月刊バスケットボール5月号

【東海大会】変革の時を迎える桜丘の新指揮官・水越悠太コーチ「どんな状態でもディフェンスで安定したチームがテーマ」

 

 6月18日に開幕した東海大会は初日を終え、男子ベスト4にコマを進めたのは中部大第一、富田、高山西、桜丘の4校。このうち、シードの中部大第一を除く3チームは1回戦からの登場で、ダブルヘッダーでの連勝を飾っている。

 

 中でも、際立った存在感を放ったのが桜丘だ。今年度は、昨年度までの17年間チームを率いた江﨑悟コーチが退任し、新たに水越悠太コーチがそのバトンを引き継いだ。水越コーチは2018年までB3リーグ所属の豊田合成スコーピオンズに在籍し、現役を引退。昨年度までは桜丘高の付属である桜丘中の指導にあたり、今年度から高校へ指導のステージを移した人物だ。

 

 そんな水越コーチが今年のテーマに掲げているのがディフェンス。桜丘は愛知県の第2代表としてインターハイ出場が決まっているが、「実はここまではオフェンスの戦術的なところはほとんど何もできていなくて、練習の8割ぐらいをずっとディフェンスに費やしてきました。今年はディフェンスを崩さない、相手からも崩されないこと。どんな状態でもディフェンスで安定したチームというのをインターハイに向けたテーマにやっています」と、ディフェンスの基礎固めに徹底的に時間を割いてきた。

 

水越コーチは試合中に選手とも積極的にコミュニケーションを取っていた

 

 初日の2試合でも1回戦では飛龍を52得点に抑える好守を見せ、2回戦の美濃加茂戦でも3Q終了時点の10点ビハインド(57-67)をディフェンスで覆し、見事な逆転勝利(88-79)をつかむなど、その力を垣間見せていた。「この東海大会も含めて、今はまだインターハイ用のディフェンスを仕込んでいる段階で、まずは守りの部分を本戦までに作っていこうというところです」と言うが、この先の成長を予感させる出来だったことは間違いないだろう。

 

 そうしたディフェンス力の源となっているのが、チームのパッションだ。司令塔の#91土屋来嵐が「チームではマイナスな部分やそのネガティブな考えになったときに、それを方向を向けないようにすることを目標でやっていて、チームの士気が上がるように意識的にみんなでやっています」と言うように、どんな展開でも選手全員が声を出して味方を鼓舞し、プレーでもガードからフォワード、留学生まで粘り強くルーズボールに食らい付く姿が印象的。

 

抜群の突破力でチームをまとめ上げる#91土屋

 

日本人選手は前線からフィジカルなディフェンスを仕掛けて相手のミスを誘発し、留学生の#7セイ・パプ・マムルと#23ラワル・ソレイマンも3Pラインまでのロングクローズアウトもこなすなど、チームの誰もがハッスルプレーヤーとして味方を鼓舞。その守りから#91土屋、#9平寿哉、#1舘山洸騎らハンドリング力と突破力の高いガード陣を起点に、アップテンポなバスケットを展開し瞬く間にスコアしていくのだ。

 

ストリートボールを思わせる巧みなハンドリングスキルを持つ#1舘山

 

 そうしたスタイルを構築する中でも最も大きな変化は、桜丘の代名詞ともなっているエイトクロスを用いていないこと。それは「僕としては江﨑先生の指導のいい部分を引き継ぎながら、僕自身のカラーを出していきたいという思いがあります。僕は今32歳で、選手とも年齢が近いので彼らのやりたいことを聞いて『これをやりたいです』『じゃあ、それをやってみよう』とか、今いる選手たちにはどういうスタイルが合っているのかを考えながら、合うスタイルをもっともっと伸ばしていこうと思ってやっています」と言う水越コーチが、チームとともに新たなアイデンティティーを構築していることを象徴する出来事なのかもしれない。

 

 就任当初は「最初の1か月くらいは3年生はこっちを向いてくれないんです。彼らにとっては半信半疑なところもあっただろうし、ちょっと距離があって僕も彼らもやりづらかっただろうと思います」と苦労もあったそうだが、対外試合でトライ&エラーを繰り返しながら徐々にチームがまとまりつつある状況が、まさに今なのだ。

 

 築かれた伝統を全く新しいものに構築し直すには、多くの時間と労力が必要だ。まずは東海大会の決勝進出を目指しつつ、来るインターハイへ向けた経験値とスタイルの確立がテーマとなる。伝統のピンクのジャージは、新たな輝きを放つべく変革の時を迎えている。

 

 

写真/幡原裕治

取材・文/堀内涼



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