月刊バスケットボール5月号

トム・ホーバスHC率いる男子バスケ日本代表、5つのキーワード(後編)

ホーバスHCはサイズ以上に技術、スピードを重視し、早いペースを指向する(写真/©JBA)

 

 前編に続き、トム・ホーバスHC率いる男子日本代表の特徴をつかむ5つのキーワードの残る2つをまとめる。

 

4. PGはサイズよりプレーメイク力


東京2020オリンピックに向けた男子日本代表は、特にポイントガードのサイズアップを一つの大きなテーマとしていた。その象徴は身長192cmの田中大貴(アルバルク東京)であり、これが奏功した場面は多々あった。しかしホーバスHCはこの方針を現時点では変えている。ポイントガードの最長身はベンドラメ礼生(サンロッカーズ渋谷)の183cm。実績のあるビッグガードの田中が代表引退を表明した今、ホーバスHCは今回の日本代表については「サイズよりも技術、速さ、プレーメイクでプラスの方が大きい」と明言している。


サイズのある中国代表との試合をにらみ、「ハーフコートゲームになったら相手のアドバンテージ」と捉えるホーバスHCは、フロントラインに関しては意図してダウンサイズしていない。あくまでプレーメイカーに関して、ダウンサイズしてでもプラスを出せる人材をそろえ、ハイペースなバスケットボールを展開したい考えだ。その考えに沿って召集されたポイントガードの代表候補たちは、誰もが判断力に長け、走れてボールキープ力があり、ここぞと思えばペイントアタックも3Pショットも狙える。ディフェンス面でも能力が高く、誰が残ってもそれぞれが異なる持ち味を発揮しそうで、ホーバスHCのスタイルにフィットしそうにないプレーヤーを探す方が難しい。


例えば身長176cmの岸本隆一(琉球ゴールデンキングス)は、前編で最初に触れた代表に向けた気持ちの部分で、他の誰よりも高いモティベーションを持っているかもしれない。何といっても、出身地で現在もホームタウンとしている沖縄市でグループラウンドを開催するFIBAワールドカップ2023への道を切り開けるかどうかがかかっているのだ。その意欲はパフォーマンスに十分表れている。


Bリーグ2021-22シーズンのスタッツをみると、岸本は今回の候補に招集されたポイントガードの中で最もターンオーバーが少なく、バックコート全体でも安藤周人(アルバルク東京)に次いで2番目に少ない。3P成功率は42.5%。レンジの広さも知られている。ベンチから登場して、一定の時間に激しさと安定感の両方をもたらす司令塔を思い描けば、岸本の姿になりそうだ。

 

ベテランらしく琉球をけん引する岸本は初の代表合宿に並々ならぬ意欲を見せている(写真/©JBA)


今回の候補の中で最も小柄な身長167cmの富樫勇樹(千葉ジェッツ)は、ポイントガード登録の6人の中で平均得点が最も高い13.0得点。ご存じのとおり東京2020オリンピック、FIBAアジアカップ2021予選の経験もある。中国代表との2試合で、富樫のクイックネスは相手を翻弄する武器になっていた。ホーバスHCは富樫について、「このスタイルがぴったり。ディープスリーもドライブもあり、ディフェンスができてパスも上手。いいペースを作れる選手」と絶賛している。


平均アシスト数を見てみると、24人中のトップは178cmの藤井祐眞(川崎ブレイブサンダース)で6.4本だ。アグレッシブなオフェンスでファウルをもらうことも多く、フリースローでの42得点もトップ。スティール数26本も断トツであり、さすがは昨シーズンのベストタフショット賞とベストディフェンダー賞ダブル受賞プレーヤーという成績を残している。


寺嶋 良(広島ドラゴンフライズ、179cm)と斎藤拓実(名古屋ダイヤモンドドルフィンズ、172cm)は、3P成功率46.2%がバックコートの12人中でトップタイ。寺嶋はフィールドゴールアテンプト数が富樫、西田優大(シーホース三河)に次ぐ3位で、オフェンスでの積極性が味方にチャンスを生み出し、ひいてはそれがチームの好成績につながっていることがうかがえる。フィールドゴール成功率45.8%も悪くない。齋藤はロングレンジの脅威に加えて6.2アシストも藤井に次ぐ2位。フリースローをもらうことも多く、その確率91.4%は24人中4番目の高さだ。

 

寺嶋は今シーズンの活躍について「自分の持ち味が勝利につながり、自信になっています」と話している(写真/©JBA)


ベンドラメ礼生(サンロッカーズ渋谷)はポイントガード陣の中で平均3.3リバウンドがトップ。特にオフェンス・リバウンド総数21本はフロントラインも含めた24人中のトップだ。これは渋谷の戦術としての結果でもあるだろうが、ベンドラメがその期待に応えるパフォーマンスを見せていることが伝わってくる。ベンドラメはファウルドローン45がポイントガード6人中で藤井に次ぐ2位。これも駆け引きのうまさと果敢な姿勢を示す数字に思える。


こちらのやりたいことを何らかの方法で遂行し、相手にやりたいことを楽にやらせないようにするためのさまざまな強みを持つ6人を軸に、実際にはフロントラインでもプレーメイクができるプレーヤーがいる。彼らの力をホーバスHCがうまく引き出すことができれば、中国代表との2連戦は非常に見ごたえのある試合になるだろう。


