月刊バスケットボール6月号

NBA

2022.09.22

ザック生馬に聞くウィザーズ日本語版SNSの現在地とは?【Interview #1】

 

 いよいよ「NBA JAPAN GAMES 2022」が目前に迫っている。八村塁擁するワシントン・ウィザーズを2019年より公式特派員として追いかけ続けるザック生馬さんに、ジャパンゲームズの裏事情や、ウィザーズの日本語版公式SNSの運営についてなどの話を聞いた(取材は8月31日)。インタビューの第1弾は、日本語版公式SNSの運営に関わる苦労話や内情について紹介する!

 

取材・文/堀内涼(月刊バスケットボール)

 

ーー今回のNBAジャパンゲームズに関して、ザックさんたち日本語SNSチームが動き出したのはいつごろからでしたか?

 

 今年の春に公にNBAジャパンゲームズの開催発表会見があった日(3月15日)の2週間くらい前に僕らもそれを知らされました。そこから発表当日までに会見に向けたビデオ制作があり、ウィザーズサイドの我々としてはまずブラッドリー・ビール選手、クリスタプス・ポルジンギス選手、そして八村塁選手にコメントをもらったり、オーナーのテッド・レオンシスさんのインタビューを英語版のメインアカウントに投稿したり、僕がアリーナ前でリポートしたようなビデオを作ったりという作業がありました。また、球団のビジネス部門の代表であるジム・バン・ストーンさんにジャパンゲームズ開催についての話を聞いたりもしましたね。そういった開催発表に関する制作作業が僕らにとっては初めての動きになりました。

 

ーー7月18日にはウォリアーズの日本語版ツイッターアカウントも開設され、ジャパンゲームズに向けてさまざまなところで準備が始まっていますね。

 

 そうですね。ウォリアーズの日本語版アカウント開設について、僕らが協力したようなことは特になかったのですが、そういう噂を聞いていましたね。ただ、僕としては当然の流れだと思いましたし、ジャパンゲームズともウォリアーズとも関係なく、ほかのチームが日本語アカウントを作るのではないかとも考えていたんです。例えば昨シーズン渡邊雄太選手がラプターズで活躍していたときも、ラプターズが日本語版アカウントを作るのではないかとも思ったり。だから、今回ウォリアーズがジャパンゲームズの開催に合わせて日本語版アカウントを作ったのは当然だと思いましたね。

 

ーーある意味ではSNS上にも“ライバル”が誕生したことになりますね。

 

 はい(笑)。最初は噂レベルの話だったのですが、ある日ツイッターを見たら本当に日本語版アカウントができていてびっくり。ウォリアーズはコート上でもすごく強いので、コート上でもSNS上でも、負けていられないと思いました(笑)。ただ、ウォリアーズが日本語版アカウントを作ったことはうれしいですし、僕らが2019年9月にアカウントを立ち上げたときから『他のチームはいつ作るのかな』と思っていたぐらいでした。ウィザーズには八村選手という中心になるキャラクターがいるからこそ、日本語版アカウントを開設できたというのもあるので、だからこそウォリアーズの動きはうれしかったですね。これを機に、渡邊選手が契約したネッツも作ってくれればいいなとか(笑)。

 ただ、本当にこれは自然の流れだと思っていますし、メインストリームの一般メディアに頼らずにチーム自身が日本のファン向けにカスタマイズしたオリジナルのコンテンツを作ることは、日本でのNBA人気を上げるために一番大事なこと。ウォリアーズの日本語版アカウントの開設がNBA人気の底上げにつながると思います。

 

ーーそういう意味ではウィザーズの日本語版アカウントは日本のファンにもかなり浸透してきた印象があります。そういったことを感じる瞬間がありますか?

