、独特な魅力に満ちた世界に連れて行ってくれる。
安室さんが引退した3年前の夏は、バスケットボールファンにとっても歴史的な夏だった。渡邊雄太がツーウェイ契約でメンフィス・グリズリーズ入りを決めたのだ。日本人として、田臥勇太(宇都宮ブレックス)以来となる史上2人目のNBAプレーヤーの誕生だ。
日本のバスケットボールの進化はそこで止まることはなかった。翌2019年夏には、今度はNBAドラフト1巡目9位で八村 塁がワシントン・ウィザーズ入りを実現し、日本中のバスケットボールファンを熱狂させた。
渡邊はその後Gリーグとの行き来を重ねながら3年間かけて、現在トロント・ラプターズのローテーション入りを実現した。八村はデビュー以来今日までの2シーズンで、いずれも2ケタ得点をアベレージで記録している。渡邊の3年間の格闘と、八村のドライチ指名に続く華々しい活躍ぶりには、どちらにもかけがえのないものだ。

 日本時間2月11日(水)の朝(アメリカ現地10日夜)、渡邊のラプターズが八村のウィザーズとプレーする。会場となるキャピタルワン・アリーナはもちろん八村のホームだが、一方で渡邊が大学時代4年間を過ごした“ホーム・アウェイ・フロム・ホーム”でもある。ここまでの道のりも持ち味も異なる両者が、特別なこの場所で史上3度目のNBA日本人対決を見せてくれそうな状況である。

 

過去2度の対決は渡邊のチームが勝利、八村は2ケタ得点を記録


両者の個人的な“直接対決”(正確には直接対決に近い状況)は過去に2度あった。最初は2019年12月14日にメンフィスで行われたグリズリーズ対ウィザーズ戦。渡邊が7分間、八村が29分間出場したこのときは、2人同時にコートに立つ場面も第2Qに約1分間訪れた。一度だけ、八村がボールを持った際に渡邊がマッチアップするシーンもあり、八村はショットまで持ち込んだが得点には至らなかった。試合結果と主なスタッツは以下のようなものだ。

 

グリズリーズ128-111ウィザーズ
渡邊 0得点、3リバウンド、± +8
八村 10得点、4リバウンド、1アシスト

 

 2度目は昨年の2月9日、会場はキャピタルワン・アリーナだったが、このときは2人がコートに同時に立つことはなかった。結果とスタッツは以下のとおりだ。

 

グリズリーズ106-99ウィザーズ
渡邊 0得点、1リバウンド、± +7
八村 12得点、11リバウンド、1アシスト

 

 さて、3試合目がどうなるかはわからないが、二人がコートに立てば、渡邊が2番から4番をカバーするので、直接マッチアップの機会も期待できる。その際どこに注目すると面白いかを勝手に考えてみる。
NBAのスタッツをまとめて発信している『Basketball Reference』を参照して、今シーズンの2人の数字を基にした無邪気な遊びなのだが、八村が平均28分以上出場しているのに対して渡邊は12.4分と大きく差があり起用方法も違うこと、加えてウィザーズと八村がコロナの影響を非常に強く受けてきたことなどを念頭に置いて想像してもらうのが良いだろう。一般的なスタッツだと実情をイメージしにくいと思うため、Per 36 Minutes(36分間出場したと仮定した場合の補正値)で主だった部分をざっと眺めてみる。浮かび上がるポイントは以下のようなものだ。

 

1. 得点: 八村16.5 渡邊9.0
誰にも一番わかりやすい項目である得点は、誰かとこの対決を語らうとき最も話題になるだろう。この項目では八村に明らかなアドバンテージがある。ただし…

 

2. ブロック: 渡邊1.8 八村0.2
渡邊がなかなかのインサイド・プリゼンスを発揮しているので、ウィザーズ側がオフェンスの状況で2人がマッチアップすればペイントで激闘が演じられることとなりそうだ。さらに…

 

3. リバウンド: 渡邊 9.5(オフェンス2.6、ディフェンス6.9) 八村 6.6(オフェンス1.6、ディフェンス5.0)
リバウンドで渡邊の方が上回っている。渡邊とマッチアップしてペイントアタックを試みた八村のショットが落ちた場合、セカンドチャンスはあまり期待できそうにない。逆にそれを八村が奪うようなら、渡邊とラプターズは厳しくなる。八村はフィールドゴール・アテンプトのうち75.8%が2Pショットなので、ペイントに侵入できるかは別にして、とにかくガンガン攻めて込んでくるだろう。

 

 以上から、両者の個別マッチアップという意味では、渡邊のインサイド・プリゼンスに八村がどう対抗するかが大きな見どころではないかと思う。

 渡邊はコートに立っている間にチャンスがあれば、どんどん3Pショットをねらってくる。もし両者がマッチアップする状況でこれが数本決まるようだと、八村にディフェンス面の負荷がかかってくる。コンディションはほぼ戻っているのだろうが、そうなると八村のオフェンスに響いてくることもあるかもしれない。

 ただしこれは両者がそれなりに出場時間を得られた場合の話だ。2人には1秒でも長くコートに立ってほしいものだ。

 

文/柴田 健(月バス.com)



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