5. 「やり切る」ポゼッション増


ホーバスHCのチーム作りは3Pショットを多用し、速いペースを指向する。その中で「ポゼッションを増やしたい」という言葉を、ホーバスHC本人だけではなくプレーヤーたちも発している。これはガードだけが速くても成り立たないスタイルだ。


ポゼッション数やチームとしての平均得点平均失点などの目標値は出ていない。ただし、できるだけ早いペース、できるだけ多いポゼッションという考えが常に念頭にある。


しかしデータを見ると、必ずしも単純なポゼッション増加は勝敗に直結していないように思える。


アジアカップ予選で日本代表は、中国代表と2度対戦して初戦が57-69、2試合目が84-90と、スコア上は大きく異なる展開で2度黒星を喫した。試しに両試合のポゼッションを、NBA公式サイトで紹介されている一般的な計算式で算出すると以下のようになった。


アジアカップ対中国代表第1戦(×57-66)…日本70.2:中国71.4
アジアカップ対中国代表第2戦(×84-90)…日本65.1:中国67.7

 

計算式: 0.96×(FGA+TO +0.44×FTA -OR)
FGA=フィールドゴールアテンプト FTA=フリースローアテンプト TO=ターンオーバー OR=オフェンス・リバウンド


ここで算出しているポゼッションは「攻撃回数」ではなく、「ボールを保持回数」だ。例えばショットの後オフェンス・リバウンドを得て攻撃機会が継続する場合は、1ポゼッションと数える。ホーバスHCが同じ計算式によるポゼッションを指標にしているかはわからないので、あくまで参考としてご覧いただきたい。


上記の計算式の考え方の説明を試みると、ショットで終える攻撃機会(FGA)とそこまでいかずに終える攻撃機会(TO)の和に、フリースローで攻撃機会を終える回数をさらに加え、攻撃機会がショットを打っても終わらなかった回数(OR)を減じる、というのが定義のしかただ。0.96は、オフェンス・リバウンドにはならないがディフェンダーに触れてアウトオブバウンズになりポゼッションが継続する場合を補正する係数。0.44はフリースロー後にポゼッションが換わる確率を考慮した補正係数という説明がなされている。


上記の日本代表対中国代表の試合では、ハイスコアになった第2戦より初戦の方でポゼッション数が多くなっている。これは初戦で日本のターンオーバーが18あり、次の試合では9に半減していたことと、それに伴い3Pアテンプトが2試合目で6本多かったこと(成功数も3本多かった)が大きく影響している。


同じ計算式で、女子代表の東京2020オリンピックでの6試合についてポゼッション数の平均値を出してみると75.8となった(対戦相手は74.9)。6試合中5試合は相手を上回り、80を超えた試合も2試合ある。ただしそのうちの1試合はアメリカ代表との試合で負けていた。

 

 ホーバスHCは同大会に向けた強化合宿時の会見で、ポゼッション数の目標値を80としていたが、この結果は単純なポゼッション増は勝利につながらないことがうかがわせる。アメリカ代表には決勝でも敗れたが、この試合でも77.1ポゼッションと悪くない数字での黒星となっていた。どちらも勝敗に直結したのは日本代表の3P成功率の低迷と、相手のゴール下の強さだった。

 

 しかし、これを相手が消耗しきるまでやり切ることでメリットが出てくることを、女子アジアカップ決勝の対中国代表戦が感じさせてくれる。一見相手のサイズが支配的に思えても、終盤になると足がついてこなくなるのだ。ところがもともとそのペースを自分たちのものにしている日本代表側は、38分、39分過ぎあたりにはつらつとしたプレーを継続して勝利をつかむ。

 

岡田侑大は今回の候補24人の中で最も得点を期待できるプレーヤーの一人だ(写真/JBA)

 

 これが勝ちパターンだろう。これはポイントガードが速いだけでは成し得ない、全員が一丸となった遂行力が必要だ。今回の候補中最高の平均19.1得点の岡田侑大(信州ブレイブウォリアーズ)や、オフェンスにおける爆発力とフィジカルなディフェンスが魅力の今村佳太(琉球ゴールデンキングス)、高確率の3Pショットも魅力の森川正明(横浜ビー・コルセアーズ)らウイングのプレーヤーたちの絶え間ない奮闘に期待がかかる。206cmで最長身の竹内公輔(宇都宮ブレックス)やシェーファーアヴィ幸樹(シーホース三河)、203cmで機動力のあるセンターのルーク・エヴァンス(ファイティングイーグルス名古屋)らがどれだけ走り回って相手のビッグマンを消耗させらえるかがカギとなる。

 

森川正明にも得点面での期待がかかる(写真/©JBA)


彼らの貢献により、前回の対戦で日本代表が健闘した要因だった3Pショットのアテンプト数増加と精度の上昇を期待できるだろう。仮に女子代表のレベル(6試合平均75.8)までポゼッション数を高められるとすれば、前回の対戦(2試合の平均で67.6)から平均で8.2回ポゼッションが増える。前回比10%以上の上昇だが、それ以上の大幅増でハイペースな展開に持ち込み、相手の高さを無力化することを期待したい。

 

文/柴田 健(月バス.com)

(月刊バスケットボール)



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