 

 例えばシーズン中にインタビュー動画を出したりすると、SNSの世界だと「いいね」やビュー数で結果がすぐに表れますよね。でも、実際のところ数字ばかりこだわっていることはなくて、日々の投稿や先を見据えて『この日は日本人対決だね』とか、そういうターゲットを頭に入れつつ業務に当たっています。正直、日々の仕事が結構大変なこともあって、とにかく内容にこだわりつつ結果が出ればいいという気持ちで取り組んでいるんです。その中でビュー数がすごく多いビデオとか、「いいね」がすごく多いツイートが出ると『我々のやっていることは間違っていないんだな』『うまくやれているんだな』『また一つ達成できたんだな』という気持ちになりますね。

 ただ、開設1年目は僕らもどうなるか分からない状況でした。当時、ある記者さんからこんなことを聞かれたんです。あれは八村選手が3試合ぐらい出て、大活躍した後。彼が言ってきたのは「八村はルーキーで、ルーキーというのはすぐに活躍できるか分からない。そんな中で、よくこの仕事のために日本から来たよね」ということでした。

 確かに周りから見たらそうかもしれませんよね。でも、僕はそれがギャンブルだと思っていませんでした。八村選手が日本人として初の1巡目指名を受けてNBAにチャレンジすることはすごいことです。それに乗っかって僕らが日本語のコンテンツを作ることは、リスキーなチャレンジだとは思いません。逆にせっかくのチャンスなのだから、挑戦してみない方がおかしいんじゃないかというくらいでした。結果的には多くの人が見てくれていますし、八村選手も活躍しています。だからこそ、需要と供給の全てがうまく合致したんだなと感じています。

 

ーー現地アメリカでも注目度は高いのでしょうか?

 

 八村選手がライジングスター・チャレンジに選ばれたとき、TNTでの中継中に、実況の方が我々のアカウントの話をしてくれたんですよ。当時はフォロワー数もまだまだでしたが、その中継では「フォロワー数に対するビューアー数、いいね数といったエンゲージメント率がダントツに良い」という話をしてくれました。そのとき紹介されていたリーグ全体のエンゲージメント率で、ウィザーズの日本語版アカウントは28位だと聞きました。NBAが全30チームある中で、言ってしまえばウィザーズのサブアカウントにも関わらず、ほかの数アカウントよりもその率が良かったんです。本当にうれしいことでした。

 僕らは単年で日本語版アカウントの運営に関する契約を結んでいたので、次の年がどうなるかは分からない状態でした。もちろん、球団の一員になれたのはうれしいですが、とにかく日々の仕事が大変だし、最初はあまり考える余裕やSNSが盛り上がっている実感も湧きづらい状態だったんですよね。そんなときに当時球団スタッフで、今はビール選手のPRをしているザック・ローゼンさんが冗談っぽく、「お前ら来年も雇われるな、よかったな」みたいなことを言ってくれて(笑)。そんなことがあって、『これは本当うまくいっているんだな』と感じました。メインチャンネルの中の人にも認められたし、我々がメインチャンネルに負けない結果を出せていることもうれしいです。

 

ーー日々の努力が実を結んだわけですね。

 

 それもありますね。ただ、僕らがすごいと言いたいわけではないです。いかに僕らが発信しているようなコンテンツに需要があったのかということ。例えば何かコンテンツを載せるときに、本当に良いものはすごく数字が取れますが、やっぱり出すコンテンツは水物です。だからこそ何時に投稿したらより見てもらえるかを考えながら載せたりもしますね。だけど、工夫したとしても、たまたまいっぱい見てもらえるものもあれば、そうでないものもあったり。それはメインチャンネルもしかりです。そんなときにメインチャンネルではなかなか数字が取れなかったコンテンツに対して、僕らが丁寧な字幕を付けて、『NBAの裏側はこんな感じなんだよ』と日本語アカウンツで投稿すると、メインチャンネルより数字が取れるなんてこともあったりするんです。まさに、日本では需要があったということですよね。

 ただ、字幕を付けると言っても練習中の選手の声に字幕を付けるのは結構難しかったりもするんです。走りながらしゃべったり、早口で聞き取れなかったり。100%内容を把握しないと字幕は付けられないので、そういう部分は難しいです。そんなことをコツコツやっていく中で結果が出たときは、『僕たちは良い仕事ができているんだな』という充実感がありますね。

 

 インタビュー第2弾は気になるジャパンゲームズの裏事情について、ウィザーズ目線で語ってもらった。記事公開は9月23日の朝7時。お楽しみに!

 

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